インフルエンザワクチンは打つべき?予防接種の効果と副作用
インフルエンザワクチンでインフルエンザは予防できるのでしょうか?また、副作用はないのでしょうか?よくある疑問と気を付けるべき点をまとめます。
目次
1. インフルエンザワクチンの効果は?
インフルエンザワクチンでインフルエンザにかかることをある程度予防できます。ワクチン接種は現在、最も高い予防効果が認められている手法です。
18-64歳の健康成人については、ワクチンによって70%から85%程度のインフルエンザ感染が予防できたという報告が見られます。子供や65歳以上の高齢者では予防できる割合がもう少し低いと報告されており、数十%から70%程度予防できたという報告が見られます。
ワクチンを接種していてもインフルエンザ感染がゼロになるわけではありません。
参考文献:JAMA 2000 Oct 4, N Engl J Med 1995 Oct 5, Vaccine 2011 Feb 17
インフルエンザワクチンは高齢者には効かない?
高齢者もインフルエンザワクチンでインフルエンザを予防できます。
ただし、予防効果は若年成人よりも低いことが知られています。一般的にインフルエンザワクチンは健康な成人や青年で特に高い効果が出ます。高齢者や、持病がある人では相対的に効果が少なくなる傾向にあります。 しかし、ワクチンにはインフルエンザの
また、高齢者のインフルエンザ予防には、ワクチンによる集団
集団免疫とは、健康な小児や成人がワクチンを接種することで社会全体のインフルエンザ流行が抑制され、結果的に高齢者のインフルエンザを減らすという効果です。つまり、みなが予防接種を受けることで、インフルエンザ対して弱い人(子ども、高齢者、免疫の弱い人など)を社会全体で守ってあげるという考えです。
参考文献:PLoS One 2013 Jan 11, N Engl J Med 2001 Mar 22, Clin Infect Dis 2015 Sep 9, Cochrane Database Syst Rev 2015 May 5
2. インフルエンザワクチンの副作用は?
インフルエンザワクチンの接種後には、注射をした部位が赤く腫れたり、熱を持って痛みを生じたりすることがあります。ワクチンの副作用であり、副反応とも言います。これらは局所的な免疫・
全身の発熱や寒け、頭痛、だるさといった症状が出ることもあります。これはワクチンによってインフルエンザにかかったためではありません。ほかの病気のワクチンでも同様に見られる反応です。免疫反応が強く出ていることが原因です。接種を受けた方の5-10%程度に起きますが、数日間で自然に改善します。
また、ほかのあらゆる薬と同じように、インフルエンザワクチンに対する強い
それ以外には、数の極めて少ないこととして、インフルエンザワクチンを接種した後に以下の病気を発症したとする報告があります。
- ギラン・バレー症候群
- 急性脳症
- 急性散在性脳脊髄炎
- けいれん
肝機能障害 - 喘息
発作 血小板 減少性紫斑 病
これらはインフルエンザワクチンを接種していなくても一定割合で自然に発症する疾患でもあります。ワクチンが原因だったかどうかはわかりません。
インフルエンザに関連した死亡者数は、例年国内で1万人前後とされています。インフルエンザワクチンによる副作用(副反応)にももちろん注意は必要ですが、インフルエンザワクチンを打たないことによる悪影響のほうがはるかに大きいという考えから、予防接種が推奨されています。
参考文献:厚生労働省「新型インフルエンザに関するQ&A」, Vaccine 2009 Mar 26
インフルエンザワクチンの副作用でインフルエンザになる?
インフルエンザワクチンでインフルエンザにかかることはありません。
インフルエンザワクチンは不活化ワクチンと呼ばれます。
毎年世界で何億という人がインフルエンザワクチンを打っていますが、ワクチンが明らかな原因としてインフルエンザに感染したという例は未だ1人も報告がありません。
ただし、インフルエンザワクチンを打ったのにインフルエンザにかかってしまうことはあります。特にワクチンを打ってから2週間以内は、まだワクチンによる免疫がついていません。
ワクチンを打って数日後にインフルエンザを発症してもワクチンが原因ではありません。ほかの人から感染したウイルスが原因です。
インフルエンザワクチンに入っている防腐剤で自閉症になる?
