ぱーきんそんしょうこうぐん
パーキンソン症候群
パーキンソン病以外の原因で、パーキンソン病と同じような症状を引き起こす病気の総称。パーキンソン病とは区別される
12人の医師がチェック 132回の改訂 最終更新: 2022.02.21

Beta パーキンソン症候群のQ&A

    パーキンソン病とパーキンソン症候群の鑑別に必要な検査について教えてください

    パーキンソン病の診断の際には、パーキンソン病に似た症状を出す病気(パーキンソン症候群)ではないことを確認することが非常に重要です。必要となる検査を中心に説明していきます。

    (1)診察-問診と症状の評価-
    パーキンソンを疑った場合には検査の前に病気の状態を詳しく聞かれます。パーキンソン病を診断するには、どういった症状がいつからあるのか、ということを詳しく聞くことが一番重要です。また、飲んでいる薬を確認することも必須です。パーキンソン病に似た症状を副作用で起こしやすい薬というものがあり、そういう薬を飲んでいないか確認します。

    次に症状を確認する目的の検査を必要に応じて行います。

    ◎嗅覚検査
    パーキンソン病では発症前から嗅覚が低下することが知られています。嗅覚のテストとしてOSIT-Jという検査が行われることがあります。12種類の様々なにおいのスティックをかぎ、どれだけにおいが分かるか調べるものです。

    ◎終夜睡眠ポリグラフ検査
    レム睡眠行動異常症があるかどうかを診断に役に立ちます。睡眠時の脳波、呼吸、あごや眼球などの運動、心電図、酸素飽和度などを一晩中測定します。

    ◎ヘッドアップティルト試験
    パーキンソン病では自律神経系の障害から起立性低血圧(立ちくらみ)をきたすことがよくあります。台に乗って60-80°ほど頭を上げ、その状態で血圧や心拍数がどの程度変わるか測定します。健康な方であれば頭が上がっても血圧が保たれるよう自律神経系が働きますが、パーキンソン病の方では血圧が下がってしまいます。

    ◎改訂長谷川式簡易知能評価スケール・ミニメンタルステート検査
    パーキンソン病では認知症を合併することがあります。認知症の簡単な評価のために用います。

    ◎ハミルトンうつ病評価尺度
    うつ病の合併がないか調べるために使います。パーキンソン病ではうつ病を合併する方が多く、生活の質を下げる原因となっています。

    ◎嚥下造影検査
    病気が進んでくると、飲み込みづらさが目立ってきます。飲み込みに問題がないか、造影剤入りの液体を飲んでもらって調べます。

    これらの検査はあくまで症状や合併症を確認するために行うものです。また、診断の参考にはなりますが、診断の決め手とはならないことに注意して下さい。

    (2)血液検査
    パーキンソン病では血液検査で分かりやすい異常が出ることはありません。明らかな異常がある場合には他の原因を考えます。

    ただし、家族性パーキンソン病といって、パーキンソン病の中にはわずかですが遺伝するものがあります。そういった場合に遺伝子検査の目的で血液を調べることがあります。

    (3)画像検査<一般的なもの>
    パーキンソン病を診断する上で、脳の画像の検査は非常に重要です。頭部CT/MRI検査を行います。

    血液検査と同じく、パーキンソン病では画像検査で異常が出ることはほとんどありませんが、この検査は非常に重要です。というのも、パーキンソン病のような症状をきたす他の病気は、画像で異常が出ることが多いからです。

    • 多発性脳梗塞(脳血管性パーキンソニズムの原因となる)

    • 正常圧水頭症

    • 脳腫瘍

    • 多系統萎縮症

    • 進行性核上性麻痺

    • 大脳皮質基底核変性症

    これらの病気の一部は画像で異常が出ることがありますから、こういった病気との区別に役立ちます。多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症は、画像上異常がでないこともあり、経過を注意深く追うことが必要です。

    (4)画像検査<特殊なもの>
    以上の検査で大体診断がつけばよいのですが、実際はなかなかそう簡単にはいきません。その場合には、以下に記す特殊な画像検査を行うことがあります。

