もうまくはくり
網膜剥離
眼球の内側に張り付いている網膜が剥がれてしまった状態。ものの見え方に異常(視野が欠ける、ものが歪んで見えるなど)がでたり、ひどい場合は失明してしまうこともある
5人の医師がチェック 150回の改訂 最終更新: 2021.03.31

網膜剥離について知っておいたほうがよいこと

網膜剥離になったら、失明するのではないか、再発するのではないかと不安になるものです。ここでは網膜剥離が心配な人やなった人に知っておいてほしいことについて説明します。

1. 網膜剥離の予防方法はあるのか

網膜剥離に有効な予防法はみつかってはいません。しかし、外傷は原因の一つになるため、眼への衝撃を避けることは大切です。例えば、アトピー性皮膚炎の人は痒みから目を掻きがちですが、強くこすったり叩いたりしないように注意することは予防になります。

網膜剥離を原因とした失明を予防するためには、早期発見と早期治療が重要です。網膜剥離を起こしていないか過度に気にしすぎる必要はありませんが、見えにくさや、ものの見え方が変化に気づいたら、受診をお勧めします。

次に、セルフチェックの方法を紹介しますので、網膜剥離が心配な人は参考にしてみてください。

2. 網膜剥離のセルフチェック方法とは

網膜剥離が起こると視力や視野に変化が現れます。以下のチェック項目は必ずしも網膜剥離の人全てに当てはまるものではありませんが、どれか当てはまる人は眼の病気が隠れている可能性があります。両目で見ていると気がつかないこともあるので、片目ずつ以下について確認してみてください。

  • 最近急に視力が落ちてきた
  • 視野の中にゴミが見える(飛蚊症
  • ピカピカと光るものが見える(光視症)
  • 視野がゆがんで見える
  • 視野の中で見えにくい部分がある

上記に当てはまるものがあれば、眼の病気がないかどうか眼科を受診して調べてもらってください。

3. 網膜剥離の原因についての疑問

網膜剥離になった人は原因についてあれこれ考えを巡らせてしまうと思います。しかし、ほとんどの原因は加齢や先天的な網膜変性です。網膜剥離の原因と考えられがちなことについて説明します。

コンタクトレンズやスマートフォン(スマホ)は原因になるのか

網膜剥離は先天的な網膜の変性や、加齢が原因になることがほとんどです。コンタクトレンズの使用や、スマートフォンなどでの眼の使いすぎが原因になることはありません。

ストレスは原因になるのか

網膜裂孔を原因とした裂孔原性網膜剥離はストレスが原因になることはありません。

例外として、非裂孔原性網膜剥離の一つである網膜中心性漿液性脈絡網膜症(もうまくちゅうしんせいしょうえきせいみゃくらくもうまくしょう)ではストレスが一つの要因になると考えられています。この病気は網膜の孔を伴わない網膜剥離であり、黄斑部に水ぶくれ(むくみ)が起きて視力の低下、視野の欠け、ゆがんだものの見え方などの症状が起こります。基本的には3-6か月程度で自然に改善することが多いですが、病状次第でレーザー治療や薬物治療が行われます。

網膜剥離は遺伝するのか

網膜剥離自体は遺伝はしません。しかし、若年性の網膜剥離の原因となる網膜の変性には遺伝の関与が考えられていて、家族が網膜剥離を起こしている人はこの変性を持つ可能性があります。ただし、変性があったとしても全員が網膜剥離を起こすわけではないので、過度に心配しすぎる必要はありません。

なお、若年性の網膜剥離は進行がゆっくりであるため自覚症状なく進行し、メガネを作る時やコンタクトレンズを購入する際の眼底検査で偶然網膜剥離が発見されることもあります。家族が若年性の網膜剥離を起こしている人は、念のため定期的に検査を受けると安心です。

4. 網膜剥離を放置するとどうなるのか

網膜剥離を治すには手術が必要です。放置していると剥離が進んで視野が狭まり失明に至ることがあります。また、剥離が黄斑部に及ぶと急激に視力が低下し、手術をしても改善が難しくなります。

そのほかにも、網膜剥離を放置すると増殖性硝子体網膜症を起こすことがあります。これは、網膜剥離を修復しようと細胞が集まって増殖膜という膜を作り、網膜を引っ張って網膜にシワができた状態のことです。この状態になると網膜を元の位置に戻すのが難しくなり、ほとんどの場合で視機能が悪化します。

網膜剥離は失明するのか

網膜剥離は進行すると失明する可能性があります。網膜が全て剥離してしまった場合や、黄斑部が剥離を起こして長期間経過した場合です。

黄斑部まで網膜剥離が進むと手術で網膜を戻しても視機能の改善は難しく、メガネやコンタクトレンズを使っても視力が上がらなくなる可能性が高いです。また、発症から時間が経つと、血流の悪い状態が長期間続いて網膜がダメージを受けてしまい、手術をしても視機能が戻らない可能性があります。

どのくらい経過したら失明するのかに関しては、さまざまな報告があり一概にはいえません。網膜剥離が起きてから3日で視細胞の機能が低下するという報告もあれば、黄斑部の剥離が起きても7日以内の手術であれば視力に差がなかったという報告もあります。3日以上経過しても視力の回復が見られていることから、網膜剥離が進行して黄斑剥離を起こした人全員がその日のうちの緊急手術が必要、というわけではなさそうですが、やはり時間が経過するほど失明のリスクは高くなるため、早期の受診、手術が勧められます。

5. 網膜剥離は完治するのか

何をもって「完治」というかによりますが、網膜が適切な位置に戻ることを完治したという場合、網膜剥離では1回の手術で9割の人が完治します。残り1割の人で再発がみられますが、術後2-3ヶ月以内の再発が多く、半年経過すると再発は少なくなります。このことから、半年たった時点で再発がなければ完治と言えるかもしれません。

しかし、「完治」を「視機能の改善」と考えた場合、網膜剥離が完治するかどうかは病状によって異なります。病状によっては視力が回復しきらないことや、視野の歪みが残ることがあります。

ただ、たとえ片目の視機能が改善しきらない場合でも、もう片方の目が正常であればほぼ不自由なく生活できることが多いです。

6. 網膜剥離は再発するのか

網膜剥離は再発することがあります。9割の人は1回の手術で改善しますが、残り1割の人では再手術が必要になることがあります。また、手術で改善したもののしばらくして網膜が再び剥離してしまうこともあります。再発した場合には手術で再び網膜をもとの位置に戻します。この時行われる手術は網膜剥離の状態によって異なります。

再発を繰り返すうちに、増殖性硝子体網膜症を発症して治りずらくなる人もいます。ボクシングなどのボディコンタクトの多いスポーツでは、目への衝撃が繰り返されるために再発を繰り返しがちです。

網膜剥離の術後に飛蚊症の増加や、視力や視野などの見え方の変化、痛みの持続などを感じた時はなるべく早く手術を受けた医療機関を受診してください。

参考文献

Hisatomi. T. et al. Critical role of photoreceptor apoptosis in functional damage after retinal detachment. Curr Eye Res. 2002 Mar;24(3):161-72.
Ross WH, Kozy DW. Visual recovery in macula-off rhegmatogenous retinal detachments. Ophthalmology. 1998 Nov;105(11):2149-53.

(2020.5.18閲覧)