てんいせいのうしゅよう
転移性脳腫瘍
脳以外の臓器にできたがんが脳に転移した状態
9人の医師がチェック 92回の改訂 最終更新: 2020.05.14

Beta 転移性脳腫瘍のQ&A

    転移性脳腫瘍の治療法について教えて下さい。

    転移性脳腫瘍が強く疑われて、病変が小型であれば、放射線治療が最も一般的な治療となります。脳全体に放射線を照射する全脳照射という治療が標準的と考えられますが、正常脳への被曝が少なくできるガンマナイフやサイバーナイフといった定位放射線治療が可能な場合もあります。9個以下の転移性脳腫瘍の場合、ガンマナイフは全脳照射の成績に劣らないことが報告されています。

    一方、腫瘍が大きい場合は、手術治療を行うことがあります。おもに腫瘍があることによって麻痺や言語障害が出ている場合です。しかし、脳のうち大切な機能を司っている箇所に腫瘍ができている場合には、手術によって症状が悪化する可能性があるため、慎重に検討する必要があります。

    以前は手術しか選択肢がなかったような大きさの腫瘍でも、ガンマナイフやサイバーナイフを数回に分けて行うことで、治療が可能な場合もあります。

    転移性脳腫瘍は、どのように診断するのですか?

    大きい場合は、通常の頭部CTで脳腫瘍が見つかります。また小型の場合は、周囲の脳組織に余計な水分が含まれている脳浮腫が見つかることで、腫瘍そのものが分からなくても「何らかの異常」として発見されることがあります。

    造影剤を用いたCT, MRI検査では、より診断がつきやすくなります。特に造影MRI検査では、比較的小型の腫瘍でも見つかる場合があります。

    転移性脳腫瘍は、どんな症状で発症するのですか?

    転移性脳腫瘍ができた部分によって症状は異なります。運動に関わる部分にできると麻痺が起こり、言語に関わる場所にできた場合は喋りにくい、他の人が言っていることが分からないといった症状が現れます。

    症状が出にくい部分に転移性脳腫瘍ができると、かなり大きくなるまで気付かれず、眠りがちになったり、話がかみ合わないなどの症状が出たりします。

    また脳神経の周囲に転移が起こると、その神経の障害(顔面神経麻痺、聴力障害、眼球運動障害による複視など)が起こります。

    転移性脳腫瘍の原因、メカニズムについて教えて下さい。

    がんは、進行すると様々な臓器に転移を起こします。全身でできたがんのうち、脳に転移したものが転移性脳腫瘍と呼ばれます。

    転移性脳腫瘍の原因となっているがんの種類は様々ですが、頻度が多いのは、肺がん、乳がん、結腸がん(大腸がんの一部)、腎がんの順になっています。

    転移性脳腫瘍の、その他の検査について教えて下さい。

    転移の有無を調べるのにPETや、シンチグラフィといった検査が行われることがありますが、転移性脳腫瘍のための検査というよりは、元々のがんの進行具合を調べる目的で行われることが多いと思われます。

    転移性脳腫瘍の治療法の使い分けについて教えて下さい。

    一つに定まった基準はありませんが、以下のような治療が一般的です。

    小型の腫瘍、複数ある腫瘍の場合:放射線治療を行います。

    大型(概ね3cm以上)で原則1つだけの腫瘍の場合:摘出手術を行います。場合によって放射線治療を追加することもあります。

    転移性脳腫瘍の、その他の症状について教えて下さい。

    転移性脳腫瘍と周囲の浮腫によって、けいれんを起こすことがあります。

    まれに、下垂体というホルモンの中枢付近に転移が起こることで、ホルモンの分泌障害がおこり、尿崩症(尿が出続けてしまうことによって脱水症状などを生じる)などの症状が現れることがあります。

    転移性脳腫瘍は、どのくらいの頻度で起こる病気ですか?