    ① MIBG心筋シンチグラフィー
    MIBG心筋シンチグラフィーは、心臓の自律神経(その中でも交感神経)の働きをみる検査です。パーキンソン病では心臓を含む全身の自律神経系に異常が出ることから、この検査でも異常が出る場合があることがわかっています。そのため、現在はパーキンソン病(およびレビー小体型認知症)の診断に非常に有用とされています。

    また、パーキンソン病の発症早期には異常が出ないことがあるので、異常がないがパーキンソン病の可能性が否定できない場合はしばらく期間をおいてからもう一度検査をすることがあります。

    ② ドパミントランスポーターシンチグラフィ
    パーキンソン病(+レビー小体型認知症)は、脳のある部分でドパミン作動性ニューロンという神経細胞が脱落していくことが原因で起きる病気です。この神経には、ドパミンの再取り込みに働くドパミントランスポーターというものがあります。この神経が脱落するとドパミントランスポーターも減少します。ドパミントランスポーターシンチグラフィは、このドパミントランスポーターを画像で評価できるようにしたものです。

    この検査は、パーキンソン病(+レビー小体型認知症)だけでなく、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症といった、パーキンソン症候群を呈する神経変性疾患といわれる病気のグループで異常が出ることがわかっています。逆に、薬剤性パーキンソニズム、脳血管性パーキンソニズム、本態性振戦といった、神経変性疾患ではないパーキンソン症候群では正常な結果が出ます。

    どのような検査かといいますと、MIBG心筋シンチグラフィーと同じく、まず薬を注射します。その上で、3-6時間待ってから画像を撮影します。

    この検査は比較的早期から異常が出ることが分かっており、早期診断に有効かもしれないと言われています。最近開発された検査で、実際に病院で行われるようになってきたのもごく最近です。実際どの程度役に立つか、情報を集めていく必要があります。

    以上、パーキンソン病を疑った時はどのように考えて検査をしていくのかということをまとめました。数多くの検査について説明しましたが、これでも全てを網羅しているわけではありません。また、パーキンソン病を診断するためにはこれらの検査が全て必要なわけでもありません。症状などからどういう病気の可能性が高いか考え、検査を取捨選択していく必要があります。

    パーキンソン症候群とはどのような病気ですか?

    パーキンソン病では、安静時に手が震えたり(振戦)、動きが鈍くなったりという症状が起こりますが、パーキンソン病以外の病気が原因でこのような症状が起こることもあります。パーキンソン”病”以外が原因でこのような症状が起こった場合、パーキンソン”症候群”と呼びます。具体的には、正常圧水頭症、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、薬剤性パーキンソン症候群、脳血管性パーキンソン症候群、脳炎後パーキンソン症候群などをパーキンソン症候群といいます。

    パーキンソン症候群は遺伝しますか?

    病気の種類にもよりますが、基本的には遺伝しません。

    パーキンソン症候群の症状にはどのようなものがありますか?

    錐体外路症状と呼ばれる症状が該当します。キーワードは以下の4つになります。全て揃っている必要はありません。

    • 振戦:ふるえる
    • 無動:動きが緩慢になり、自発的な動きが減少する
    • 筋強剛:筋肉がかたく、動かしづらくなる
    • 姿勢反射障害:前かがみの姿勢になり、倒れやすくなる

    こういった症状のために歩行が難しくなることが初期の症状として多いです。

    薬剤性パーキンソン症候群の特徴について教えてください

    特徴であるふるえは、安静にしている時ではなく動作時や姿勢をとったときに目立ちます。症状の左右差ははっきりせず、初期から症状は両側にみられます。また体が勝手に動いてしまい、周りから見るとそわそわ落ち着かないように見える症状がみられることもあります。

    薬の副作用でパーキンソン症候群(パーキンソニズム)を呈することがあります。パーキンソン症候群の診察の際にはまずどういった薬を飲んでいるか確認することが必須です。特に、ドパミン受容体をブロックする薬剤で起こりやすいことが知られています。一番気をつけなければならないのがスルピリド(ドグマチール®)でしょう。うつ病に対して出されることもありますが、胃薬としても頻用されています。パーキンソニズムを高率に起こしますが、胃薬として処方されている時は特に見過ごされがちです。薬剤性パーキンソニズムを起こしうる薬が使われている場合は、その薬をやめられないかを考える必要があります。

