まんせいこうまくかけっしゅ
慢性硬膜下血腫
硬膜下(硬膜と脳の間のスペース)で、時間をかけてじわじわと出血して、血が溜まる病気
16人の医師がチェック 253回の改訂 最終更新: 2022.08.05

慢性硬膜下血腫の治療:手術・保存的治療・リハビリテーション

慢性硬膜下血腫の治療は主に手術によって行われます。手術では頭の中に溜まった血の塊を外に取り出します。血の塊が小さい時や症状がそれほどでもないときには、そのまま身体に吸収されるのを待つ選択肢もあります。

1. 手術(穿頭血腫除去術):血の塊を手術で取り除く

慢性硬膜下血腫は頭の中に血の塊が溜まることで様々な症状が現れます。原因となる血の塊を取り除くことで症状の改善が期待できます。頭の中に溜まった血を抜くというと恐ろしい治療を思い浮かべるかも知れません。どんな治療なのか麻酔の方法も含めて解説していきます。

麻酔の方法

穿頭血腫除去術は、局所麻酔でも行うことができる手術です。局所麻酔は全身麻酔に比べると身体への影響が少ないので高齢者が多い慢性硬膜下血腫の手術には好んで用いられるケースが多いです。局所麻酔と全身麻酔はどんな方法なのでしょうか。具体的に説明していきます。

■局所麻酔

局所麻酔は穴を開けたりする部分の痛み感覚をとる麻酔です。歯科などの処置で経験したことがあるかもしれません。局所麻酔は意識がなくなるということはなく、手術中も意識はあります。局所麻酔では麻酔薬を皮膚の下に注射して痛みの感覚を取り除きます。頭の皮膚に局所麻酔薬を注射してしばらくすると皮膚を切ったりしても痛みは感じません。ただ押される感覚はとれないので、処置中は押されていると感じることはあります。麻酔薬の効果は個人差があるので、痛みを感じるときには、その旨を主治医に伝えて下さい。

慢性硬膜下血腫の手術(穿頭血腫除去術)に対しては、局所麻酔が用いられることが多いのですが、場合によっては次に説明する全身麻酔が選ばれることもあります。

■全身麻酔

全身麻酔は意識を薬によってなくすとともに痛みなども取り除く麻酔方法です。全身麻酔中は自分で呼吸が出来なくなるので口から気管に管を挿入して人工呼吸器という機械で呼吸を行います。

人工呼吸器で呼吸をしたりいくつかの薬を用いるので全身麻酔の身体への負担は局所麻酔より大きくなります。局所麻酔の方が身体への負担という面では優しいのですが、安静を保てない場合や血腫が大きい場合、血腫が両側にある場合では全身麻酔の方が適していると判断されて選ばれることがあります。

手術(穿頭血腫除去術)の実際

以下は手術(穿頭血腫除去術)の流れの例です。手順は施設によって異なることもあるので、この通りに進むとは限りませんが参考にして下さい。

  1. あらかじめ印をつけておいた場所の皮膚をメスで3cm程度切る
  2. 皮膚から出血するので止血してその下にある筋肉を切る
  3. 頭の骨が見えたら骨の表面を専用の機械で削る
  4. 骨にドリルの様なもので親指程度の大きさの穴を開ける
  5. 硬膜を確認してメスで十字に切開する
  6. 硬膜に穴を開けた場所からチューブ(ドレーン)を挿入する
    1. チューブは必要な本数だけ使う
  7. チューブに注射器をつなげて生理食塩水を入れたりして洗浄する
  8. 洗浄液が無色透明に近づくまで洗浄を繰り返す
  9. チューブを残したまま骨と皮膚を元通りに修復する

手術は1時間程度で終わることが多いです。手術の後には頭の中の血液の塊を外に出すためのチューブ(ドレーン)が挿入されています。このドレーンは再出血が起きた時にいち早く気づいたり溜まった液体を抜きとったりするなどの目的がある大切なものです。

手術の合併症

合併症とは治療などによって引き起こされる好ましくない状態のことです。治療が順調にいっても合併症はある一定の確率で起こることがあります。

穿頭血腫除去術の主な合併症は以下のものです。

■感染

脳は清潔な臓器で正常な状態では細菌は存在しません。しかし血液を抜くためのチューブを挿入するとそこに細菌が付着して感染がおきることがあります。感染は傷口や頭の中の両方に起こりうる可能性があります。感染が起きた場合、必要に応じて抗菌薬(抗生剤、抗生物質)を使って治療が行われます。

■再出血

慢性硬膜下血腫は、脳が血の塊により圧迫されていますが、塊を取り除くと圧迫が取れたことにより血液の流れが良くなって再出血することがあります。また血液の塊を取り除くために挿入した管が脳の表面に当たることも出血の原因になります。再出血が起きた場合は、出血の程度により再手術をしたりそのまま様子をみたりします。

