げっけいぜんしょうこうぐん(げっけいぜんきんちょうしょう、ぴーえむえす)
月経前症候群(月経前緊張症、PMS)
生理の前の数日間、精神・身体的症状が見られ、生理が始まるとともに症状が軽くなったり、消えたりする周期的な症候群
6人の医師がチェック 169回の改訂 最終更新: 2024.03.04

月経前症候群(Premenstrual Syndrome:PMS)の症状

月経前症候群では月経前1週間前後に、乳房やお腹の張りといった身体的症状、イライラして怒りっぽくなる精神的な症状が起こります。これらの症状は月経開始後になくなり、月経前になると再び現れるというサイクルを繰り返すのが特徴です。ここでは詳細な症状や、月経前症候群の重症である月経前気分不快障害について説明します。

1. 月経前症候群(PMS)の症状の特徴とは?

月経前症候群の症状は月経前の3-10日間続きます。月経開始後には症状が軽くなったり、消失したりします。この症状は月経(生理)周期ごとに繰り返されることが特徴です。

症状は腹痛や肩こりなどの身体的なものだけでなく、イライラしたり、落ち着かない気持ちになったりといった精神的なものも起こります。仕事や勉強に集中できずに能率が低下する、イライラしてパートナーに暴言を吐くことなどで、人間関係に問題が起きる人もいます。

20代後半から40代前半の調査では、イライラ、怒りやすい、乳房の張りを感じる人が多いようです。出産をしていない女性では身体的な症状が強く、出産を経験している女性では精神症状や社会的な症状が強く出る傾向にあります。

症状の程度は人によって異なり、軽い人から重い人までさまざまです。重い人では、日常生活に支障が出て、社会生活が送れないほどになります。

なお、月経(生理)がはじまっても変わらずに腹痛が続く人や、腹痛がひどくなる人は、月経前症候群ではなく月経困難症の可能性があります。生理のたびに鎮痛薬を使う、鎮痛薬で対応ができない痛みがある、徐々に鎮痛薬が効かなくなってきたといった人は、隠れた婦人科疾患がある可能性があるので、医療機関に受診することをお勧めします。

2. 身体的な症状:腹痛、腰痛、頭痛、便秘、ニキビなど

月経前症候群で起こりやすい身体的な症状はさまざまで、次のようなものがあります。

  • 腹痛、お腹の張り
  • 腰痛
  • 肩こり
  • 下痢、便秘
  • 乳房の痛み、張り
  • 頭痛、頭が重い
  • めまい
  • 食欲がない、食欲が増す
  • 身体のむくみ
  • 肌荒れ、ニキビ
  • だるい
  • 眠い、眠れない

月経前症候群の症状は種類も程度も人によって異なります。ほとんどの人がどれかの症状を感じたことがあるかもしれません。また、下痢と便秘、不眠と過眠、食欲低下と増加など、人によっては全く正反対の症状が起こることもあります。

上記以外でも胃痛、吐き気、動悸、微熱や寒気の症状を感じる人もいます。

身体的な症状の中で頻度が多いものは、のぼせた感じ、お腹の張り、腹痛、腰痛、頭重感、頭痛、乳房痛といわれています。また、年齢によって起こりやすい症状は異なるという報告があり、20代後半では頭痛、肩こり、乳房の張りが多く、30代前半ではむくみやアレルギーの症状が起きやすいようです。

3. 精神的な症状:怒りっぽくなる、イライラする、集中力が低下する

月経前症候群の精神症状は次のようなものがあります。

  • イライラ
  • 怒りやすい
  • 攻撃的
  • 無気力
  • 気持ちが不安定
  • 集中力の低下
  • 性欲の変化

精神的な症状で最も多いのはイライラや、怒りやすくなることです。気分が高揚したり、攻撃的になったりして、人にあたりやすい一方で、憂鬱な気分にもなりやすく、弱気になって、自分をつまらない人間だと思ったりもします。集中力や能率が低下して仕事や学業に支障が出ることもあります。気分の管理くらいできるのではないか、と思いがちですが、月経前症候群では自分の気分をコントロールすることは困難です。

