特発性膜性腎症に対するカルシニューリン阻害薬の効果
免疫を弱くする薬(免疫抑制薬)の中でも、タクロリムスなどの種類の薬についての研究を紹介します。
特発性膜性腎症(とくはつせいまくせいじんしょう)は、尿にタンパク質が混ざり体がむくむなどの症状(ネフローゼ症候群)を現します。治療しても完全には治らない場合が多く、長引くとしだいに進行し、腎機能低下などを起こします。原因は不明ですが、免疫系の活動により腎臓の組織が傷付けられると考えられています。
治療法のひとつが、ステロイド薬や免疫抑制薬により免疫系の活動を弱くすることです。免疫抑制薬として、シクロホスファミドなどが使われています。タクロリムスも免疫抑制薬の一種です。タクロリムスは作用のしくみからカルシニューリン阻害薬に分類されます。
この研究では、タクロリムスなどとシクロホスファミドを比較して、特発性膜性腎症に対する効果と副作用について、これまでに報告されているデータをまとめています。
効果・副作用のそれぞれに利点がある
文献の調査により、21件の研究が見つかりました。
集まったデータの解析から、タクロリムスによる6か月の治療には以下の利点があると見られました。
- シクロホスファミドよりも症状がない状態に到達することが多い
- シクロホスファミドよりも血清アルブミン値が改善する
- シクロホスファミドよりも蛋白尿が減る
- シクロホスファミドと再発率に差がない
ただし、1年時点で比較すると、症状がなくなる割合、血清タンパク質、蛋白尿はタクロリムスとシクロホスファミドで差が確かめられませんでした。
副作用については次の結果が得られました。
- 白血球減少、脱毛、肝障害の発生率はシクロホスファミドよりも低い
タクロリムスは特発性膜性腎症の治療に役立つか?
タクロリムスとシクロホスファミドを比較した研究を紹介しました。
タクロリムスにはシクロホスファミドと違った利点があります。ただし、日本ではタクロリムスの添付文書上の効能・効果として、特発性膜性腎症やネフローゼ症候群は記載されていません。そのためもし使おうとするならば適応外使用となり、健康保険でカバーされなくなります(2017年3月時点)。
現時点でタクロリムスを最初に考えることは標準的とは言えませんが、今後国内でも検討が進めば、特発性膜性腎症の治療戦略の中で新しい位置を占めることになるかもしれません。
【訂正2017/10/17】
- 脱字を補い「完全は」を「完全には」としました。
- 1年時点の比較を追記しました。
執筆者
Calcineurin inhibitors versus cyclophosphamide for idiopathic membranous nephropathy: A systematic review and meta-analysis of 21 clinical trials.
Autoimmun Rev. 2017 Feb.
[PMID: 27988429]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。