■痙攣(けいれん)

手術の影響が脳に及んで痙攣が起こることがあります。痙攣は全身の筋肉が自分の意思とは関係なく収縮することで身体ががくがくと震えるような症状が現れます。痙攣は体全体が震えるような程度から身体の一部分が震えるものまで様々です。痙攣が起きた場合は痙攣を止めるための薬を使ったりして治療します。

気脳症

気脳症は、手術の後に血液の塊があった部分に空気がたまり、その空気が温められて膨張し脳を圧迫することで起こります。脳が圧迫されると頭痛などの症状が現れます。症状が強い場合や溜まっている空気の量が多い場合には空気を抜くための治療をする場合があります。

手術後の経過

手術後の数日は頭の中に入れている管とともに生活をする必要があります。この管はドレーンと呼ばれるもので、血の塊があった部分の中に液体が溜まるのを予防する効果があり、再発率を下げる効果も期待されています。管が入っているので管が皮膚にこすれたりして痛みがでることがありますが、そのときには痛み止めを使うことで和らげることができます。

手術後には意外にも身体が動くと感じて身の回りのこともやりたい気持ちになるかもしれませんが焦りは禁物です。普段通りに動こうとしても身体は思うように動かないことが多く、そのために転んだり管を引っ掛けたりしてしまい思わぬ事態が起こることがあります。医師や看護師から、どの程度の範囲で動いてよいか、動くときに声をかけた方がよいかなどを確認して下さい。

手術から数日経過し頭に入れた管から出てくる液体が少なくなると管を取り外します。管が抜けて退院に問題がない状態まで身体が回復すると退院になります。退院後は傷の状態の確認や再出血がないかを調べるために数回受診をします。

手術後に再発することはある?

慢性硬膜下血腫は再発することがあり、再発率は5-30%程度とされています。慢性硬膜下血腫が再発しやすいのは、以下のような人だと考えられています。

  • 高齢者
  • 両側に起きた場合
  • 溜まった血腫が厚い場合

これらの条件に当てはまる場合には医師からも再発の危険性が高いと説明があると思います。家族なども経過により注意を払ってください。慢性硬膜下血腫は再発することもあり、油断のならない病気です。とはいえ再発をしても早期に気づいて適切な治療をすれば回復することも十分に望める病気なので、退院後は再発していないか観察することと、再発させないための工夫が大切です。

慢性硬膜下血腫の再発を避けるための注意点などは「このページ」も参考にして下さい。

参考文献
・Oishi M, et al. Clinical factors of recurrent chronic subdural hematoma. Neurol Med Chir.2001;41:382-6
・Wang F, et al. Prolonged drainage reduces the recurrence of chronic subdural hematoma. Br J Neurosurg. 2009;23:606-11
・Oh HJ. et al. Postoperative course and recurrence of chronic subdural hematoma. J Korean Neurosurg Soc. 2010;48:518-23
・Kung WM, et al. Quantitative assessment of impaired postevacuation brain re-expansion in bilateral chronic subdural haematoma: possible mechanism of the higher recurrence rate. Injury. 2012;43:598-602
・Yamamoto H, et al. Independent predictors of recurrence of chronic subdural hematoma: results of multivariate analysis performed using a logistic regression model. J Neurosurg. 2003;98:1217-21

2. 保存的治療:血の塊が吸収されるのを待つ治療

保存的治療では、手術をせずに血の塊が吸収されるのを待ちます。身体をぶつけたりして内出血をした経験は誰でもあると思いますが、多くの場合は怪我をした部分を保護して血液が吸収されるのを待ったと思います。血液が吸収されるのは頭の中でも例外ではありません。血液の量が少なく症状が軽いのであれば身体に吸収されることを待つことも治療の方法として理にかなっていると言えます。

保存的な治療を選んだ後に回復が期待されたほどのものではないときには、手術によって治療をする方針に変更することもあります。

3. リハビリテーション

慢性硬膜下血腫によって現れた症状がその後も残ることがあります。後遺症があるとその後の生活に支障を来してしまいます。後遺症をできるだけ軽くするためにリハビリテーション(リハビリ)を行います。例えば歩行が難しくなっている場合には歩行の訓練を行ったり箸などの扱いが不自由になった場合には箸やスプーンの扱い方を練習します。

リハビリテーションは医療機関だけではなく自宅でも行うことができます。少しの時間でもよいので日々の生活の中にリハビリテーションを取り入れて見て下さい。

どのようなリハビリテーションができるかを理学療法士や作業療法士などに相談して指導を受けると、なおよいリハビリテーションができることも期待できます。