精神症状の程度がひどい人は、月経前症候群のなかでも重症である「月経前気分不快症候群」の可能性があります。日常生活が全く送れないなどの人は、一度婦人科への受診をお勧めします。

4. 社会生活への影響:仕事や家事が手に付かない、対人関係の悪化、引きこもり

月経前症候群の身体的・精神的症状によって、社会生活で支障が出ることがあります。月経前になると、それまでできていたことができなくなったり、対人関係の問題が生じやすくなったりします。

  • 普段できていた仕事ができなくなる
  • 整理整頓、健康管理ができなくなる
  • ものごとが面倒くさく感じて手につかない
  • 女性であることが嫌になる
  • 月経が嫌になる
  • 他人と口論する
  • 家に引きこもる
  • 理解してもらえないと感じる
  • 一人でいたい気持ちになる
  • 家族へ暴言を吐く
  • 人付き合いが悪くなる

身体、精神の症状と同様に、どのような影響が現れるかは人によって異なります。集中力や効率が低下して仕事がうまく進まなくなったり、家事が手につかなくなったりします。イライラして他人とぶつかってしまったり、彼氏などのパートナーや家族に当たってしまうこともあります。攻撃的にはなりやすいものの、気分の浮き沈みが激しいため、自分の行動を省みて「自分はなんてダメな人間なんだろう」「母親として失格だ」などと自己嫌悪に陥ることもあります。

このように月経前症候群の症状によって、社会生活に支障が出ている人では医療機関で相談することで、症状を緩和する糸口が見つかるかもしれません。一度相談してみてください。

5. 月経前症候群(PMS)がひどいとどんな症状になるの?

月経前症候群の症状のうち、とくに精神症状がひどくなって自分でコントロールができない状態になることがあります。このような人は、月経前気分不快障害(Premenstrual Dysphoric Disorder:PMDD)かもしれません。日本人では1.2%程度が月経前気分不快障害ではないかと言われています。

月経前気分不快症候群の人では、特に次のような精神症状が強く起こります。

著しく情緒不安定になる

自分でコントロールできない感情の激しい浮き沈みがあります。例えば、突然悲しくなって泣いてしまったり、ちょっとしたことで涙もろくなります。人間関係では人から拒絶されることに過度に敏感になったりします。

過度にイライラして、怒りっぽくなる

ちょっとしたことでイライラを強く感じて、怒りっぽくなります。月経前以外の時では、そんなに怒るようなことでなくても怒ってしまい、人間関係がうまくいかなくなることもあります。

憂鬱な気分になりやすく、絶望感を覚える

憂鬱な気分になりやすくなり、何もしたくないような気持ちになります。自分の現状やこれからのことに絶望感を覚えます。自分のことを大したことないと過小評価し、自己批判的な考えになりがちです。

著しい不安や緊張感がある

常に緊張が高まっている感じがしたり、イライラしている状態が続いたりします。

月経前気分不快障害では、これらの精神症状を自分でコントロールできず、日常生活に問題が起こりがちです。月経前に繰り返しこのような症状がある人は、適切な治療で改善する可能性がありますので、一度婦人科で相談してみてください。婦人科に相談した際に、症状が強く、うつ病などが疑われる人では適切な治療を受けるために精神神経科や心療内科を勧められることがあります。

参考文献

日本産科婦人科学会/編, 「日本産科婦人科学会用語集・用語解説集改訂第4版」, 日本産科婦人科学会発行, 2018
川瀬良美ら, 本邦における成熟期女性のPMSの実態. 女性心身誌 2004 : 9 : 119-133.
田坂慶一, PMS/PMDDの疫学, 産科と婦人科 2016 : 83 : 1390-1394.