2020.10.06 | コラム

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するインターフェロンの有効性についてわかっていること(2020年10月6日)

COVID-19とインターフェロンに関する基礎研究や治験の結果について紹介しています
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新型コロナウイルス感染症は未だ十分な治療法が確立されておらず、世界中で治療法の検証がされています。検証されているアプローチはさまざまですが、その中に免疫システムの働きを活性化させることを目的とした「インターフェロン療法」があります。本コラムではインターフェロンがどのような物質であるか、また新型コロナウイルス感染症にインターフェロン療法を行った結果はどうであったのか紹介していきます。

1. インターフェロンとは何か?

新型コロナウイルス含め感染症の原因となるウイルスは、身体の中に入ると細胞の中に入り込みます。そして細胞の中で自らのコピーを複製させることでウイルス量を増やし周囲の細胞へと広がっていきます。こうしてウイルス量が増えると身体の中で炎症が引き起こされ、様々な症状の原因となります。(感染の成立については「感染症はどうやって起こるのか?」を参考にしてください。)

これに対し、身体の中には外敵から身体を守るための免疫と呼ばれるシステムがあります。このシステムには多くの免疫物質や免疫細胞が関わっており、外敵を見つけると駆除しようとします。インターフェロンはウイルス駆除に活躍する免疫物質の一つです。具体的には以下の作用を通してウイルス駆除に役立ちます[1]。

 

  • 免疫システムを活性化し、ウイルスを駆除しやすくする
  • 感染した細胞内でウイルスのコピーを作りにくくして、ウイルスの増殖を抑える

 

私たちの身体はウイルスが入ってきたと認識すると、インターフェロンを作ることでウイルスから身を守ろうとします。インターフェロンはインターフェロンα(アルファ)、インターフェロンβ(ベータ)、インターフェロンγ(ガンマ)などのようにギリシャ文字がつくことで細かく分類され、さらにインターフェロンα1、インターフェロンα2のようにその後に数字がつくことでより細かく分類されます。つまり、インターフェロンとひとくくりにいっても様々なインターフェロンが免疫システムに関わっています。

また、インターフェロンを薬として投与することは既に、ウイルスによる病気の一部では治療法として確立しています。これは「インターフェロン療法」と呼ばれます。インターフェロン療法で使われる薬にはペガシス、ペグイントロンなどがあり、B型肝炎C型肝炎といったウイルス肝炎などの治療に使われています。

 

2. 最近の報告から見えてきたインターフェロンと新型コロナウイルスの関係

インターフェロンは新型コロナウイルスから身体を守る際にも、重要な物質であると考えられています。そのため、複数の研究機関が新型コロナウイルスとインターフェロンに関連性について研究を進めています。

そのうちの一つ、東京大学医科学研究所のグループ[2]は、新型コロナウイルスの遺伝子とインターフェロンの関係性について調べています。その結果、新型コロナウイルスのORF3bという部位がインターフェロンの発現を抑制する可能性があることがわかりました。つまり、新型コロナウイルスはインターフェロンの量を減らす仕組みを持っており、感染した人の中でウイルスが増えやすい環境を作っている可能性があるということです

また、患者の血液中のインターフェロンの量についても報告されています。

Science誌には、新型コロナウイルス感染症患者50名のインターフェロンα2の量が重症度により異なること報告されています[3]。具体的には重症患者のほうが軽症・中等症患者よりもインターフェロンα2の量が少ないという結果でした。インターフェロンがウイルスを抑える物質であることを考えると、この研究結果からはインターフェロンの量が少ないことが、重症化の一因となっていたと解釈できるかもしれません。

Nature誌には、新型コロナウイルス感染症発症後のインターフェロンαの推移が、重症度により次のように異なることが報告されています[4]。

 

  • 中等症患者のインターフェロンαの量:発症後1-5日がもっとも多く、発症後11-15日で少なくなる
  • 重症者患者のインターフェロンαの量:発症後1-5日よりも発症後11-15日のほうが多い

 

つまり、中等症患者ではインターフェロンαは時間経過とともに減っていくが、重症者患者では時間経過とともに増えていく傾向を示しました。同研究チームは、新型コロナウイルスに感染した後に即座にインターフェロンを作ることができず、インターフェロンの産生が遅れる人で重症化するのではないかという仮説を提唱しています[1]。

 

3. 新型コロナウイルス感染症に対してインターフェロン療法は効果があるか

これらの研究結果を踏まえると、インターフェロン療法は新型コロナウイルス感染症の治療薬の候補になりそうです。一方で、研究で期待された薬剤であっても、実際に患者さんに使ってみると効果がないということがしばしば起こります。では、インターフェロン療法を実際に使用した結果も見てみましょう。

新型コロナウイルス感染症に対するインターフェロン療法の治験は数多く進められており[5]、2020年5月のLancet誌には第II相試験の結果[6]が報告されています(第II相試験が何かについてはこちらのコラムで説明しています)。この研究は、香港で入院した中等症から重症の患者を対象にしたランダム化比較試験(※)であり、インターフェロン療法をする人としない人を振り分けて治療しました。主要評価項目(研究の一番メインの結果)であるPCR検査陰性までの期間は、インターフェロンありの治療をした人のほうが有意に短いという結果でした。また、副作用についてはインターフェロンのあり・なしで差はありませんでした。

 

インターフェロン療法の第II相試験について

  インターフェロン療法なし インターフェロン療法あり
治療の内容 ロピナビル・リトナビル(商品名:カレトラ ®︎) ロピナビル・リトナビル(商品名:カレトラ ®︎)
リバビリン
インターフェロンβ
対象 香港で入院した中等症から重症の新型コロナウイルス感染症患者
人数 41人 86人
PCR検査陰性までの期間 12日 7日
副作用 両グループで変わりなし

* ロピナビル・リトナビル、リバビリンはいずれも抗ウイルス薬

 

PCR検査は新型コロナウイルス感染症の診断や治癒の判定に万能な検査ではありませんが(詳しくはこちらのコラムで説明しています)、PCR陰性までの期間が短くなったということは、インターフェロン療法は新型コロナウイルス感染症に対して効果がある可能性を示唆しています。しかし、残念ながらこの研究のみでインターフェロン療法が新型コロナウイルス感染症に対して効果があるとは結論づけることはできません。

ある一つの研究結果から有効性の有無を結論づけるのが早計であることは、過去の事例からも学ぶことができます。

 

MERSコロナウイルスに対するインターフェロン療法の有効性はどうだったか?