インフルエンザワクチンが自閉症の原因になる心配はありません。
1998年に「チメロサールによって発達障害を発症するのではないか」とする報告がありました。チメロサールは、ワクチンの液体内で
従来から様々な種類のワクチンで使用されていたチメロサールですが、そのことからチメロサールが避けられがちであった時期があります。
しかし、その後の実証実験、追加研究では、チメロサールと発達障害の間に関連性は見られないとする結果となりました。
参考文献:Lancet 1998 Feb 28, Institute of Medicine (US) Immunization Safety Review Committee. 2004, Vaccine 2014 Jun 17, "2009 H1N1 Influenza Shots and Pregnant Women: Questions and Answers for Patients", 「保存剤(チメロサール等)が添加されている新型インフルエンザワクチンの使用について」
3. インフルエンザワクチンを打ってはいけない人は?
以下の方はインフルエンザワクチンを打つことができません。
- 6ヶ月未満の乳児(免疫がつかず、かつ、十分な過去の経験がないため)
- インフルエンザワクチンもしくはワクチンの成分に対して、命に関わるアレルギー反応をおこした経験のある方
また、以下の方はインフルエンザワクチンを打つ際に、医師に相談する必要があります。ワクチンを接種してはならないということではありませんが、リスクを理解した上で接種すること、接種後の
- 卵やワクチンの成分に対してアレルギーのある方(インフルエンザワクチンの精製時に、鶏卵を使用するため)
- ギラン・バレー症候群をおこした経験のある方
- 当日に気分の優れない方
卵アレルギーがあったらインフルエンザワクチンは打てない?
軽度のアレルギーであれば、卵アレルギーがあってもインフルエンザワクチンの接種は可能とされています。ただし、アレルギーがある旨は担当医に伝えた上で接種を受けてください。
アナフィラキシーなどの重度のアレルギー発作を、過去に卵で起こしたことがある人についても、絶対にワクチン接種をしてはならないということはありません。医師と十分に相談したうえでワクチンを接種することは可能です。
インフルエンザワクチンは製造過程で鶏卵を使用しているため、ごく微量の卵白アルブミンが含まれていることがあります。頻度は極めてまれですが、アナフィラキシーと呼ばれる重度のアレルギー発作を起こすことがあります。アナフィラキシーの大半は注射から30分以内に生じます。
そこで、卵アレルギーがある方は特に、注射後の30分間は医療機関内で待機するなど、すぐに対応が取れる状態にしておくことが勧められます。
卵アレルギーではなく、インフルエンザワクチンそのものに対してアナフィラキシー発作を起こしたことがある人については、ワクチンを接種することはできません。
卵アレルギーがあるという理由だけでの、事前の皮内テストや
参考文献:Pediatrics 2010 May, 厚生労働省インフルエンザ予防接種ガイドライン等検討委員会「インフルエンザと予防接種」, Ann Allergy Asthma Immunol 2012 Dec, J Allergy Clin Immunol 2010 Jun, J Allergy Clin Immunol 2011 Jun, MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2015 Aug 7, J Pediatr 1998 Nov, J Allergy Clin Immunol 2010 Aug, Ann Allergy Asthma Immunol 2010 Nov, Ann Allergy Asthma Immunol 2011 May, J Allergy Clin Immunol 2012 Nov, Pediatrics 2015 Oct, J Allergy Clin Immunol 2012 Jul, "Summary* Recommendations: Prevention and Control of Influenza with Vaccines: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices—(ACIP)—United States, 2013-14"
インフルエンザワクチンは熱がある日は打てない?
微熱程度で、全身の具合がさほど悪くない場合には、インフルエンザのワクチン接種は可能です。それを上回る体調不良の場合は基本的には接種を見合わせるべきですが、特別な事情や不安があるときには、医師と相談の上で接種を行う場合があります。
4. インフルエンザワクチンはどうやって作っている?
インフルエンザワクチンの製造には6か月から9か月を要します。毎年少しずつ異なる型のウイルスが流行するのですが、そのシーズンに流行し始めた型を見定めてからでは間に合いませんので、前年度に流行したインフルエンザの型をもとにしてワクチンが作られます。
具体的な手順としては、鶏卵を利用してウイルスを
WHO(世界保健機関)が100以上の国からサンプルを集め、毎年2月に(その次のシーズンの)北半球の季節性インフルエンザに対するワクチンの構成を決定します。型が決まってからそれに基づいてワクチンを十分量生産するまでに半年近くかかるため、前年度の流行型をもとに予測して決定することになります。
2017/18年冬季のインフルエンザワクチンは以下の型をカバーしています。
- A/Singapore(シンガポール)/GP1908/2015(IVR-180)(H1N1)pdm09
- A/Hong Kong(香港) /4801/2014(X-263)(H3N2)
- B/Phuket(プーケット)/3073/2013(山形系統)
- B/Texas(テキサス)/2/2013(ビクトリア系統)
型が合っていても予防効果が確実というわけではありません。
5. インフルエンザワクチンの費用は?
