抗インフルエンザ薬(バロキサビル)の解説
抗インフルエンザ薬(バロキサビル)の効果と作用機序
抗インフルエンザ薬(バロキサビル)の薬理作用
インフルエンザ感染症はインフルエンザウイルスが原因となり、高熱や喉の痛み、関節・筋肉の痛みなどが引き起こされる感染症。
インフルエンザウイルスは細胞(宿主細胞)内に侵入した後、自らが保有するRNAという遺伝情報を細胞内へ放出しウイルス合成に必要な遺伝子やタンパク質を合成することで新たなウイルスを作り出し、作り出されたウイルスは細胞の外へ放出される。これが繰り返されることでインフルエンザウイルスの増殖や拡散がおこる。
宿主細胞に侵入したインフルエンザウイルスはウイルスRNP複合体(ウイルスリポ核タンパク質複合体)というRNAとタンパク質から構成される物質を放出する。このRNP複合体は、ウイルスRNAの転写によるウイルスmRNAの合成と、ウイルスゲノムRNAの複製という作業をそれぞれ異なる手順によって行う。このうち、ウイルスmRNAの合成には宿主細胞の遺伝子転写機構の一部が利用され、核内に侵入したRNP複合体はキャップ構造を持つ宿主細胞のmRNA前駆体を捉えて、これを素材として転写に利用し、ウイルスmRNAを合成する。
キャップ構造を有する宿主細胞のmRNA前駆体を素材として利用するには、キャップ依存性エンドヌクレアーゼという酵素によって、この前駆体を切断しRNA断片を生成する必要がある。
本剤(バロキサビル マルボキシル)は体内で活性化された後、宿主細胞内でインフルエンザウイルス由来のキャップ依存性エンドヌクレアーゼの働きを阻害し、ウイルスのmRNA合成を阻害することで抗ウイルス作用をあらわす。
インフルエンザ感染症の薬物治療では、オセルタミビル(主な商品名:タミフル)、ザナミビル(商品名:リレンザ)、ラニナミビル(商品名:イナビル)などのノイラミニダーゼ阻害薬(細胞内で新たに作られたインフルエンザウイルスが細胞表面から放出されるのを抑える薬)が中心となっているが、本剤はこれらとは異なる作用機序(作用の仕組み)を持つ新規の抗インフルエンザ薬となる。本剤にはノイラミニダーゼ阻害薬に対して耐性を示すウイルスに対しての有用性なども考えられている。
抗インフルエンザ薬(バロキサビル)の主な副作用や注意点
- 消化器症状
- 下痢などがあらわれる場合がある
- 精神神経系症状
- 頭痛などがあらわれる場合がある
- 薬剤投与後の異常行動に関して
- 因果関係ははっきりと解明されていないが、抗インフルエンザ薬投与後に異常行動等の精神神経症状があらわれた事例が報告されているため、本剤においても注意は必要
- 小児・未成年者への投与は特に注意が必要とされ、薬剤の投与後に一人にしないなどの配慮が必要
抗インフルエンザ薬(バロキサビル)の一般的な商品とその特徴
ゾフルーザ
- 単回経口投与が可能な抗インフルエンザ薬(バロキサビル製剤)
- 年齢や体重による服用量に関して(本剤は治療と予防で使用が可能だが、原則として12歳未満かつ体重20kg未満の小児に対しては予防では使用しない。なお、ゾフル−ザ錠10mgは治療にのみ使用する規格となっている)
- 成人及び12歳以上の小児:通常、薬剤成分として40mg(20mg錠を2錠分など)を単回経口投与する
・ただし、体重80kg以上の患者には、薬剤成分として80mgを単回経口投与する - 12歳未満の小児に対して(体重によって投与量が異なる)
・体重40kg以上:通常、薬剤成分として40mgを単回投与する
・体重20kg以上40kg未満:通常、薬剤成分として20mgを単回投与する
・体重10kg以上20kg未満:通常、薬剤成分として10mgを単回投与する
- 成人及び12歳以上の小児:通常、薬剤成分として40mg(20mg錠を2錠分など)を単回経口投与する