発作性夜間ヘモグロビン尿症治療薬(エクリズマブ、ラブリズマブ、クロバリマブ)
溶血(赤血球破壊)を引き起こす補体の働きを阻害することで発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)などを改善する薬
同義語:
抗補体(C5)モノクローナル抗体製剤

発作性夜間ヘモグロビン尿症治療薬(エクリズマブ、ラブリズマブ、クロバリマブ)の解説

発作性夜間ヘモグロビン尿症治療薬(エクリズマブ、ラブリズマブ、クロバリマブ)の効果と作用機序

  • 溶血(赤血球破壊)を引き起こす補体の働きを阻害することで発作性夜間ヘモグロビン尿症PNH)などを改善する薬
    • PNHは、ヘモグロビン尿(淡赤色尿〜暗褐色尿)などが引き起こされる造血幹細胞の遺伝子変異によるクローン性疾患
    • PNH症状(ヘモグロビン尿など)は補体(免疫関連物質のひとつ)が赤血球を破壊することで引き起こされる
    • 本剤は溶血を引き起こす補体の働きを阻害する作用をあらわす
  • 非典型溶血性尿毒症症候群などに使われる場合もある
  • 本剤は特定物質に対して特異的に結合するように造られたモノクローナル抗体製剤

発作性夜間ヘモグロビン尿症治療薬(エクリズマブ、ラブリズマブ、クロバリマブ)の薬理作用

発作性夜間ヘモグロビン尿症(Paroximal Nocturnal Hemogrobinuria:PNH)は、造血幹細胞の遺伝子に後天的に生じた変異によるクローン性疾患で、赤血球が補体による攻撃を受け溶血が引き起こされる。

PIGA遺伝子は、X染色体上にあるグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)という物質をコードする遺伝子で、PNHでは、この遺伝子に後天的変異をもった造血幹細胞がクローン性に拡大する。この造血幹細胞を元に作られた赤血球(PNH赤血球)では、GPIを介して膜上に結合するいくつかのタンパク質が欠如しているが、補体を制御するタンパク質もそのタンパク質のひとつで、感染などにより補体が活性化されると、補体による赤血球への攻撃が制御できないため、赤血球が破壊される(溶血が引き起こされる)。

補体(補体系)は生体防御において重要な役割を担っているタンパク質群で、主にC1〜C9が次々と反応していくことで自然免疫や獲得免疫に深く関わるが、特に反応の後半では、C5→C5a、C5→C5b→T5b-9(TCC/Terminal Complement Complex:終末補体複合体)といった物質への変換が行われる。TCCはMAC(Membrane Attack Complex:膜侵襲複合体)とも呼ばれ、細胞膜を障害するなどの働きを担っている。

本剤は補体タンパク質のうち、C5へ結合することで、炎症性の伝達物質であるC5a(アナフィラトキシン)の生成を抑えるとともに、TCC生成の引き金となるC5bの生成を抑える作用をあらわす。これらの作用により本剤は、PNHによる溶血を抑える効果などが期待できる。また、本剤はPNHのほか、非典型溶血性尿毒症症候群などの補体系遺伝子異常によって引き起こされる病態に対して使われることもある。

なお、本剤はある特定物質に対して特異的に結合するように造られたモノクローナル抗体の製剤となる。本剤のうち、ラブリズマブ(商品名:ユルトミリス)は、エクリズマブ(商品名:ソリリス)の誘導体で、エクリズマブ骨格(化学構造)に8個のアミノ酸置換を導入することにより、体内での作用時間(半減期)を延長するように造られた製剤となっている。また、2024年に承認されたクロバリマブ(商品名:ピアスカイ)は、pH依存的な結合などの抗体技術により機能的半減期の延長と投与量低下を可能とし、維持期(投与開始から29日目以降)においては4週ごとの投与を可能にした製剤となっている。

発作性夜間ヘモグロビン尿症治療薬(エクリズマブ、ラブリズマブ、クロバリマブ)の主な副作用や注意点

  • 感染症
    • 細菌ウイルスなどによる感染症が引き起こされやすくなる可能性がある(場合によっては髄膜炎敗血症などの重篤な病態を引き起こす可能性もあるため注意が必要)
  • 消化器症状
    • 吐き気・嘔吐、腹痛、下痢などがあらわれる場合がある
  • 精神神経系症状
    • 頭痛、めまいなどがあらわれる場合がある
  • 過敏症(インフュージョンリアクションなど)
    • 頻度は稀とされるが、ショックアナフィラキシーなどの重篤な症状を引き起こす可能性もある
    • 発赤蕁麻疹、喉の痒み、吐き気、咳(ゼーゼーするなどの息苦しさ)、声のかすれ、動悸、ふらつきなどがみられた場合は医療スタッフに申し出るなどすみやかに対処する

発作性夜間ヘモグロビン尿症治療薬(エクリズマブ、ラブリズマブ、クロバリマブ)の一般的な商品とその特徴

ソリリス

  • エクリズマブ製剤

ユルトミリス

  • ラブリズマブ製剤
    • アブリズマブはエクリズマブの誘導体で、エクリズマブに比べ体内での作用時間が延長されている
  • ユルトミリスHI点滴静注に関して
    • 10mg/mL製剤(ユルトミリス点滴静注300mg)の10倍濃度(100mg/mL)の製剤
    • 点滴時間の短縮による患者への負担軽減などのメリットが考えられる

ピアスカイ

  • クロバリマブ製剤
    • 維持期(投与開始から29日目以降)においては通常、4週に1回での投与が可能な製剤