インフルエンザワクチンは、接種する施設ごとに料金が違います。1回接種の場合には数千円から5,000円程度のことが多いです。高齢者の場合には各自治体からの補助があり、安く受けられる、あるいは無料のケースが多いです。
インフルエンザワクチンの費用はなぜ病院ごとに違う?
インフルエンザワクチンには、健康保険が適用されません。保険は一般的に病気の治療に対して適用されるものであり、ワクチン接種は治療ではなく予防であるためです。
制度上は自費診療と呼ばれる形式になり、費用は病院やクリニックごとに独自で定めています。なお、市区町村によってはワクチン接種に助成金を出しているところもあり、そのような地域では他よりも安い金額で接種を受けることができる場合もあります。
インフルエンザワクチンを無料で打てる人がいる?
インフルエンザのワクチンは、以下のような方の場合、定期接種の扱いとなり、多くの自治体で一部の補助金が出ます。自治体が全額出す場合には、無料で接種できます。
- 65歳以上の方
- 60-64歳で、心臓・腎臓・呼吸器の機能に障害がある方
- 60-64歳で、
HIV により免疫機能に障害がある方
上記に該当しない方の場合には任意接種といって、一部の自治体を除き、全額自己負担で受けることになります。自費診療であり、国が金額を指定しているわけではありませんので、医療機関によって値段設定に差があります。
6. インフルエンザワクチンを打ったらお風呂に入ってもいい?
インフルエンザのワクチン接種当日に注意すべき点をまとめます。
- お風呂
- 通常通りのシャワーや入浴は大丈夫です。
- 注射をした部位を強くこすったり、温め過ぎるのは避けてください。
皮下出血 が広がって腫れやすくなる可能性があります。
- 飲酒
- 当日の飲み過ぎは避けましょう、とする医療機関が多いです。
- たとえばワクチン接種後に泥酔した場合でも免疫がつくか、というような研究が行われたわけではないので何とも言えない部分もありますが、今のところ特にこれを禁止する明確な医学的根拠はありません。
- 運動
- 飲酒と同様、当日の激しい運動は避けましょう、とすることが多いです。
- ただし、少なくとも接種後30分間は、アレルギー反応の有無を見定めるために運動を避けることが望まれます。
- 体調の変化
- ワクチン接種後は注射部位の腫れや熱、また寒けや頭痛などの症状が出ることがあります。ワクチンに対する免疫反応です。インフルエンザにかかったわけではありません。自然に改善します。
これらを参考にして、インフルエンザワクチンを接種した当日の参考にして下さい。
参考文献:「インフルエンザ予防接種実施要領」
7. インフルエンザワクチンはいつ打つ?
インフルエンザワクチンを打つ時期、ほかのワクチンとの間隔などについて説明します。
インフルエンザワクチンとほかのワクチンは同時に打っても大丈夫?
インフルエンザワクチンは、医学的には他のワクチンと同時に打てます。
複数のワクチンを接種する場合、従来は時期をずらして接種する医療機関が多かったのですが、世界的には同時接種が普及してきています。同時接種に関して「医師が必要と認めた場合に2種類以上の予防接種を同時に行うことができる」とされてています。
同時に接種することのメリットとしては、手間や費用が軽くなることと、間隔を空ける必要がないので、より早い時期に多くの病気に対する免疫をつけることができることがあります。
なお、同時に接種する場合であっても、それぞれのワクチンを混ぜて一回の注射で済ませることはできません。少しずつずらした場所に、別々に注射を行うことになります。
参考文献:「定期(一類疾病)の予防接種実施要領」, 「日本小児科学会の予防接種の同時接種に対する考え方」
インフルエンザの予防接種は間隔を空ける?
日本では、13歳未満で2回接種する場合には、2-4週間空けることとされています。
免疫効果が最も強くなるのは4週間空けた場合です。一方、2回目の接種の前に流行が始まってしまえば、4週間待つよりも早めに接種したほうがいいと考えられます。
おすすめのタイミングは次のとおりです。
- 流行シーズンに入る前であれば、4週間空けて接種する
- 流行シーズンに入ってしまっていたら、2週間しか経っていなくても2回目を接種する
ワクチンを接種してから免疫がつくまでには2週間かかり、その間はインフルエンザに感染するということも計算に入れておいてください。
参考文献:J Pediatr 2006 Dec
インフルエンザワクチンはなぜ2回打つ?
