インフルエンザ脳症はインフルエンザウイルスだけが原因ではないかもしれない?

インフルエンザ脳症は、インフルエンザへの感染によって脳に障害が生じてしまう病気です。どのようなしくみで起こるか正確にはわかっていません。今回紹介する研究は、最近もよく引用されている、インフルエンザ脳症を発症した患者の検査値の特徴をまとめた2003年の論文です。
◆インフルエンザ脳症の検査値にはどのような特徴があるか
今回の研究は、インフルエンザを発症し、呼吸器症状がある期間またはそのあとに脳症が起こった21人の患者(4歳から78歳)を対象に、血液などの検査値にどのような特徴があったか調査しました。
◆インフルエンザ脳症の多くは呼吸器症状の改善後3週間以内で発症
以下の結果が得られました。
これらの患者のうち5人が、低プロトロンビン血症を持ち、4人が血中クレアチニン値が増加していた。これは、肝臓および/または腎臓の障害を示している。
アデノウイルスDNAは、インフルエンザ後脳症の11人の患者中4人(36人)から得られた脳脊髄液サンプルで認められた。
呼吸器症状が続いている期間に脳症が発症した6人のうち5人に肝臓の、4人に腎臓の機能低下を示す血液検査値が見られました。また、呼吸器症状が治まって3週間以上あとに脳症(インフルエンザ後脳症)があった11人のうち4人から、アデノウイルスが見つかりました。
著者らは、「このように、インフルエンザ脳症は代謝障害としばしば関連している一方、 インフルエンザ後脳症では異なる病因がありうるように思われた」と述べています。
なぜインフルエンザ脳症を発症するか、まだ明確なメカニズムは解明されていません。しかしながら、この研究でインフルエンザ後脳症の人にアデノウイルスが認められたことは、もしかしたらインフルエンザ脳症と思われている病態の一部は、インフルエンザウイルスだけではない他のウイルスと関連しているのかもしれないという可能性を思わせます。
この研究だけでは結論には言及できませんので、今後の検証に期待します。
執筆者
Acute encephalopathy associated with influenza A virus infection.
Clin Infect Dis. 2003 Mar 1
[PMID: 12594636]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。