やきゅうひじ
野球肘
骨や軟骨が完成していない成長期に球技などによる肘の酷使が原因で生じる肘の障害の総称
6人の医師がチェック 58回の改訂 最終更新: 2024.08.16

野球肘の予防、治療、リハビリについて

野球肘は不適切な投球フォームや、成長期に肘を酷使することで起こります。野球肘には適切な予防策があり、まずは予防に努めることが大切です。また、発症後は早期の治療と十分なリハビリ期間が必要です。ここでは野球肘の予防法や治療法、リハビリについて説明します。

1. 野球肘の予防法

肘は骨や軟骨、筋肉、靭帯などから出来ています。成長期は骨や軟骨が十分に成熟していないため、これらの損傷を原因とした野球肘を発症しやすいです。また、大人になっても靭帯を損傷するなどして野球肘を発症することがあります。

野球肘を予防するには、正しい投球フォームで投げること、球数を投げ過ぎないことが重要です。どちらを疎かにしても野球肘のリスクが高まります。

投球フォームの改善

どのような投球フォームは良くて、どのようなフォームは悪い、と一言で挙げるのは難しいものです。個人によって身体の特徴も異なり、一人ひとりで違ったベストな投球フォームがあるからです。

投手にとっての良い投球フォームには、単に身体への負担が少ないだとか、球速が速くなる、以外にも様々な要素があります。例えば球の出どころが打者から見にくい、変化球が投げやすい、角度がついていて打ちにくい、なども挙げられるかもしれません。

ただ一つ言えることとしては、野球を楽しんで長期的にベストなパフォーマンスを出し続けるためには、身体への負担の低さが最優先されるべきだということです。

肘については、非軸足を踏み出した後からフォロースルーの際に最も負担がかかります。典型的には、その際に「肘が下がっている」と負担がかかりやすいことが分かっています。正しいフォームは一朝一夕では身につきませんが、動画サイトなどで同年代の有名投手のフォームをよく観察し、真似するところから始めるのもよいかもしれません。

投球制限

どれだけ良いフォームで投球していても、肘を過剰に酷使すればいつかは故障します。そのため、ルールに基づいて投球数を制限することが重要です。

具体的には日本における目安が全日本軟式野球連盟のホームページに掲載されているので、プレーヤーや指導者は必ず確認してください。小学生は1日50球まで、中学生は1日70球までの全力投球に収める、などの指針が書かれています。なお、少年野球ではチームの中心となる選手が投手も捕手も兼任するケースが散見されますが、これは野球肘発症予防の観点で望ましくありません。投手をしない日は捕手ではなく、より負担の少ないポジションを任せるべきです。

野球肘は11-12歳頃が発症のピークとされています。怪我のリスクと目の前の試合で全力を尽くすことを、正しく天秤にかけることは子供には難しいものです。したがって、指導者が正しく管理してあげることが必要です。

野球肘検診

近年は小中学生の野球プレーヤーに対する野球肘検診が普及してきました。超音波(エコー)検査を用いて、1人あたり数分〜5分程度で肘の障害をチェックします。

痛みが無いのに検査をすることに対して疑問をもつ人もいるかもしれません。しかし、野球肘の中でも特に重症になりやすい上腕骨小頭離断性骨軟骨炎という状態は、初期には症状が出にくいものです。そして進行すると長期間の投球停止や手術を余儀なくされます。

こうした無症状の野球肘を早期に発見するためにも、野球検診を受診することをお勧めしたいと思います。

2. 野球肘の治療法

野球肘は主に成長期に、肘に過剰な負担がかかり続けることで発症します。以下では治療の基本方針について説明します。

安静

野球肘対策として最も大事なのは上に挙げたような予防です。発症してしまった場合に、手早く野球肘を完治させる方法は残念ながらありません。痛みを我慢して投げ続けると野球肘は悪化し続け、簡単に治らなくなります。厳しい競争環境にある野球選手ほど痛みを隠しがちなので、指導者は痛みを打ち明けやすいような環境作りをしていくことが望まれます。

野球肘を発症してしまった場合に、まず多くの人に勧められるのが安静です。野球肘の原因によって異なりますが、初期であれば1-2ヶ月ほどの安静で改善することが多いです。進行すると、3ヶ月以上あるいは年単位の安静や手術が必要になるため、初期のうちにしっかりと休めるかどうかが選手生命を左右します。

安静期間でもランニングや捕球は行って問題ありません。また、痛みが出ないようであればバッティングも差し支えないと考えられます。投げられない選手を、チーム全体で受け入れてサポートしていくような環境づくりをしていきたいものです。

手術

成長期における野球肘は、焦らずに安静を維持できれば改善が望めるため、手術が行われることはそれほど多くありません。骨や軟骨に異常がある人でも、軽度であれば安静によって自然に癒合、治癒していきます。しかし、骨のズレが大きい人では骨をネジで固定したりすることもあります。また、損傷した軟骨を補うために、肋軟骨や膝の軟骨を移植する手術方法もあります。

大人になると骨や軟骨が成熟して、成長期よりは損傷することが少なくなってきます。一方で、内側側副靭帯という靭帯を損傷することが増えてきます。内側側副靭帯のダメージも、安静にして周囲の筋肉を強化するリハビリでカバーできることが多いですが、改善しない人では靭帯再建術が必要です。靭帯再建の手術方法としては、初めて手術を受けたメジャーリーグ投手:トミー・ジョンに由来したトミー・ジョン手術が有名です。手術後に復帰するまで1年以上かかってしまうことが一般的です。近年では2018年に大谷翔平選手がこの手術を受けて話題になりました。

他にも欠けてしまった軟骨や骨(関節ねずみ)を除去するなど、原因に応じた様々な手術方法があります。関節ねずみの手術では、関節鏡という内視鏡を用いたクリーニング手術が行われます。

3. 野球肘のリハビリテーション

野球肘を発症してしまった人は、焦らずに十分な期間の安静期間をとることが大事であると説明しました。その間、野球が全くできないわけではありません。

肘に痛みがでない範囲であれば、ランニングやノック、バッティング練習もして大丈夫です。下半身などを強化して基礎体力をつけることで、肘に負担の少ない投球ができるようになることも期待されます。

また、肩や肘周りの柔軟性が乏しいことや、インナーマッスルが弱いことが故障の原因となっている人もいます。腕を中心に全身のストレッチやインナーマッスルの強化を行い、また投球が出来る日に備えるようにしてください。