透析治療とは?
腹膜透析について説明する前に透析治療について簡単に触れておきます。透析治療とは、腎臓の機能が低下した人に必要となるものです。腎臓の代わりに、体内に溜まった老廃物や水分を人工的に体外に出します。老廃物や余分な水分の多くは血液中に含まれているので、血液を抜き出して、機械できれいにし、身体に戻すのが一つの方法になります。これが血液透析と言われるものです。単に透析治療というとこの血液透析を指していることが多いです(詳しくは「こちらのコラム」を参考にしてください)。
腹膜透析の内容について
腹膜透析では血液透析とは違った原理で、老廃物や水分を身体の外に排出します。具体的には、「腹膜」という身体の一部分を使った方法になります。 腹膜とは胃や腸といった臓器を包み込んでいる構造物です。膜全体に毛細血管と呼ばれる細い血管が張り巡らされています。そして、この腹膜によって構成されたお腹の中の広いスペースを腹腔と言います。腹腔に透析液という特殊な液体を注入すると、腹膜の毛細血管の壁から、余分な水分や老廃物が透析液中に染み出してきます。腹膜透析ではこの原理を利用して、血液をきれいにします。 一回あたりの腹膜透析には6時間から8時間かかりますが、その間には寝たきりでいなければならないわけではなく、負担のかからない範囲で仕事をすることもできますし、家事などをこなすこともできます。この自由度が腹膜透析の大きなメリットです。
治療に必要な時間が経過した後は、老廃物や余分な水分を含んだ透析液を抜いて新しい透析液に入れ替えます。
なお、透析液の入れ替えにかかる時間は30分程度ですので、昼休みなどの休憩時間を利用して、職場で透析液の交換をする人もいます。一連の操作を自身や家族の手でやらなければならないのが、少しハードルが高いと感じるかもしれません。
腹膜透析の準備について
ここまで読み進めると「一体どうやって、お腹の中に透析液を入れるのだろうか?」という疑問を抱いた人がいるかと思いますので、次に「腹膜透析を始めるための準備」などについて説明します。
腹膜透析に必要なカテーテルの埋め込み
透析液を入れたり出したりするには、カテーテルと呼ばれる細長い管をお腹に埋め込む必要があります。カテーテルは手術室でお腹を小さく切開して腹腔内に挿入・留置します。 入院期間は数日から数週間です。手術後にすぐ透析治療を開始する場合は、この後説明する「透析液の調節」まで続けて行うので、入院期間が長くなることが多いです。一方で、透析開始まで余裕がある場合には、手術の傷が落ち着いた時点で一旦退院できます。
透析液の調節
腹膜透析に必要な透析液の量は一人ひとりで異なります。体格や、残っている腎臓の機能、腹膜の状態などに影響を受けるからです。体格や、腎臓の機能は、比較的簡単な検査でわかりますが、腹膜の状態を調べるのは難しいです。そのため、実際に透析液をお腹の中に入れてみて、透析液の量や種類を調整することになります。
腹膜透析はライフスタイルに合わせられる
腹膜透析は、治療を行う時間帯によって、次の2つの方法に大別できます。
【腹膜透析の種類】
- CAPD(continuous ambulatory peritoneal dialysis:持続携行式腹膜透析)
- 日中に透析液を数回交換する方法
- APD(automated peritoneal dialysis:自動腹膜透析)
- 寝ている間に機械で透析液を何回か自動交換する方法
腹膜透析を行う人の生活スタイルや、考えにもとづいて、どちらかを選ぶことができます。例えば、日中に隙間時間が見つけやすい人にはCAPD(日中に透析液を交換する方法)が向いているかもしれませんし、日中を透析治療と関係なく過ごしたい人にはAPD(夜間に自動で透析を行う方法)が有力な選択肢になります。
どちらの方法が自分に向いているかは、現在の生活や今後の過ごし方などを客観的に捉えると、明確になりやすいです。自分なりの考えをまとめてお医者さんと相談してみてください。
今回のコラムでは馴染みが薄い「腹膜透析」について簡単に説明しました。透析治療と聞くと、生活に強い制限がかかるイメージを持たれがちですが、腹膜透析は自宅で行える治療であり、生活への影響は比較的小さくて済む人が多いです。 このコラムが透析治療を考えている人や家族の参考になれば幸いです。
執筆者
・腹膜透析ガイドライン改訂ワーキンググループ/編, 腹膜透析ガイドライン2019, 医学図書出版,2019
・日本腎臓学会, 日本透析医学会, 日本腹膜透析医学会, 日本臨床腎移植学会, 日本小児腎臓病学会/編, 腎代替療法選択ガイド2020, ライフサイエンス出版, 2020
・門川俊明, 患者さんとともに理解するCKDと血液透析, 南江堂, 2015
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。