感染拡大の要因のひとつに、感染力の強いデルタ株への置き換わりが挙げられます。デルタ株は、従来株と比べて感染力が強く、従来の新型コロナウイルスは1人の感染者から約2.5人に感染するのに対し、デルタ株では1人の感染者から約7人に感染するとされています[1]。さらに、ワクチン未接種の人では従来株よりも重症化する可能性があります[2]。加えて、ワクチン接種が完了している人の感染(ブレイクスルー感染)も知られています[2]。直近ではデルタ株は日本全国で9割を超える状況と推計されており、アルファ株からほぼ置き換わったと考えられています[3]。
本コラムでは、デルタ株を含む新型コロナウイルス感染症の症状を再度確認したいと思います。
*本コラムは2021年9月1日現在の情報に基づいています。
1. 新型コロナの典型的な症状
新型コロナウイルスが感染してから何らかの症状が出現するまでの期間(潜伏期間)は、最大14日間に及びますが、多くは4~5日とされています。ある研究では、感染した人の97.5%に、感染してから11.5日以内に症状が出現すると報告されています[5]。新型コロナウイルス感染症の症状はさまざまですが、病気の経過とともに以下のような症状を経験します。
【新型コロナウイルス感染症の主な症状】
- 発熱、悪寒
- 咳
- 息切れ、呼吸困難
- 倦怠感
- 筋肉痛
- 頭痛
- 味覚、嗅覚障害
- 咽頭痛
- 鼻詰まり、鼻水
- 吐き気、嘔吐
- 下痢
症状は病気の重症度によっても異なります。例えば入院患者では、症状が軽い人(入院していない患者)よりも息切れが多く報告されています[5,6]。また、高齢者や持病がある人では、若年者や持病のない人に比べて、遅れて発熱や呼吸器症状が出てくることがあります[7,8]。入院していない患者では、倦怠感、頭痛、筋肉痛が最もよくみられ、咽頭痛や鼻づまり・鼻水もまたよく見られます。患者の多くは、発熱や下気道症状に先立って、吐き気・嘔吐、下痢などの胃腸症状がみられることもあります[9]。味覚・嗅覚障害はよく報告されており、ある研究では3分の1の患者が経験し、特に女性や若年・中年の患者に多く見られます[10]。
2. デルタ株、従来株と症状は同じ?
デルタ株は従来株よりも検出されるウイルス量が1260倍多く、潜伏期間が2日も短いことが報告されています[11]。典型的な症状はこれまで同じですが、最近の国内の新型コロナウイルス患者のデータ[12]によると、その頻度にやや差がみられ、アルファ株と比較してデルタ株では、発熱、咳、頭痛、嗅覚・味覚障害が多いことが報告されています。
【デルタ株とアルファ株での症状の頻度の違い】
コロナ感染陽性で有症状者 | デルタ株 | アルファ株 |
人数 | 5,211人 | 52,811人 |
発熱 | 84.9% | 73.0% |
咳 | 46.4% | 43.2% |
咳以外の急性呼吸器症状 | 9.5% | 9.9% |
肺炎像 | 2.6% | 3.4% |
重篤な肺炎 | 0.29% | 0.40% |
全身倦怠感 | 31.8% | 30.5% |
頭痛 | 26.8% | 22.0% |
嘔気/嘔吐 | 2.8% | 2.3% |
下痢 | 5.7% | 6.1% |
結膜炎 | 0.23% | 0.20% |
嗅覚・味覚異常 | 9.8% | 8.0% |
厚生労働省ホームページ:第47回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年8月11日)「資料2-5 HER-SYS データに基づく報告」より
また、有症状者の男女別、年齢別による症状の比較もあります。
- 性別による違い:女性に比べ、男性で発熱、肺炎、全身倦怠感、下痢の症状が多く、咳、頭痛、嘔気・嘔吐が少ない
- 年齢による違い:65歳未満の人に比べ、高齢者では発熱、咳、全身倦怠感、頭痛、下痢、嗅覚・味覚障害が少なく、肺炎が多い
【男女別の症状の比較】
コロナ感染陽性で有症状者 | 男性 | 女性 |
人数 | 282,173人(*) | 232,173人(*) |
発熱 | 76.2% | 68.5% |
咳 | 41.5% | 42.3% |
咳以外の急性呼吸器症状 | 9.9% | 10.2% |
肺炎像 | 4.5% | 3.5% |
重篤な肺炎 | 0.67% | 0.44% |
全身倦怠感 | 30.5% | 25.7% |
頭痛 | 19.4% | 21.4% |
