神経因性膀胱の治療について:治療薬やリハビリテーションなどについて
神経因性膀胱の治療で得られる効果は程度によって異なります。程度が軽ければ治療によって治ることもあります。一方で程度が重い場合には排尿機能の改善は難しく、症状を軽くしたり上手に付き合うための治療が中心になります。
目次
1. 神経因性膀胱の治療にはどんなものがあるのか?
神経因性膀胱の治療法は多様です。薬を使う場合もあれば、手術が検討される場合もあります。イメージしにくいものもあると思いますが、まずは下のリストを眺めて見てください。
【神経因性膀胱の主な治療法】
- 膀胱訓練
- 骨盤底筋訓練
- 薬物療法
- 清潔間欠自己導尿
- 尿道カテーテル留置
- 手術
どの治療法を選ぶかは症状の程度や患者さんの身体の状態によって決まります。例えば、程度が軽く治る可能性がある人には膀胱訓練や骨盤底筋訓練が行われ、治療が上手くいけば神経因性膀胱になる前の状態近くまで回復する人もいます。一方で程度が重く回復が難しい人には薬物療法や清潔間欠自己導尿などで症状を軽くし、病気と上手に付き合うことが目標になります。
これ以降は治療法を一つひとつ説明していきます。
2. 膀胱訓練
膀胱訓練とは排尿をできるだけ我慢することを指します。
3. 骨盤底筋訓練
骨盤底筋とは膀胱や直腸、膣といった骨盤の中にある臓器を支える筋肉のことです。骨盤の中にある臓器が垂れ下がってくるのを防ぐ役割があります。骨盤底筋を訓練によって鍛えると、尿道を締める力が強くなり、尿もれの予防効果が期待できます。具体的な訓練法は、尿道や肛門、膣に力を入れたり緩めたりを繰り返します。座った状態や立った状態のどちらでもよいです。リハビリテーションとして行われることもあり、より効果的に訓練を行うには専門的な知識をもつ
4. 薬物療法:エブランチル・ウブレチドなど
薬物療法でよく用いられるのは次の2つの薬です。
【神経因性膀胱で用いられる主な薬】
α1遮断薬は尿道の筋肉(尿道
また、前立腺肥大症や過活動膀胱といった
5. 手術:膀胱拡大術
膀胱は袋状の構造をしており、伸び縮みができる臓器です。この性質があるため尿をある程度溜めておくことができます。しかし、神経因性膀胱では膀胱が硬く小さく変化し、この変化のため膀胱に尿を留めておくことが難しくなる人がいます。このように膨らみが悪くなった状態を「低
低コンプライアンスな状態を改善する方法の1つとして手術(膀胱拡大術)があります。手術法はいくつかありますが、膀胱の硬くなった部分を切り取り、腸で置き換える方法が一般的です。手術後は膀胱に溜められる尿の量が増えるので、頻尿や尿失禁といった症状の改善が期待できます。
効果が期待できる一方で、手術は下腹部を切る必要があったり、長い入院期間が必要になるなど、身体への負担が大きいです。このため、他の治療法が手術に優先して行われることが多いです。
6. 清潔間欠自己導尿(CIC:clean intermittent catheterization)
膀胱から先に尿が流れなくなった人に行われる治療です。具体的には尿道から細い管(以下カテーテル)を挿入して、管から尿を排出します。医療機関でやり方を教えてくれるので、普段は1日4回から6回の頻度で患者さん自身か介護者が行います。
【清潔間欠自己導尿の手順例】
- 1. 石鹸を使って手を洗う
- 2. 尿道の周りを消毒する
- 3. カテーテルを先端がどこにも触れないよう気をつけて取り出し、挿入しない側をキャップや洗濯バサミで止めておく
- 4. 尿道をしっかりと確認し、カテーテルを優しく挿入する
- 5. 管中に尿が出てくるのを確認し、カテーテルについているキャップや洗濯バサミを外す
- 6. 尿が出終わったところでカテーテルを少し抜き残尿がないことを確認する
- 7. カテーテルを引き抜き終了
カテーテルを力ずくで押し込むと尿道を傷つけてしまう可能性があるため強引な操作はやめてください。うまくカテーテルが入らない場合や尿の流失がない場合は、まずかかりつけのお医者さんに相談してください。
7. 尿道カテーテル留置
尿道カテーテルは膀胱の中の尿を身体の外に出す管のことです。カテーテルを使った治療には前述した「清潔間欠自己導尿」もあります。清潔間欠自己導尿ではカテーテルを導尿時だけ挿入しますが、尿道カテーテルは排尿時以外も挿入しておきます。
余談ですが、尿道カテーテルの先端付近には水を入れると風船状に膨らむような部位があります。この風船状の構造物のおかげで尿道カテーテルの先端は抜けてこずに膀胱の中にとどまり続けることができます。風船上の構造物があることから尿道カテーテルは医療現場では「バルーンカテーテル」と呼ばれることがあります。
参考文献
・「標準泌尿器科学」(赤座英之/監 並木幹夫、堀江重郎/編)、医学書院、2014
・「泌尿器科診療ガイド」(勝岡洋治/編)、金芳堂、2011