自家製の缶詰でボツリヌス症に、8-11か月入院したドイツの夫婦
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食中毒の中でも、きわめて強い毒素を作るボツリヌス菌によるものは、現代の先進国でも発生しています。ドイツで自家製の缶詰から食中毒になり、入院して数か月の人工呼吸などが必要になった夫婦の例が報告されました。
似た症状で入院となったドイツの夫婦
ドイツの大学病院の医師らが、自家製の缶詰によるボツリヌス食中毒で入院した47歳女性と51歳男性の夫婦の例を、専門誌『Journal of Medical Case Reports』に報告しました。
先に受診したのは妻でした。めまい、複視(ものが二重に見える)、構音障害(うまく言葉を発音できない)、眼瞼下垂(まぶたが下がる)などの症状が8時間前から現れ進行してきたことで受診しました。これらの症状は脳や神経の異常により現れることがありますが、頭部のCT検査などで異常は見つかりませんでした。
続いて両手足や呼吸のための筋肉を動かしにくい症状も現れました。
入院後24時間で、気管にチューブを挿入して人工呼吸器を使うことが必要になりました。
妻の翌日に夫が受診しました。構音障害、眼瞼下垂など、妻と似た症状がありました。
医師らは息子からの聞き取りで、妻の入院の2日前に、夫婦が自家製の豆の缶詰を食べていたことを知りました。息子は豆から変な臭いがしたので食べていませんでした。
症状と状況から、夫婦ともボツリヌス症と診断されました。
ボツリヌス症は、きわめて強力な毒素を作るボツリヌス菌が原因の、まれな病気です。ボツリヌス菌は酸素の少ない環境で増えやすく、缶詰・瓶詰・真空パック詰食品・自家製発酵食品などから食中毒を起こした例が知られています。ボツリヌス毒素は神経から筋肉への伝達を妨げることで麻痺の症状を現します。
治療には抗菌薬(抗生物質)では効果が期待できず、抗菌薬の種類によっては悪化させることも考えられます。
有効な治療として、ボツリヌス毒素に対する抗毒素という薬があり、発症後早期に使用すれば死亡率を下げる効果があります。しかし、ドイツのガイドラインでは毒素を摂取してから24時間以内にだけ抗毒素の使用を勧めています。この夫婦は原因と思われた豆を食べてから診断時点で3日以上過ぎていたため、ガイドラインの勧めに従って、抗毒素は使わない判断がなされました。
家に残っていた缶詰からはボツリヌス毒素が見つかりました。
夫も入院となり、手足などの麻痺が現れ、入院3日目に嘔吐したものを吐き出せず人工呼吸器が必要となりました。
妻は11か月、夫は8か月で回復して退院
妻は入院後にも新たな症状などが現れましたが、対症療法で改善し、入院27日目に急性期リハビリテーション病院に転院しました。
入院11か月後に退院となりました。退院時には脱力感などがあったものの、多くの症状は解消していました。
夫は入院15日目に軽度の麻痺がある状態で急性期リハビリテーション病院に転院しました。転院先でさらに筋力の低下などがありましたがのちに回復し、入院8か月後に脱力感と筋肉痛を残して退院しました。
報告した医師らは考察として、ドイツのガイドラインの勧めに従って抗毒素は使わなかったものの、ほかの文献では発症後4日目に抗毒素を使用したことで人工呼吸の期間が短くなったと考えられる例もあることを挙げ、「抗毒素は毒素の摂取後72時間以内のすべての患者に使用されるべきである」と主張しています。
ボツリヌス食中毒の対策は?
ドイツで見つかったボツリヌス食中毒の例を紹介しました。抗毒素の使用について改善を図る提言も含まれていました。ボツリヌス食中毒はまれですが、事例が詳しく報告され共有されることで、よりよい治療に活かす努力が続けられています。
なお、ボツリヌス対策のために消費者個人ができることとしてはまず予防が大切です。
現代の日本では、ボツリヌス食中毒の発生数は全国で数年に1件ほどですが、最近の事例もあります。上で紹介した例では自家製の缶詰が原因になっていたように、日本でも自家製の保存食品が原因になってボツリヌス症が発生した例が知られています。
ボツリヌス症に対するいくつかの注意が公共機関などから出されています。
- 常温保存可能な食品かどうか、表示を確かめて冷蔵保存の指示には従い、期限内に食べる
- 120℃4分間以上加熱加圧処理をしたレトルトパウチ食品と、それに紛らわしい見た目だが冷蔵が必要な食品を区別する
- 真空パックや缶詰が膨らんでいたり中身に異臭があれば食べない
- 原材料を十分に洗浄する
- 3℃未満で冷蔵またはマイナス18℃以下で冷凍する
- 食べる直前に80℃20分間以上加熱する
- 1歳未満の乳児には乳児ボツリヌス症の恐れのある蜂蜜などを食べさせない
(参考:内閣府食品安全委員会、農林水産省)
正しい知識でボツリヌスから身を守ってください。
執筆者
Foodborne botulism due to ingestion of home-canned green beans: two case reports.
J Med Case Rep. 2018 Jan 4.
[PMID: 29301587]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。