2017.12.12 | ニュース

妊娠中に乳がんが見つかり、抗がん剤で治療した3人の母親

中国から症例報告

from Medicine

妊娠中に乳がんが見つかり、抗がん剤で治療した3人の母親の写真

乳がんの治療の中で化学療法(抗がん剤治療)は大切な要素ですが、妊娠中には禁忌とされる薬剤もあります。中国で妊娠中に乳がんを診断され、化学療法ののち出産に至った3人の例が報告されました。

妊娠中に乳がんの化学療法を行ったうえ出生に至った3人

中国の医師らが、妊娠中に乳がんが見つかって化学療法を開始し、出生に至った3人の女性の例を、医学誌『Medicine』に報告しました。

 

患者1

3人のひとりは、診断時点で妊娠15週5日の37歳女性でした。

2か月前から左の乳房に触れるものがあり受診し、検査の結果、乳がん(浸潤性乳管癌)と診断されました。
診断時点でリンパ節転移や離れた場所への転移は見つかりませんでした。

抗がん剤のエピルビシンとパクリタキセルによる術前化学療法を妊娠中に開始して5サイクル行い、出産したあとさらに1サイクル行ったうえ手術がなされました。

出産に異常はありませんでした。

 

患者2

次のひとりは、診断時点で妊娠27週1日だった32歳女性でした。

1週間前から左の乳房に触れるものがあり受診し、検査の結果、乳がん(浸潤性乳管癌)と診断されました。
診断時点でリンパ節転移や離れた場所への転移は見つかりませんでした。

術前化学療法としてエピルビシンとパクリタキセルを妊娠中に1サイクル、出産後に3サイクル使用したうえ手術が行われました。

手術後に薬剤をドセタキセル・ドキソルビシン・シクロホスファミドに変更して化学療法が続けられ、ホルモン療法も加えられました。

子供は早産となり、新生児黄疸が現れましたが、光線療法で治りました。

 

患者3

3人目は診断時点で妊娠29週3日だった28歳女性でした。

4か月前から右の乳房に触れるものがあり受診し、検査の結果、乳がん(浸潤性乳管癌)と診断されました。
診断時点でリンパ節転移や離れた場所への転移は見つかりませんでした。

エピルビシン・パクリタキセルを妊娠中に2サイクル使用して出産となりました。出産に異常はありませんでした。出産後に2サイクル続けたうえ手術が行われました。手術後に薬剤をカルボプラチン・パクリタキセルに変えて化学放射線療法が行われました。

 

問題は起こらなかったか?

副作用の可能性があることとして、吐き気、脱毛、胃酸逆流、便秘などが現れました。3人とも報告時点まで乳がんの再発はありませんでした

子供は3人とも形態異常がなく、報告時点まで正常範囲の成長を遂げて、歩けるようになり言葉を覚えました

 

報告した医師らはこの3人の母親とその子供の例が「妊娠中期および後期に化学療法を使用することの実行可能性と忍容性を示した」と結論しています。

 

妊娠中でも抗がん剤は使えるのか?

妊娠中に診断された乳がんに対して抗がん剤を使用しても子供に害が見つからなかった3人の例を紹介しました。

薬剤の副作用に対しては通常、多くの人が使用した中で少数の人に現れる副作用があれば相応に注意するという考えかたがなされます。そのため、うまくいった人が3人いたからといって「安全である」と判断することはできません。

報告の中で挙がった薬剤には、日本の添付文書では妊娠中の女性に対して禁忌(使うべきでない)とされているものもあります。命に関わるがんの治療において、生まれてくる子供への影響をどう考えるかはきわめて厳しい問題です。

3人の例をほかの人に当てはめられるかは慎重に考える必要がありますが、少なくともこの3組の親子にとっては、良い結果だったと言えるのではないでしょうか。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Study on the adverse effects following chemotherapy for breast cancer diagnosis during pregnancy: The first case report in China.

Medicine (Baltimore). 2017 Nov.

[PMID: 29145270]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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