2022.01.18 | コラム

ワクチンで予防ができる「がん」があるってご存知ですか?

子宮頸がんをワクチンと検診で予防しよう

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ワクチンというと、インフルエンザや新型コロナなどの感染症を予防するものという印象が強いと思います。実は「がん」の中には、ウイルス感染が原因となるものがあり、ワクチンで予防できるのです。

そのひとつが、子宮頸がんです。

今回は子宮頸がんを予防するために必要な、ワクチンと検診について説明します。ぜひ、お読みになって、予防できる「がん」である子宮頸がんについて、考えてみるきっかけになれば幸いです。

日本でのHPVワクチンの接種状況は低いまま推移している

子宮頸がんの約95%以上が、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスの感染によって引き起こされます。HPVへの感染を予防するのがHPVワクチンです。

日本では「HPVワクチン接種後の重い症状」についてさかんに報道された影響で、2013年に定期接種の積極的な勧奨が控えられました。「積極的勧奨を控える」とは、オススメしない(やらないほうがいい)という意味ではなく、自治体が家庭にお知らせハガキを送るなどして積極的に接種を促す取り組みを控える、ということでしたが、多くの人は接種しないほうが良いと捉えたかもしれません。

その後の調査でワクチンの安全性が証明され、また、引き続き定期接種として公費で受けられる状態だったにも関わらず、2021年11月まで国策として「積極的勧奨」が控えられたままで経過していました。そのため、他の先進国に比べて、日本ではHPVワクチンの接種率が極めて低い状態が続いています

HPVワクチン接種率の低さにくわえて、子宮頸がん検診の受診率が低いことも問題となっています。多くの先進国で減少している子宮頸がんで亡くなる人数は、日本ではむしろ増加傾向にあるのです。

がんのほとんどが高齢者に多い傾向になりますが、子宮頸がんは20-40代の若い女性に多いがんです。日本では毎年約1万人に子宮頸がんが見つかり、約3000人が死亡しています。子宮頸がんには予防方法があるにもかかわらず亡くなる人が増えている現状は、いち医療者として、とても心苦しいものです。また、一命は取り留めても子宮を手術で切除する必要が出て妊娠を諦めざるを得なくなることも少なくありません。ワクチンの副反応ばかりを見ずに、今いちどメリットのほうにも目配りしてほしいと切に願っています。

 

子宮頸がんを引き起こすHPVはどのようなウイルスか

HPVは日常生活にありふれたウイルスで、200以上もの種類(型)があります。その中にはイボの原因になる型もありますし(詳しくは尋常性疣贅のページを参照)、悪性の病気(がん)の発症に深く関係する型もあります。がんの発症に関わる型が子宮頸部に感染し、その状態が続くと、数年から数十年をへて子宮頸がんを引き起こします。

子宮頸部にHPVが感染する経路のほとんどは、性的接触です。性交渉の経験がある女性の5-8割はHPVに感染したことがあると推定されています。しかし、感染したとしても、全員ががんに至るわけではなく、9割の人では自分の免疫でウイルスを排除することができます。

残り1割程度のウイルスを排除できなかった人にHPV感染が続き、その状態が長期間持続すると、HPVに感染した細胞が前がん病変*になり、さらにその中の一部の人が子宮頸がんに至ります。(* 前がん病変とは、がんになる一歩手前の状態のことです。)

この最初のHPV感染を防ぐ効果や、前がん病変の減少効果が確認されているのがHPVワクチンです。子宮頸がんの発症リスクが下がったという報告もされています。スウェーデンでの調査では、17歳になる前にワクチン接種をした人では発症リスクが88%低下したということです。

 

HPVワクチンの種類と効果とは?

子宮頸がんを引き起こしやすいHPVの型は限定的で、日本人ではHPV16型、18型を原因とするものが約65%を占めます。この2つの型は前がん病変から子宮頸がんに進行する割合が高く、進行も速いと言われています。

定期接種で用いられている2つのワクチンのうち、サーバリックスガーダシルはこの2つの型に対応しているため、子宮頸がんの原因となる6-7割のHPV感染を予防できると考えられています。

また、2023年4月から定期接種で受けられるようになったシルガード9では、子宮頸がんの原因となる約9割のHPV感染を防ぐことが期待できます(*)。

 

【日本で定期接種として採用されているHPVワクチン(2023年4月)】

  • サーバリックス:16型、18型の2種類のHPVに対するワクチン
  • ガーダシル:6型、11型、16型、18型の4種類のHPVに対するワクチン
  • シルガード9:6型、11型、16型、18型、31型、33型、45型、52型、58型の9種類のHPVに対するワクチン

 

HPVワクチンを受けていても子宮頸がん検診を欠かさないでほしい理由

定期接種のHPVワクチンを接種することで、子宮頸がんの原因ウイルスの約6-9割を予防できます。しかし、ワクチンに含まれていない型のHPVによる子宮頸がんもあるため、接種後も、子宮頸がん検診を受けることは重要です。

HPVワクチンはHPVの感染を予防することで子宮頸がんの発症そのものを食い止め、検診は早くから異常を発見することで適切な経過観察と早期治療につなげ、子宮頸がんの悪化や死亡を防ぐ、というわけです。

前がん病変や初期の子宮頸がんに症状はほとんどなく、自分で気づくことは難しいです。そのため、たとえ子宮頸がんワクチンを接種したとしても、20歳以上の女性では2年に1回、子宮頸がん検診を受けることが推奨されています。

子宮頸がんはHPVの持続的な感染が原因です。1回検診を受けて大丈夫だったとしても、時間を経て発症することもあるため、検診は定期的に継続して受けることが必要です。

 

HPVワクチンと定期的な検診の両方を85%以上の人が受けるようになれば、子宮頸がんの95%を予防できるとされています。

このように、予防できる「がん」である子宮頸がん。接種の積極的勧奨が再開されたいま、ワクチンの存在を知っていただき、子宮頸がんによって悲しむ人が減っていったら嬉しいです。

 

*2023年4月からシルガード9も公費で受けられるようになったことを受けて修正をしました。

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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