Beta 膠芽腫(悪性神経膠腫、グリオブラストーマ)のQ&A
膠芽腫は、どのように診断するのですか?
頭部CTやMRIにより診断を行います。特に造影剤を用いたMRIが診断や治療計画を立てるのに重要です。
膠芽腫の原因、メカニズムについて教えて下さい。
中枢神経(脳や脊髄)には神経細胞の他に、神経細胞に栄養を送ったり、老廃物を取り除いたりするなどの補助を行う神経膠細胞という細胞があります。この神経膠細胞のもとになる細胞が、何らかの原因で腫瘍化して神経膠腫と呼ばれる脳腫瘍(脊髄の場合は脊髄腫瘍)を起こします。原因に関しては、今のところ分かっていません。
神経膠腫は、増大のスピードからグレード1-4に大まかに分類されていますが、膠芽腫はこの中でもっとも悪性のものです。
膠芽腫は、発見された時点ですでに膠芽腫のものと、神経膠腫の治療を行っていたが、ある時点で腫瘍の性質が変わって膠芽腫になった二次性のものがあります。後者に関しては、遺伝子変異が積み重なることで悪性化すると考えられています。
膠芽腫の治療法について教えて下さい。
まず、原則としてMRIで造影される部分を可能な限り取り除きます。但し、膠芽腫は脳の中にでき、正常な組織とはっきりとした境界がないことが多い腫瘍です。そのため、言語中枢や、運動の中枢などの部分に及んでいる部分や、そこに近い部分は取り切ることができません。
また、手術で切除することが難しい部分でも、通常は病理診断のために組織を一部切除して調べる手術(生検)を行います。
病理検査で膠芽腫の診断がついたら、テモゾロミド(商品名:テモダール)という内服薬と、放射線治療を行うのが標準的な治療です。放射線治療は通常60Gyという量を30分割(週5回 × 6週間)で照射します。(膠芽腫は非常に悪性度の高い腫瘍であり、膠芽腫と診断されて、何も治療しない場合の平均生存期間は6ヶ月以内と言われています。)
この初期治療が終わったあとは、4週間後に5日間テモゾロミドを内服するという治療を外来で行います。病院によってどれくらいの期間行うかはまちまちですが、1年から2年が多いです。
腫瘍の血管ができるのを抑えるベバシズマブ(商品名:アバスチン)という点滴薬がQOLを維持するのに有用であるという見解が(また、そうでないという見解も)あります。生存期間には影響しないようです。
膠芽腫が再発した場合にどのような治療がよいか、に関しては様々な治療法が試されている段階で、ウィルス療法などの治験も行われています。
膠芽腫は、どんな症状で発症するのですか?
膠芽腫は脳の中にできます。そのため、腫瘍ができた部分の脳がもともと持っていた働きが妨げられることで、言葉が出ない、分からない、手足が動かせない、といった症状が出ます。
腫瘍が正常な脳(神経細胞)の電気的な信号のやりとりを邪魔することによって、信号が乱れ、けいれん発作(症候性てんかん)を起こし、見つかることもあります。
膠芽腫は、どのくらいの頻度で起こる病気ですか?
原発性脳腫瘍の9%(10人に一人弱)、神経膠腫の中の35%を占めます。
原発性脳腫瘍が10万人に1.2-10人程度なので、稀な病気です。
膠芽腫の治療薬の使い分けについて教えて下さい。
初発の膠芽腫に対しては、白血球や血小板の減少、アレルギーがなければテモゾロミド(+放射線治療)が最も効果が高いとされています。
ベバシズマブを初発の段階から使用することに関しては、賛否があります。
その他、病理組織の遺伝子タイプによりテモゾロミドの効果に差があるため、これを調べることで個々にあった治療(テーラーメイドな治療)を行う方が良いという議論がありますが、この遺伝子検査は保険が効かないため、現時点では一般的でありません。
膠芽腫の、その他の症状について教えて下さい。
膠芽腫は比較的早く増大することがあり、体積が増えることで頭蓋骨の内側の圧が上昇し、頭痛や吐き気を起こして見つかることもあります。
また、膠芽腫には細かい血管がたくさん入り込んでいることが多いですが、この血管が破れて、脳出血を起こして見つかることもあります。この場合は、やはり頭蓋骨の内圧が上昇して、頭痛、嘔吐や、麻痺・言語障害などを急激に起こします。
膠芽腫の、その他の検査について教えて下さい。
MRIの撮影条件で、MRスペクトロスコピーという検査は、腫瘍の中の化学的な成分を分析することで、ある程度どのような腫瘍なのかを推定することができます。
PETは、腫瘍が悪性のものかどうかを判定するために、ある程度有用ですが、必須の検査ではありません。特に初めて腫瘍が生じた時点では、PETによって治療方針が変わることは比較的少ないと考えられます。一方、再発が疑われるような場合は、腫瘍の壊死組織と区別するために行うことがしばしばあります。
手術治療の前に、脳血管撮影検査を行い、腫瘍がどこから栄養を受けているかを調べることがありますが、これも必須の検査というわけではありません。
膠芽腫が発症しやすくなる病気はありますか?
