◆腰椎椎間板ヘルニアで手術が必要になる理由とは
椎間板ヘルニアとは、骨同士のクッションの働きをする椎間板が骨と骨の間からはみ出てしまった状態をさします。椎間板がはみ出ることで骨の周りにある神経に圧迫や炎症が起こり、腰椎椎間板ヘルニアでは以下の症状が表れます。
- 腰痛
- 足(特にすねの外側)の痺れ
- 尿や便をコントロールする機能の低下
腰椎椎間板ヘルニアの治療法には、リハビリなどの保存的治療や、手術があります。
では、どのような場合に手術が必要になるのでしょうか。
日本整形外科学会と日本脊椎脊髄病学会による『腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン』(以下「ガイドライン」)では、明らかに手術が推奨される状況として、「腰椎椎間板ヘルニアに伴う重症の馬尾症候群では、早期に手術を行うことが望ましい」という記載があります。馬尾症候群とは、足の強い痛みや感覚・運動の麻痺、排尿・排便・性機能に関わる症状が現れる状態です。
ガイドラインはほかに「腰椎椎間板ヘルニア患者のなかでどの程度の患者が手術にいたるか」という問いを立てて、「約2割から5割」と結論しています。
そこで参照された事例の中で、手術に至った理由のひとつとして「耐えがたい疼痛の持続」が挙げられています。また手術に至る割合は「症状の強さにある程度関係している」「脱出形態と関連する」とされています。
つまり、耐えられないほどの痛みが続くことは手術を決める理由となることがあると言えます。また参照された報告の範囲では、症状の強さや飛び出している椎間板の形態が、手術をするかどうかの判断に影響していたものの、決定的な基準とはみなされていないことが読み取れます。
年齢については、17歳以下などの若い人についても「保存的治療に抵抗する症例ではヘルニア摘出術の適応としてよい」、つまりリハビリなどで十分な効果がなかった場合には手術を検討してよいとされています。
では、腰椎椎間板ヘルニアの手術は、どのようなものでしょうか。
◆椎間板ヘルニアの手術方法について
腰椎椎間板の手術にはいくつかの方法があります。ヘルニアを取り除く手術(腰椎椎間板ヘルニア後方手術)の中でも、従来の方法のほかに顕微鏡を使う方法、内視鏡を使う方法などがあります。ガイドラインでは、従来の方法と比べて顕微鏡を使う方法の「治療成績は同等である」、内視鏡を使う方法の「臨床上の結果に関しての有意差はない」としています。
内視鏡を使う手術は傷口が小さいなどの特徴がある一方、独特の技術が必要とされます。日本整形外科学会は脊椎内視鏡下手術・技術認定医の資格を与えています。脊椎内視鏡下手術・技術認定医は医師が一定の資格を満たしたうえで実技試験などを受けることで取得できる資格です。日本整形外科学会のウェブサイトで、脊椎内視鏡下手術・技術認定医の資格を持つ医師の一部を検索できます。
効果について、保存的治療と手術のどちらが優れているかがガイドラインで吟味されています。その中で「手術には即効性があり、経年的には保存的治療との差が減少するものの長期的にも保存的治療よりは成績良好といえる。しかし、短期間の保存的治療が無効であった場合には手術をすすめるべきとまではいえない」との記載があります。
つまり全体として手術のほうが優れていると言える面もあるものの、どんな場合に手術を選ぶと良いかははっきりしていません。
手術後にも椎間板ヘルニアが再発することがあります。治療として再び手術をすることもできます。ガイドラインによれば「ヘルニア摘出術後の再手術率は5年後で4~15%」、「再発率は術後1年で約1%、5年で約5%」です。
再発が1年で1%程度という割合を多いと感じるか少ないと感じるかは人にもよりますが、5年後までだいたいの人は再手術を必要とすることなく過ごせるとも言えます。
これまで手術についてご紹介しましたが、手術以外の治療法も知られています。
◆その他の治療法の例:神経ブロック療法
手術以外には保存的治療に分類される治療法があります。
そのひとつである神経ブロック療法とは、痛みが生じている神経に作用するよう、麻酔薬や炎症を抑える薬を注射する治療法です。注射をする部位などが違うさまざまな方法があります。
腰椎椎間板ヘルニアについて、いくつかの治療法を紹介しました。どの方法が適しているかについては、人によって違うことも考えられます。出ている症状や重症度などをふまえて、ご自身にあった方法は何かを主治医と相談してください。
注:この記事は2016年4月1日に公開されましたが、2018年2月8日に編集部(大脇)が更新しました。
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※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。