新型コロナウイルスの仲間で、死亡率が高い感染症を引き起こすウイルスにMERSコロナウイルスがあります。過去にMERSコロナウイルスに対してもインターフェロン療法が有効であると期待され、その効果が検証されてきました。

2014年には、44人のMERS患者の生存率をインターフェロン療法あり・なしで比較した研究が報告されています[7]。この研究では、治療開始14日の生存率はインターフェロン療法ありのグループのほうがインターフェロン療法なしのグループより有意に高いという結果が示されていました。また28日後においても、統計学的な差はつかなかったものの、インターフェロン療法ありのグループのほうが生存率が高い傾向にありました。この結果はMERSに対してインターフェロン療法が有効なのではないかと期待を抱かせるものでした。

しかし、その後の2019年に報告された349人の患者を対象としたより大規模な観察研究[8]ではインターフェロン療法ありのほうが90日後の生存率が低いという結果でした。この研究は観察研究(※※)であり、インターフェロン療法ありのグループと、インターフェロン療法なしのグループの患者背景が完全に同じではないため、現時点で効果がないとも結論づけることはできませんが、このように別の研究において逆の結果が出るということがしばしば起こるので注意が必要です。

 

つまり、新型コロナウイルス感染症に対するインターフェロン療法の効果についても、今後他の研究で同様の結果が得られるのか、はたまた逆の結果が出てくるのか、さらなる報告を待つ必要があります。

 

(※)ランダム化比較試験:治療薬を使う人と使わない人をくじ引きなどを用いて選定する研究。治療薬を使う人と使わない人が平等に割り振られるため、薬の効果を正確に評価することができる。

(※※)観察研究:診療データの解析など物事の観察による研究。実際の診療では重症化した(治療が難しい)人に新しい薬が投与されていることもあるので、薬の効果が正確に評価できない。

 

4. まとめ

ここまでの説明をまとめると以下のようになります。

 

  • インターフェロンはもともと体内にある物質で、ウイルスに対する免疫反応において重要な役割を担っている
  • インターフェロンの量や経時的変化の違いが新型コロナウイルス感染症の重症化と関わっている可能性がある
  • 新型コロナウイルス感染症に対するインターフェロン療法の有効性を示した研究もあるが、さらなる検証が必要な段階である

 

さまざまなメディアで「〇〇の新型コロナに対する有効性を確認」というような見出しを見かけるかもしれません。ついに治療法が見つかったかと安堵したくなりますが、現在行われている研究はインターフェロン療法と同様に「さらなる検証が必要な段階」であることから、情報を慎重に見極めることが大切です。

このコラムを通じて、新型コロナに関する治療法のニュースとの向き合い方について理解が深まれば幸いです。

 

 

参考文献

1. Park A, Iwasaki A, Type I and Type III Interferons – Induction, Signaling, Evasion, and Application to Combat COVID-19. Cell Host Microbe. 2020 Jun 10;27(6):870-878. doi: 10.1016/j.chom.2020.05.008. Epub 2020 May 27.

2. Konno Y, et al. SARS-CoV-2 ORF3b is a potent interferon antagonist whose activity is further increased by a naturally occurring elongation variant. bioRxiv preprint doi: https://doi.org/10.1101/2020.05.11.088179. this version posted May 12, 2020.

3. Hadjadj J. et al. Impaired type I interferon activity and inflammatory responses in severe COVID-19 patients. Science. 2020 Aug 7;369(6504):718-724. doi: 10.1126/science.abc6027. Epub 2020 Jul 13.

4. Lucas C, et al. Longitudinal analyses reveal immunological misfiring in severe COVID-19. Nature. 2020 Aug;584(7821):463-469. doi: 10.1038/s41586-020-2588-y. Epub 2020 Jul 27.

5. clinicaltrials.gov: COVID-19に対するインターフェロン療法の治験

6. Hung IF, et al. Triple combination of interferon beta-1b, lopinavir–ritonavir, and ribavirin in the treatment of patients admitted to hospital with COVID-19: an open-label, randomised, phase 2 trial. Lancet. 2020 May 30;395(10238):1695-1704. doi: 10.1016/S0140-6736(20)31042-4. Epub 2020 May 10.

7. Omrani AS, et al. Ribavirin and interferon alfa-2a for severe Middle East respiratory syndrome coronavirus infection: a retrospective cohort study. Lancet Infect Dis. 2014 Nov;14(11):1090-1095. doi: 10.1016/S1473-3099(14)70920-X. Epub 2014 Sep 29.

8. Arabi YM, et al. Ribavirin and Interferon Therapy for Critically Ill PatientsWith Middle East Respiratory Syndrome: A Multicenter Observational Study. Clin Infect Dis. 2020 Apr 15;70(9):1837-1844. doi: 10.1093/cid/ciz544.PMID: 31925415

(2020.10.2閲覧)

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。