かすいたいせんしゅ
下垂体腺腫
脳の下垂体にできる良性腫瘍。様々なホルモンを大量に作り、ホルモンによる症状が出ることが多い
12人の医師がチェック 65回の改訂 最終更新: 2023.06.23

Beta 下垂体腺腫のQ&A

    下垂体腺腫の原因、メカニズムについて教えて下さい。

    下垂体腺腫は、脳の下垂体という部位にできる腫瘍です。そこに腫瘍ができる詳細な原因については、まだ詳しいことは分かっていません。

    下垂体腺腫の治療法について教えて下さい。

    プロラクチンを作る腫瘍の場合に薬物治療が選択される場合がありますが、それ以外の場合(特に、視神経の圧迫が強い場合)は原則的に手術を行います。

    通常は鼻の穴から奥の骨に穴を開け、下垂体まで進む道を辿ります。下垂体すべてを取り除かなくても視神経の圧迫が取れる場合もありますが、残った下垂体の部分に出血が起きることもあります。

    下垂体腫瘍が頭蓋骨の奥深くまで大きくなっている場合には、鼻の穴からではなく、頭蓋骨に外側から穴を開ける開頭手術を併用する場合もあります。

    成長ホルモンやコルチゾールをつくるタイプの腫瘍は、小さくても出来る限り全ての腫瘍を取り除く必要があり、手術自体の難易度も上ります。

    下垂体腺腫は、どのように診断するのですか?

    下垂体腺腫のうち、一定以上の大きさのものであればCTやMRIで診断することができます。特に造影剤を使ったMRIで前方、あるいは横から撮影すると多くの場合診断がつきます。

    このようなものには、ホルモンを分泌しないタイプの腫瘍が多いです。ホルモンを分泌するタイプのものは、画像検査に写るほど大きくなる前に、ホルモン異常による何らかの症状が出現して見つかることがあるためです。

    一方、ホルモンを分泌するタイプの場合、症状が出ていたとしても必ずしも体積が大きいとは限りません。その場合、造影剤を使わないCTやMRIでは診断がつきません。

    ホルモン異常が問題になる場合には、血液検査で平常状態でのホルモンの量を測ったり、場合によっては、特殊な薬剤を注射して、何度か血液検査を繰り返すことで、ホルモン濃度の動きから診断をつける場合もあります。

    下垂体腺腫は、どんな症状で発症するのですか?

    下垂体は両眼の奥側、頭部の中心に比較的近い部分に位置しています。

    下垂体のすぐ上には視神経があり、下垂体に腫瘍ができて大きくなると、この視神経を下から圧迫することになります。圧迫が軽いうちは症状が起きないのですが、腫瘍がだんだん大きくなると、視神経の機能が障害されます。典型的には左右方向の視野が狭くなって、ものにぶつかりやすいという症状で見つかることもあります。また、特に自覚症状はないと思っていても、実際に手術で腫瘍を取ると、「前よりも視野が明るくなった」と言う方もいます。

    また下垂体は、身体の様々な機能を調整するホルモンを分泌する器官です。ホルモンをつくる細胞が増殖して腫瘍になると、そのホルモンが多くなりすぎることによる症状が現れます。これについては、次項で詳しく説明します。

    下垂体腺腫では入院が必要ですか?通院はどの程度必要ですか?

    手術を受ける際には入院が必要です。およそ1週間〜10日間程度の入院治療となることが多いと考えられます。

    手術後にホルモンが出なくなって、薬による補充が必要になることがあり、そのような場合には入院が延びます。ホルモンを作らない腫瘍の場合で、腫瘍が全て手術で取り切れている場合には、半年〜1年後ほどにMRIを撮影します。特に問題がなければ、数年に1度程度の経過観察で良い場合がほとんどです。

    ホルモンを作る腫瘍の場合には、血液検査を行いながら、1ヶ月から数ヶ月毎に経過を見る必要があります。

    下垂体腺腫の、その他の検査について教えて下さい。

    成長ホルモンをつくる腫瘍の場合、例えば手術で腫瘍を摘出したあとも、成長ホルモンの値が高すぎず低すぎないことが重要です。この値が適切な範囲にないと、高血圧などの合併症から別の病気を引き起こすことがあるためです。このため、外来で定期的に血液検査を行う必要があります。

    下垂体腺腫では、どのようなホルモンの異常が出るのですか?