厚生労働省の指定している、インフルエンザワクチンの接種回数は以下の通りです。
- 6ヶ月から3歳未満:通常の半量を2回接種
- 3歳以上13歳未満:通常量を2回接種
- 13歳以上:通常量を1回接種
それまでインフルエンザにかかったことのない割合が高いであろう小児については、2-4週間(もしくはそれ以上)の間を空けて2回接種することで、より高い免疫効果が期待できます。このように1回目の接種で少し免疫が付いた後に、間隔を空けて2回目を打つと飛躍的に免疫力が高まることを、ブースター効果と呼びます。
成人でも2回打ってはいけないということはありませんが、1回打ちも2回打ちに劣らない免疫効果が得られるとされています。
なお、13歳以上であっても、著しく免疫力が低下するような病気にかかっている人のような場合には、医師の判断で2回接種が勧められる場合があります。
参考文献:J Pediatr 2006 Dec
インフルエンザワクチンの効果が持続する期間は?
ワクチンの効果は、特にご高齢の方では時間が経つにつれて落ちやすいことが分かっています。
若い方でも、翌シーズンまでワクチンの効果が残るようなことは期待できません。
同一シーズンに再接種することは一般的ではありません。
参考文献:Euro Surveill 2013 Jan 31, J Infect Dis 2008 Feb 15, Vaccine 2010 May 21
インフルエンザワクチンは毎年打つべき?
インフルエンザのワクチンは毎年接種することが望ましいと言えます。これには2つの理由があります。
- 年によって流行する型が違うため、前年度のワクチンがその年度も有効とは限らない
- ワクチンの効果は時間を経ると弱くなってしまう
参考文献:Lancet Infect Dis 2012 Jan, Clin Infect Dis 2009 Sep 1
インフルエンザワクチンの定期接種とは?
以下に当てはまる人については、インフルエンザワクチン接種による効果がより大きく期待できるため、「定期接種」に指定されており、国が特に接種を勧めています。接種を受けなければならない、という強制力はありません。
- 65歳以上の方
- 60-64歳で、心臓、腎臓もしくは呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活を極度に制限される方
- 60-64歳で、
ヒト免疫不全ウイルス (HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方
これらの方を対象に、ワクチン接種に対しての助成金を出している地方自治体も多くあります。
8. インフルエンザの4価ワクチンとは?
2015/16年冬季からは、4種類(A型2種類とB型2種類)に対応できる4価ワクチンが導入されています。カバー範囲を広げたことによって、高い予防効果が期待されています。
3価ワクチンに比べると4価ワクチンのほうが製造にコストがかかるので、予防接種をしている施設では費用を値上げしたところが多いようです。
2015/16年冬季に4価ワクチンを多くの人に接種した医師からは、注射によるかゆみや痛みの副反応が3価ワクチンより多い印象だという声もあります。
参考文献:Vaccine 2011 Nov 21, Vaccine 2015 May 15
9. インフルエンザの経鼻生ワクチンとは?
海外では、鼻からスプレーするタイプのインフルエンザワクチンも使われています。経鼻ワクチンと言います。注射針を使わずに予防接種ができるとされます。主な商品名にフルミスト®があります。
経鼻ワクチンは、アメリカ疾病管理予防センター(CDC)が「2016/17年冬季には使うべきではない」と明言しています。
背景として、2013/14年冬季と2015/16年冬季に流行したインフルエンザA(H1N1)pdm09型に対して、経鼻ワクチンの効果が弱かったことが挙げられます。
インフルエンザの経鼻生ワクチンは日本では未承認です。一部の医療機関では輸入した経鼻生ワクチンを使用していますが、全体の中では少数です。自分から進んで探さない限り、「インフルエンザワクチンを打ちに行ったら経鼻ワクチンだった」ということはないでしょう。
経鼻ワクチンは未承認であるため、重大な副反応が生じた場合などに予防接種健康被害救済制度が適用されないという問題点もあります。もし経鼻ワクチンを接種している施設に出会っても、普通の注射のワクチンを打つことを推奨します。
参考文献:”Live Attenuated Influenza Vaccine [LAIV] (The Nasal Spray Flu Vaccine)”