乳がん治療後のトラスツズマブの効果
日本を含む世界39か国の施設が参加した長期研究の結果が、医学誌『Lancet』に報告されました。
この研究は、乳がんの手術および化学療法(術前と術後のどちらも含む)を受けたあとの女性を対象に、トラスツズマブ(商品名ハーセプチン®)という薬剤を使用することで、乳がんの再発と死亡を減らすことができるかを調べています。
トラスツズマブは、乳がんの中でも「HER2陽性」と分類されるタイプに有効とされる薬です。日本では2001年に承認されました。この研究は2001年に開始し、治療後10年を超える長期間の影響を調べたものです。
対象として、HER2陽性の乳がんがあり、手術で明らかな取り残しなくがんを切り取られたなどの条件を満たした女性が参加しました。
対象者はランダムに3グループに分けられました。化学療法、放射線療法など、トラスツズマブとは別にそれぞれの患者に適していると思われた治療を完了したのち、グループごとに以下の3種類のいずれかに割り当てられました。
- 経過観察
- 1年間トラスツズマブを使用する
- 2年間トラスツズマブを使用する
11年後の解析で乳がんがなく生存する確率が上昇
3グループ計5,099人が追跡されました。
データを解析した時点で、対象者の半数が追跡期間11年以上を経過していました。
次の結果が得られました。
中央値11年(四分位間範囲10.09-11.53)のフォローアップののち、1年間のトラスツズマブを割り付けられた患者では、経過観察に比べて無疾患生存に対するイベントのリスク(ハザード比0.76、95%信頼区間0.68-0.86)、死亡のリスク(0.74、0.64-0.86)が有意に減少した。
経過観察のグループに比べて、トラスツズマブを1年間使用したグループでは、乳がんがない状態で生存する確率が高く、死亡率は経過観察の0.74倍に下がっていました。
トラスツズマブを2年間使用したグループでは、乳がんがない状態で生存する結果について、1年間使用のグループと違いが見られませんでした。
得られたデータをもとに、治療後10年間乳がんがない状態で生存を期待できる確率を推計したところ、経過観察ならば63%、トラスツズマブを1年間使うと69%と見積もられました。
副作用については、従来トラスツズマブの主な副作用として、心臓を障害する作用(心毒性)などが知られています。副作用によるものを含め、心臓の異常が起こった人はトラスツズマブ1年間のグループでは4.4%でした。
トラスツズマブ1年間は長期的にも有効だった
トラスツズマブの長期的な効果についての研究結果を紹介しました。
トラスツズマブはこの研究の期間にも多くの使用経験が積み重ねられ、すでに乳がんの標準的な治療に組み込まれています。
トラスツズマブが使われるようになって10年以上経ったと聞くと「古い薬」と思えるかもしれません。しかし、治療後10年のデータは10年経たなければ得られません。その10年のうちに副作用でかえって余命が縮むことも、使われ始めた時点では考えに入れておかなければなりません。長期のデータは貴重です。
乳がんの治療では、治療後の生活が長いため、長期的な影響について考えることが多くなります。長期のデータが集まっていくことで、最新治療の不明だった部分がはっきりし、より確実な効果予測に基づいて治療を選ぶことができます。
執筆者
11 years' follow-up of trastuzumab after adjuvant chemotherapy in HER2-positive early breast cancer: final analysis of the HERceptin Adjuvant (HERA) trial.
Lancet. 2017 Feb 16. [Epub ahead of print]
[PMID: 28215665]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。