    どのホルモンが増えるかによって、出現する異常や症状も変わってきます。

    • プロラクチンの分泌が増えた場合
      • プロラクチンは出産後に増えて乳汁を出すはたらきを持っていますが、プロラクチンが多すぎると、男性でも胸が膨らみ、乳汁が出るようになります。また女性の場合には生理が来なくなることで発見される場合があります。
    • 成長ホルモンの分泌が増えた場合
      • 成長ホルモンは、文字通り少年期に身長を伸ばしたり、筋肉の発達を助けたりするホルモンです。しかしこれが過剰に分泌されると、身長が高くなるだけでなく、眉の部分や、あごの骨、かかとの部分が発達して、いわゆる先端巨大症と言われる特有の顔つきになります。また成長ホルモンの過剰分泌によって高血圧や糖尿病を起こしやすくなったり、別の場所のがんが起きやすくなったりもします。
    • コルチゾールの分泌が増えた場合
      • コルチゾールというホルモンが過剰になると、クッシング病という病気が起こります。顔全体が以前よりも丸くなったり(満月様顔貌)、胸・腹・腰に脂肪が溜まって肥満になったりします。この場合にも高血圧が起きやすくなります。

    これらは代表的な症状ですが、あくまでも一例であり、実際にはより多くの種類のホルモンがあって、そのホルモンごとに症状は多岐にわたります。

    下垂体腺腫の手術を受けた後で、日常生活で気をつけるべき点について教えて下さい。

    手術後の傷跡から髄液が漏れることがあるため、しばらくは鼻を強くかまないよう注意が必要です。

    下垂体腺腫と診断が紛らわしい病気はありますか?

    頭蓋咽頭腫、ラトケ嚢胞といった腫瘍が、似た病状を示すことが多いです。頭蓋咽頭腫も治療が必要になる病気ですが、ラトケ嚢胞については、特別に治療が必要になることは少ないです。

    下垂体腺腫の、その他の症状について教えて下さい。

    下垂体腫瘍の内部で、血管から出血することがあります。このことを「下垂体卒中」と呼びます。

    このような場合には通常強い頭痛や吐き気が起こります。また腫瘍の体積が、出血の分だけ急激に大きくなることで、視神経が強く圧迫され、視力が急激に悪化することもあります。ホルモンが適切に分泌できなくなることで、全身のだるさや、不適切な眠気が生じることもあります。

    下垂体腺腫がかなり大きくなると、両側の前頭葉の障害による症状(話のつじつまが合わない、認知症のような症状など)が現れることがあります。また、視神経の圧迫が強くなると、視力を失うこともあります。

    下垂体腺腫は、再発を予防できる病気ですか?

    手術で全てが摘出できれば、再発は稀です。一方で、手術で腫瘍が取りきれず、一部が残っている場合には再発の可能性が残ります。
    再発を積極的に防ぐための効果的な手段があるわけではないのですが、再発があってもそれを発見できるよう、手術後しばらくは外来で血液検査や画像検査などを定期的に行います。
    再発した場合にはガンマナイフなどの放射線治療を行う場合もあります。

    下垂体腺腫の薬は、生涯飲み続けることになるのですか?

    プロラクチンを作る腫瘍の場合には、プロラクチンの値が正常化してもしばらく(概ね閉経の年齢まで)内服治療を行います。

    成長ホルモンの場合、手術後に、血液中の成長ホルモンの値が正常化していれば、内服の必要はありません。しかし値が高い場合には内服薬が必要で、長期間の内服となります。

    下垂体腺腫は、完治する病気ですか?あるいは、治っても後遺症の残る病気ですか?

    通常、後遺症が残ることは稀ですが、下垂体が分泌できなくなったホルモンを内服薬で補充する必要が生じることがあります。

    下垂体腺腫は、どのくらいの頻度で起こる病気ですか?

    下垂体腺腫は、良性脳腫瘍の中では髄膜腫に次いで多く、脳腫瘍全体の10-17%を占めています。ただし、脳腫瘍自体は10万人あたり3.5-10人程度の稀な病気です。

    下垂体腺腫は、遺伝する病気ですか?

    通常、下垂体腺腫に遺伝性はありません。