    脳腫瘍全体の中で、10-20%を占めているとする報告があります。

    がん患者さんの中で、脳転移がどれくらいの割合で発生するかは、がんの種類によって異なります。しかし、分子標的薬など化学療法の進歩に伴い、長期間生存する患者さんも増えており、脳転移に対する治療の必要性は以前より高まっていると言えます。

    転移性脳腫瘍が重症化すると、どのような症状が起こりますか?

    転移性脳腫瘍の数が増えたり、全体的にそれぞれの大きさが広がってきた場合、麻痺や言語障害などの症状の他に、頭痛や吐き気など、脳の周りの圧が上昇することによる症状が現れてきます。

    やがて、意識がぼんやりとし、最終的には脳ヘルニアと呼ばれる状態で呼吸困難となって死にいたることもあります。

    転移性脳腫瘍と診断が紛らわしい病気はありますか?

    造影MRIの検査で似たような写り方をする、神経膠芽腫や脳膿瘍(脳の中に感染が起こって膿がたまる病気)といった病気は、区別が難しい場合があります。

    転移性脳腫瘍では入院が必要ですか?通院はどの程度必要ですか?

    手術をおこなう場合は入院治療が必要で、麻痺や言語障害の有無・程度にもよりますが、概ね10-14日程度の入院が必要です。

    ガンマナイフやサイバーナイフの場合は、1回の治療で済む場合には3日程度の入院が多いと考えられます。

    放射線の全脳照射は、一度に大量の放射線を当てることはできないので、2-3週間程度の治療期間が必要です。治療する病院が通える範囲にあれば、通院での治療も可能ですが、実際には入院して治療される方が多いと考えられます。

    転移性脳腫瘍と他の脳腫瘍の違いについて教えて下さい。

    転移性脳腫瘍を形作っているのはがん細胞なので、いわゆる悪性腫瘍の一つなのですが、その他の脳腫瘍とは異なり、転移してきた元の臓器にも腫瘍があることになります。

    したがって、転移性脳腫瘍では、脳の治療だけを行えばよいというものではありません。全身の適切な治療が行えなければ、脳の腫瘍だけが治療できても、その後の経過は厳しいことがあります。

    転移性脳腫瘍は、再発を予防できる病気ですか?

    転移性脳腫瘍は、もともと別の臓器に生じた癌の治療がうまくいっていない場合に再発する可能性があります。一方、そうした臓器の癌の治療が適切に行われているように見えるにもかかわらず、脳転移だけが繰り返し起こることもあります。その原因は今のところ分かっていません。

    転移性脳腫瘍は、遺伝する病気ですか?

    他の臓器の進行がんが転移して生じる病気のため、転移性脳腫瘍に関しては遺伝性ということは言われていません。

    転移性脳腫瘍に関して、日常生活で気をつけるべき点について教えて下さい。

    脳の中に起こる腫瘍なので、突然意識を失って手足をけいれんさせるような、てんかん発作を起こす可能性があります。このような症状がある場合、車の運転や危険を伴う作業・趣味などは、医師と相談して対応を考える必要があります。

    転移性脳腫瘍で、ガンマナイフ(サイバーナイフ)治療は何回まで受けられますか?

    全脳照射は多くの場合、30グレイという放射線を10回、もしくは15回に分けて照射しますが、原則としては1セットのみの治療です。もう一度おなじ量の放射線を照射した場合、正常な脳にあたる放射線の量が、総量として多くなりすぎ、合併症の危険が大きくなるためです。

    ガンマナイフやサイバーナイフは、放射線を様々な方向から1カ所に集中して照射するため、周囲の正常脳組織に当たる量が数十〜百分の一程度になります。そのため、全脳照射後の腫瘍再発に用いられたり、ガンマナイフやサイバーナイフの後に再発した場合にも用いられることがあります。

    転移性脳腫瘍で、手術は何回まで受けられますか?

    手術は、出来るだけ合併症を引き起こさせないことが原則です。脳には切り取ってもほとんど症状が出ない部分がありますが、そのような場所に腫瘍ができた場合は、複数回手術を行うことがあります。一方、言語中枢など大切な機能をつかさどる箇所にできた腫瘍などは、手術を行うと症状が悪化する可能性があり、2回目の手術が困難な場合があります。