嘔気/嘔吐 | 1.8% | 2.8% |
下痢 | 5.9% | 4.7% |
結膜炎 | 0.19% | 0.16% |
嗅覚・味覚異常 | 11.0% | 12.7% |
(*性別不明の880人を除く)
【年齢別の症状の比較】
コロナ感染陽性で有症状者 | 65歳以上 | 65歳未満 |
人数 | 84,532人 | 374,115人 |
発熱 | 69.9% | 73.2% |
咳 | 38.5% | 42.5% |
咳以外の急性呼吸器症状 | 8.9% | 10.3% |
肺炎像 | 11.8% | 2.5% |
重篤な肺炎 | 2.3% | 0.21% |
全身倦怠感 | 22.4% | 29.5% |
頭痛 | 6.6% | 23.1% |
嘔気/嘔吐 | 2.3% | 2.2% |
下痢 | 3.9% | 5.6% |
結膜炎 | 0.072% | 0.20% |
嗅覚・味覚異常 | 3.8% | 13.4% |
厚生労働省ホームページ:第47回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年8月11日)「資料2-5 HER-SYS データに基づく報告」より
症状のみからコロナかコロナでないかは判断できない
本記事を読んでいる人の中には、自分の症状が新型コロナ感染症に当てはまるかどうか確かめるのが目的の人もいるかもしれません。しかし、症状のみからコロナの可能性があるかどうかアタリをつけるのは困難です。
例えば、上の表と照らし合わせて「症状は鼻水だけで、倦怠感も熱も咳もないから多分コロナじゃないよね」などと自己判断してしまうのは早計です。また、ワクチンの接種の状況によっても症状が異なることが、COVID-19の症状を研究する英国の「Zoe Covid Symptom study」[13]から報告されています。不思議なことに、ワクチン接種をうけた患者では、従来新型コロナウイルスとは関係ないとされていた「くしゃみ」を訴える割合が高いことが報告されています(下表)。
2回接種 | 1回接種 | 未接種 |
1. 頭痛 2. 鼻水 3. 咽頭痛 4. くしゃみ 5. 嗅覚障害 |
1. 頭痛 2. 鼻水 3. 咽頭痛 4. くしゃみ 5. 長びく咳 |
1. 頭痛 2. 咽頭痛 3. 鼻水 4. 発熱 5. 長びく咳 |
Zoe Covid Symptom studyより[13]
新型コロナ感染症は時期や地域によって流行状況が大きく異なります。すなわち、何らかの症状が出現したとしても、コロナであるかそうでないかは住んでいる地域によって大きく変わってきます。また、リスク行動(会食歴や3密環境など)があるかないかも大切です。自身が新型コロナかなと思ったら、まずはかかりつけ医か地域の医療機関に相談しましょう。特に重症化リスクの高い高齢者や基礎疾患のある人は、重症化する前に早めに検査を受けておいたほうがよいでしょう。かかりつけ医など相談する医療機関に迷う場合や、かかりつけ医が休診のときには各都道府県の電話相談窓口に相談することが可能です。
3. デルタ株でも従来株でも感染対策は同じ
デルタ株にしても従来株にしても基本的な感染対策は変わりません[14]。
- 公共の場ではマスクを適切に使用しましょう
- 特に屋内では、1m以上のソーシャルディスタンスを取り、換気を徹底しましょう
- ワクチン接種をしましょう
デルタ株に対してもワクチンは有効です[15]。たとえ、過去に新型コロナウイルス感染症にかかったことがあっても、ワクチンは接種できるタイミングがあればできるだけ早く接種を受けてください。
2. CDC. Delta Variant: What We Know About the Science.
3. 国立感染症研究所. 新型コロナウイルス感染症の直近の感染状況等(2021年8月25日現在)
11. Nature. News. July 21, 2021, How the Delta variant achieves its ultrafast spread
12. 厚生労働省ホームページ:「資料2-5 HER-SYS データに基づく報告」
13. Zoe Covid Symptom study : What are the new top 5 COVID symptoms?
(2021.9.3閲覧)
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。