膠芽腫はやや高齢の方に起こりやすい(平均55歳)ですが、発症しやすくなる要因は知られていません。一方、神経膠腫を患った方は、時間が経過すると膠芽腫に進むことがあるため、定期的な検査が必要と言えます。
膠芽腫が重症化すると、どのような症状が起こりますか?
腫瘍が大きくなると、麻痺・言語障害が悪化したり、眠りがちになったり、呼びかけても目を覚まさない(意識障害)という状態になることがあります。
膠芽腫と診断が紛らわしい病気はありますか?
造影剤を用いたMRIで、同じようなパターンを示す転移性脳腫瘍、悪性リンパ腫、脳膿瘍などが鑑別に挙がります。
転移性脳腫瘍は、もともと肺癌や乳癌の既往がないか、血液検査で腫瘍マーカーが出ていないか、体幹のCTで癌を疑うような病変がないかどうか、を調べます。
悪性リンパ腫は、脳の中でも脳室に近い部分にできることが多く、髄液検査で特殊なマーカーが上昇していることで推定できることがありますが、実際には組織の一部を取ってみないと診断が付かない場合も多いです。
脳膿瘍は腫瘍ではなく、感染症ですが、腫瘍よりも急速に大きくなる場合もあります。ひどい虫歯があるなど、脳膿瘍になりやすい何らかの因子があることがありますが、通常は組織を取って診断します(手術所見で通常明らかに分かります)。
膠芽腫の薬は、生涯飲み続けることになるのですか?
テモゾロミドに関しては、1年、もしくは2年で区切る施設が多いようです。
膠芽腫では入院が必要ですか?通院で治療を行うことはできますか?
手術治療は入院が必要です。腫瘍の摘出だけであれば、10〜14日程度の入院ですが、膠芽腫と診断された場合は、引き続いて6週間の入院が必要になります。放射線治療を行う施設が自宅から通えるところであれば、通院治療が可能な場合もあります。
膠芽腫は、遺伝する病気ですか?
一般的には遺伝する病気ではありません。
膠芽腫に関して、日常生活で気をつけるべき点について教えて下さい。
腫瘍にともなって症候性てんかんを起こされている場合には、抗てんかん薬の内服をきちんと行うこと、睡眠時間を十分取ることが重要です。てんかん発作を起こすと、ケガの元となったり、様々な面でQOLが下がることが報告されています。
膠芽腫は、完治する病気ですか?あるいは、治っても後遺症の残る病気ですか?
膠芽腫は数多くの悪性腫瘍のなかでも極めて悪性度が高いものであり、原則は完治ということはないと考えた方がよいかもしれません。腫瘍ができている部分によっては後遺症が残る場合があります。また再発した場合に、脳の機能を担っている部分に広がると、それによって、これまでできていたことができなくなる、ということがあります。
本人だけでなく、周囲のご家族の方の理解も大切な病気です。主治医とも相談して、最もよい体制を作りながら、治療を続けていくことが望まれます。
膠芽腫の放射線治療にはどのような副作用がありますか?
多い副作用としては、脱毛が起こります。また、船酔いのような気持ち悪さが出ることもあります。
高齢の方に多いですが、半年以上経過すると、認知症のような高次脳機能障害が起こってくることがあります。
これらの副作用と、治療に期待される効果とのバランスを考えて、治療を選択していくことになります。
膠芽腫は転移することがありますか?
膠芽腫は、脳内の別の部分に転移することがしばしばあります。脳外の内臓への転移はありますが、稀です。
膠芽腫の一般的な経過は、どのようなものですか?
脳腫瘍の難しいところですが、膠芽腫が再発して症状が進んでくると、自分でできることが徐々に減ってきます。また、腫瘍の浸潤した場所によっては、意識がぼうっとしたり、眠りがちになったりということが起こってきます。
多くの膠芽腫は大脳にできますが、麻痺や傾眠傾向になっても、すぐに生命が切迫した状態になるというわけではありません。体そのものは基本的には元気ですので、例えば経鼻胃管などから栄養を補給すれば、自分で意識した形で食事がとれなくとも、身体は栄養を取り込むことができます。
ただし、だんだん自分では動けなくなってきますので、褥瘡(床ずれ)ができたり、誤嚥して肺炎になったりということが増えて、徐々に体が弱っていくという経過をたどることが多い病気です。
現実的には非常に難しいことでもありますが、ご自身の意識がはっきりしている段階で、どのような治療を受けたいのか、あるいはどのような治療は受けたくないのか(例えば「自力で◯◯ができなくなったら、それ以上の積極的な治療は受けたくない」など)といったことを、ご家族で話し合われる方もいます。
膠芽腫には未だ根本的な治療法がなく、画一的な対応が難しい病気です。患者さんが一人で悩み込んでしまうことのないよう、主治医や家族も交えて疑問点や苦労している点を共有しながら、良い治療法、対応法を見つけていくことが大切です。