2016.09.28 | ニュース

伝統的な農家の微生物が喘息を予防するって本当?

アメリカの集団ごとの違いの研究とその反響
from The New England journal of medicine
伝統的な農家の微生物が喘息を予防するって本当?の写真
(C) romrodinka - iStock

喘息の原因はわかっていません。仮説として、清潔すぎる環境がアレルギーや喘息を引き起こすという見方があります。アメリカで似た環境に住む子どもの喘息を調べた結果、環境の中の微生物が喘息を予防するという説が示されました。

子どもの喘息に対する環境の影響について調べた研究を紹介します。

アメリカのシカゴ大学などの研究班が、医学誌『New England Journal of Medicine』に報告しました。

この研究では、アメリカの一部地域に住む集団を比較することで、遺伝や生活環境の影響を検討しています。

 

対象として、アーミッシュとフッタライトと呼ばれる人々が選ばれました。アーミッシュとフッタライトは、どちらも宗教を背景とした集団で、特定の地域に集まって住み、農耕や牧畜を中心とした生活を送っています。

研究班の説明によれば、「アーミッシュは伝統的な農法を続けているのに対して、フッタライトは工業化された農法を使う」とされます。

研究班はアーミッシュの子ども30人とフッタライトの子ども30人を対象者としました。年齢はどちらも11歳から12歳前後としました。対象となった子どもは、次の検査により、喘息喘息に関係する体の反応を調べられました。

  • 親からの聞き取り
  • 血液中のアレルギー反応の検査
  • 遺伝子検査

一方、環境が体に与える影響を調べるために、アーミッシュとフッタライトの家庭から採取したハウスダストをマウスに与え、反応の違いを見る実験が行われました。

 

検査の結果、フッタライトの子どもには喘息が30人中6人にありましたが、アーミッシュの子どもには喘息がある子は一人もいませんでした

違いの原因として、遺伝的な違いと環境による違いが考えられます。遺伝子検査ではアーミッシュとフッタライトの遺伝的な特徴はよく似ていると見られました。

ハウスダストの分析では、フッタライトの家庭よりもアーミッシュの家庭のほうが、ハウスダストに含まれているエンドトキシン(細菌が作る物質)の量が平均6.8倍多くなっていました。

これ以前の研究では、エンドトキシンが気管支喘息を予防するのではないかという説も提示されています。

マウスにハウスダストを与える実験では、フッタライトのハウスダストを与えると気道過敏性が強くなりましたが、アーミッシュのハウスダストを与えると気道過敏性は弱くなりました。

これらの結果をもとに、研究班は「我々が人とマウスで研究した結果から、アーミッシュの環境は、生来の免疫反応に働きかけ免疫反応を形作ることで、喘息に対する防御効果をもたらすことが示される」と結論しています。

 

清潔すぎる環境がアレルギーや喘息を引き起こすという考え方は「衛生仮説」などと呼ばれ、支持する意見はかなりあります。この研究でも、アーミッシュのハウスダストに含まれていた細菌が喘息を予防していたのでしょうか?

この研究が掲載されてまもなく、多くの読者から『New England Journal of Medicine』にコメントが寄せられました。

  • 土壌に含まれているセレンの量の違いが影響しているのではないか。
  • アーミッシュとフッタライトの農法の違いは議論されていない。関係ないのではないか。
  • アメリカで最後に自然発生したポリオはアーミッシュの間で流行していた。
  • アーミッシュの中でも個別のコミュニティごとに特徴は違う。
  • 母乳を与える期間が影響しているのではないか。
  • 対象者の選び方が不透明だ。
  • 対象となった子どもが喘息の治療中だったかどうか不明である。
  • 自宅出産が影響しているのではないか。

こうした指摘がすべて適切かどうかはわかりませんが、報告された結果だけで「伝統的な生活が喘息を防ぐ」と考えるのはまだ早そうです。上の指摘からは、そもそもアーミッシュの子どものほうが喘息が少ないとは言えないのではないか、という疑問さえ浮かびます。

ここで紹介したような研究結果は、ともすれば拡大解釈されます。まさにこの研究をもとに「伝統的な農家の子どもには喘息が少ない」などといった間違った解釈が広がるかもしれません。しかし、多くの専門家が疑いの声を挙げていることをふまえて理解しなければ、偏った思い込みのもとにもなりかねません。

この研究報告が掲載された『New England Journal of Medicine』は世界で最も信頼されている医学誌のひとつです。それでも掲載論文に疑いの声がかかることはあります。医学情報は「簡単に結論につながらない」という目を持って注意深く読み取ることで、無責任な情報から子どもを守ってください。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Innate Immunity and Asthma Risk in Amish and Hutterite Farm Children.

N Engl J Med. 2016 Aug 4.

[PMID: 27518660]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。