◆腹腔鏡を使わないで子宮内膜症を診断できるか?
子宮内膜症の症状は、月経の時期に一致した腰のあたりの痛み、性交時の痛み、排便時の痛みなどが代表的です。痛みが月経の時期に出るため生理痛と見分けにくいことがあります。
確実に診断するためには、お腹に切り口を作って腹腔鏡というカメラを内臓のすきま(腹腔)に入れ、異常な子宮内膜があるかどうかをカメラで観察する検査が必要とされます。この検査はお腹に傷をつけるので、まれに感染、出血、腸閉塞などが起こる可能性も考えられ、患者の負担が大きい方法です。
ここで紹介する報告は、血液検査で子宮内膜症を正しく診断できるかについて、これまでにどんな研究がなされているかを調べ、結果をまとめたものです。
◆あれば7割程度
調査から次の結果が得られました。
141件の研究を採用した。そこでは計15,141人が参加し、122種の血液バイオマーカーが評価されていた。
対象とされた女性は選択された集団であり、子宮内膜症の頻度は高く(10%から85%)、子宮内膜症、不妊の精査、または卵巣病変のため手術の適応があった。
関係する研究141件が集まりました。血液検査の項目として122種類の検査が試されていました。対象者として子宮内膜症の可能性が特に大きい女性が選ばれていました。
その中で、比較的まとまったデータが得られた検査について、以下の結果がありました。
抗子宮内膜抗体の感度は平均0.81(95%信頼区間0.76-0.87)、特異度は平均0.75(95%信頼区間0.46-1.00)だった(4件の研究、759人の女性)。IL-6に対しては、>1.90から2.00pg/mlをカットオフ値としたときに(3件の研究、309人の女性)、感度は0.63(95%信頼区間0.52-0.75)、特異度は0.69(95%信頼区間0.57-0.82)だった。CA19-9に対しては、>37.0IU/mlをカットオフ値として(3件の研究、330人の女性)感度が0.36(95%信頼区間0.26-0.45)、特異度が0.87(95%信頼区間0.75-0.99)だった。CA-125は互いに異なった閾値で評価され、感度と特異度は[...]>20.0U/mlをカットオフ値としたとき感度0.67(95%信頼区間0.50-0.85)、特異度0.69(95%信頼区間0.58-0.80)だった。
血液中の抗子宮内膜抗体、IL-6、CA-125、CA19-9の量を測る検査で、それぞれ子宮内膜症にある程度対応する結果が出ていましたが、十分な信頼度とは言えない範囲でした。
これらの検査値が上がっていれば子宮内膜症の可能性がやや大きいと考えられますが、子宮内膜症があっても検査値が上がらず見逃される割合も、子宮内膜症ではないのに検査値が上がって疑われてしまう割合もともに無視できない水準でした。
研究班は「全体として、研究としての条件設定を離れて臨床的に使うことのできる、十分な精度を示したバイオマーカーはなかった」と結論しています。
ここで報告されたように、122種類もの項目が試されるほど多くの努力を費やして、腹腔鏡検査以外の検査方法が探られていますが、血液検査で十分に信頼できるものは見つかっていません。やはり実際には腹腔鏡検査が行われています。腹腔鏡検査は負担の大きい方法ですが、確かな診断をもとにホルモン療法などの治療を適切に選ぶためには避けられないと考えるべきでしょう。
執筆者
Blood biomarkers for the non-invasive diagnosis of endometriosis.
Cochrane Database Syst Rev. 2016 May 1. [Epub ahead of print]
[PMID: 27132058]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。