そけいへるにあ
鼠径ヘルニア(総論)
腹部の臓器(主に腸)が、太ももの付け根の内側から、皮膚のすぐ裏側まで出てきた状態。飛び出し方により分類される
5人の医師がチェック 108回の改訂 最終更新: 2024.08.18

鼠径ヘルニア(脱腸)で知っておきたいこと:放置した場合や、子どもと大人の違いなど

鼠径ヘルニアは比較的多くの人に見られる病気です。「脱腸」という名前で知っている人も多いかと思います。このページでは鼠径ヘルニアで意外と知られていないことを説明していきます。

1. 鼠径ヘルニアは自然治癒するのか

鼠径ヘルニアの自然治癒は期待できないことがほとんどです。治したいと思っている人は医療機関を受診してください。なお例外として子どものヘルニアは自然に治ることがあります。医師から様子見と言われた場合はそのまま様子見してください。

2. 鼠径ヘルニアを放置するとどうなるのか:嵌頓を起こしたらすぐに受診を

鼠径ヘルニアがあっても直ちに身体に大きな悪影響を及ぼすことはほとんどありません。その一方で、嵌頓という状態には注意が必要です。嵌頓とは飛び出したヘルニアの根元が締め付けられ、腸や腸間膜の血流が低下してしまうことです。嵌頓の状態が数時間続くと、腸や腸間膜が壊死(臓器が機能を失うこと)してしまい、腸を切除しなければなりません。嵌頓が起こるとそれまでとは違った症状が現れます。疑わしい症状が見られた場合はすみやかに医療機関を受診してください。

3. 鼠径ヘルニアが心配な人は何科を受診すればいいのか:診療科や病院選びについて

先述したように、鼠径ヘルニアは自然に治ることは多くない病気ですし、ときに嵌頓という危険な状態を起こす油断ができない病気です。ここまで読んで、鼠径ヘルニアを診てもらいたいと考えるようになった人がいるかもしれません。お医者さんに相談するにあたって意外と盲点になりがちな「受診するべき診療科」や「病院選び」について説明します。

診療科について

「足の付け根の病気」となるとどの診療科を受診すればいいのか迷う人は少なくありません。結論から述べると「消化器外科」もしくは「一般外科」を受診してください(子どもの場合は「小児外科」)。 足の付け根なので整形外科を検討する人や、性器に近いので「泌尿器科」が頭に浮かぶ人もいるかもしれませんが、「腸」の病気である鼠径ヘルニアを専門的に診てくれる診療科は消化器外科や一般外科です。

医療機関の選び方について

鼠径ヘルニアはよくある病気で、多くの医療機関で治療を行っています。消化器外科や一般外科を標榜している医療機関であれば、特定の医療機関でなくても問題なく治療を受けられます。ただし、治療の中でも腹腔鏡手術は例外です。どの医療機関でも行っているわけではないので、腹腔鏡手術を希望する場合は事前に調べておく必要があります。各医療機関のホームページでは診療内容について詳しく説明していることが多いので、調べてみてください。

4. 鼠径ヘルニアの治療後の過ごし方

鼠径ヘルニアの治療には嵌頓した場合に緊急的に行われる「用手整復」と根本治療である「手術」の2つがあります。それぞれに分けて説明します。

用手整復

鼠径ヘルニアが嵌頓を起こした場合、まず行われるのが用手整復です。用手整復で嵌頓を元に戻せれば、緊急手術を免れることができます。ここで注意したいのは用手整復はあくまで応急処置であるということです。つまり、鼠径ヘルニアが再び嵌頓を起こすことは十分に有り得えます。用手整復でその場をしのげたら、できるだけ早く手術を検討してください。

手術

手術後は担当したお医者さんからの説明を守って過ごすようにしてください。再発を予防するために、一般的には傷が落ち着くまで激しい運動やお腹の力を入れる作業は避けたほうが無難です。また、術後1ヶ月程度は腫れや痛みが気になるかと思いますが、日を追うごとによくなるので過度な心配は不要です。痛みに対しては鎮痛剤がよく効くので、痛いときには薬を服用してください。

5. 小児の鼠径ヘルニアについて:大人と子どもの違いなど

鼠径ヘルニアは高齢男性と男児に多い病気ですが、原因や治療に違いがあります。

原因の違い

子どものヘルニアは精巣が発生するときの異常により起こります。精巣は胎児の時にお腹の中でできて、出生に近くなると鼠径管を下降して陰嚢の中に収まります。この精巣が下降する過程で、腹膜鞘状突起という膜が閉じて、お腹の中と陰嚢が分け隔てられます。しかしながら、この腹膜鞘状突起が閉じ損なうと、そこから腸や腸間膜といったお腹の中の臓器が飛び出してしまい、鼠径ヘルニアが起こります。

一方で、高齢男性に発生する鼠径ヘルニアはお腹の筋肉の衰えによるものがほとんどです。腹部の筋肉の力が弱くなると、お腹の中の圧力に耐えられなくなり、腸や腸間膜といった臓器が飛び出してしまい鼠径ヘルニアが起こります。

治療の違い

根本的な治療には大人でも子どもでも手術が必要ですが、内容に少し違いがあります。 大人のヘルニアは主に筋肉が弱ったことによって起こるので、筋肉の代わりとしてメッシュ素材の薄い膜を使います。一方、子どものヘルニアはお腹の中と陰嚢を隔てる腹膜鞘状突起が閉じきっていないことによって起こります。腹膜鞘状突起を閉じれば治るので、メッシュなどの人工物を挿入する必要はほとんどありません。

参考文献

日本ヘルニア学会 ガイドライン委員会/編, 「鼠径部ヘルニア 診療ガイドライン2024」, 金原出版