    脳血管性パーキンソン症候群の特徴について教えてください

    脳血管性パーキンソン症候群は、単独では症状を出さないような小さな脳梗塞が多発し、積み重なってパーキンソン症候群を呈するようになるものです。「脳のここに障害があるからこの症状が出る」というように1対1対応ではっきり病巣がわかるものではありません。よく不随意運動の原因になる大脳基底核に病変がみられることが多いですが、脳の表層部である大脳皮質全体にみられたり、脳の深部である大脳白質に広く障害がみられることもあったりします。

    両脚から症状が始まり、歩きづらいという訴えがみられることが多いです。頭部MRI検査を行い、これまでの脳梗塞の有無を確認して診断します。

    特徴であるふるえは、安静にしている時ではなく動作時や姿勢をとったときに目立ちます。歩行は小刻みですが、大股でバランスがとりづらい様子の歩行がみられます。前かがみの姿勢になり、倒れやすくなるような姿勢反射障害が目立ち、特に脚に症状が見られます。発症初期から歩きづらいのが特徴です。

    パーキンソン症候群はどのように診断するのですか?

    パーキンソン症候群であるかどうかは、症状によって判断します。上に記載されているような錐体外路症状という症状がないか念入りに診察をします。これに該当する症状があれば、パーキンソン症候群の診断になります。

    その後は、パーキンソン症候群の中でもどのような病気に該当するのかを考えることが必要になります。「治療可能なものはないか?」「パーキンソン病ではないか?」ということを念頭に置きながら、診断していきます。

    パーキンソン病とパーキンソン症候群はどのように区別するのですか?

    症状の上では、パーキンソン病の特徴は「左右差のある安静時振戦」です。一方で、パーキンソン症候群ではこの症状があまり見られないことが大きな違いです。もちろん、これだけで否定することは出来ず、様々な画像検査を行って診断の参考にします。

    最終的にパーキンソン病かその他の病気か迷った場合、最も参考になるのは「レボドパ製剤というパーキンソン病の薬に反応するか」です。パーキンソン病であればレボドパ製剤で症状が劇的によくなりますが、パーキンソン病以外の病気であれば症状の改善があまりみられません。

    パーキンソン症候群の原因はどのように調べていくのですか?

    まずは内服薬を確認します。薬の副作用でパーキンソン病のような症状が出ることがあるからです(薬剤性パーキンソン症候群)。

    次に頭のCTやMRIなどの画像検査を行います。これで正常圧水頭症、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、脳血管性パーキンソン症候群の可能性がどれくらい高いかがわかります。その他にMIBG心筋シンチ、脳血流SPECT、DAT scanなどの画像検査を追加することがあります。

    薬剤性パーキンソン症候群の原因となる薬にはどのようなものがありますか?

    有名なものにスルピリド(ドグマチール)があります。統合失調症の薬として使われるのですが、胃薬としても使われることがあります。パーキンソン病のような症状を出している方がこのお薬を飲んでいれば、内服をやめていただくことがあります。

    薬剤性パーキンソン症候群の原因となる薬には他にどのようなものがありますか?

    精神科の薬(クロルプロマジン、ハロペリドール)や吐き気止め(メトクロプラミド)、血圧の薬(メチルドパ、レセルピン)も原因となることがあります。

    ただし、あくまで医師の判断になりますので、ご自分で勝手にやめることのないようお願いします。

    パーキンソン症候群の治療法について教えて下さい。

    薬剤性パーキンソン症候群であれば、原因となる薬を中止します。これに加えて症状を抑えるために抗コリン薬と呼ばれる薬を使います。

    それ以外の病気ではパーキンソン病と同じくレボドパ製剤を使うことが多いです。レボドパ製剤の量を増やしても効果が見られない場合は中止します。抗コリン薬を試すことも多いです。

    パーキンソン症候群の治療では手術は行わないのですか?

    パーキンソン病の治療では、深部脳刺激(DBS)という外科的治療が症状を抑えるのに有効ですが、パーキンソン症候群ではDBSは行われません。

    パーキンソン症候群の薬は、生涯飲み続けることになるのですか?

    抗コリン薬のような薬であれば、症状がよくなったり、副作用(口の渇き、吐き気、便秘など)が強ければやめることがあります。

    レボドパ製剤を飲み続けるという判断になった場合は、一生飲み続けて頂く可能性が高いです。