きんだんれつ(にくばなれ)
筋断裂(肉離れ)
筋肉の線維が切れること。スポーツや重労働など、急激に力を入れることで、筋肉が耐えきれずに線維が断裂する
6人の医師がチェック 101回の改訂 最終更新: 2024.08.16

筋断裂(肉離れ)とは:原因、症状、検査、治療など

筋断裂とは、強い負荷のかかった筋肉が耐えられずに、筋線維が切れてしまうことです。筋線維の一部が切れる「部分断裂」のことを肉離れと呼ぶことが多いです。ここでは筋断裂(肉離れ)について原因、症状、検査、治療法などを広く解説します。

1. 筋断裂(肉離れ)とはどんな状態か

人間の骨格を動かす筋肉である「骨格筋」は、細長い筋線維が束になっており、束の表面を筋膜という膜が包んでいます。骨格筋の両端は、丈夫な腱(けん)になっており、腱は骨に付着しています。そのため、筋肉が収縮すると腱を介して骨が引っ張られて身体が動くことになります。なお、全ての筋肉が骨格筋のように骨に付着しているわけではなく、内臓で働いている「内臓筋」もあります。

骨格筋の構造、筋線維、筋膜、腱

筋断裂とは名前の通り筋線維が切れてしまうことを指します。筋線維の一部だけが切れる部分断裂(不全断裂)のことを肉離れと呼ぶことが多いです。筋膜のみが断裂した場合には、肉離れに含めることも含めないこともあります。全ての筋線維が切れてしまうと完全断裂と呼ばれます。

筋断裂(肉離れ):部分断裂と完全断裂

筋断裂(肉離れ)の原因:スポーツなど

筋肉の部分断裂(肉離れ)は、スポーツをしている時に起こるのが一般的です。急に全力で走ったりジャンプしたりすると筋肉が強く収縮するのについていけず、脚の筋線維が断裂してしまいます。肉離れの起きやすい競技には、以下のようなものがあります。

【肉離れの起きやすいスポーツ】

  • 短距離走
  • ハードル走
  • テニス
  • サッカー
  • ラグビー など

このようにさまざまな種目が当てはまります。陸上競技では特に肉離れが起きやすいとも言われています。

スポーツ以外では、鈍器で殴られて筋断裂するような人もいます。

筋断裂(肉離れ)の起きやすい箇所:ふくらはぎ、ハムストリングなど

スポーツによる肉離れが起きやすい箇所は、次の通りとされています。

【肉離れの起きやすい箇所】

  • 下腿二頭筋(ふくらはぎ)
  • ハムストリング(太ももの裏側)
  • 大腿四頭筋(太ももの前面)

下腿二頭筋は腓腹(ひふく)筋とヒラメ筋という2つの筋肉の総称であり、特に肉離れが起こりやすい部位です。下腿二頭筋では内側がよく肉離れします。若い人やスポーツ選手の肉離れは太ももに多い一方で、中高年ではふくらはぎの肉離れを起こす人が多くなります。

ハムストリングは大腿二頭筋、半膜様筋、半腱様筋という筋肉の総称です。ハムストリングの肉離れを起こす人もとても多いです。「ハムストリングス」と複数形で呼ばれることもあります。

大腿四頭筋は大腿直筋、内側広筋、中間広筋、外側広筋という筋肉の総称です。太ももの前面を覆う筋肉であり、全身で最も大きくて力強い筋肉です。この大腿四頭筋の肉離れを起こす人もいます。

腕や背中など、脚以外の肉離れを起こす人もいますが、脚の肉離れと比べると珍しいです。

2. 筋断裂(肉離れ)の症状について

肉離れを起こすと、受傷直後は力が抜けるような鋭い痛みが起きます。「パチッ」と切れるような音が聞こえることもあります。その後には以下のような症状が出現します。

【肉離れの主な症状】

  • 痛み
  • 腫れ
  • 皮下出血
  • 歩行困難 など

肉離れの痛みは、受傷部位のストレッチをした際に強くなることが一般的です。軽い痛みがあるだけで普段と変わらないくらいストレッチできるならば軽症、逆にほとんど伸ばせないようならば重症と考えることができます。

筋肉が完全に断裂するほどの最重症になっている人では、切れている部位で筋肉が凹んでいるのが触って分かることもあります。

3. 筋断裂(肉離れ)の検査、診断について

ほとんどの人で、肉離れの診断は難しくありません。スポーツ中などに強い力がかかったという経緯があり、ふくらはぎやハムストリングなどの典型的な部位に痛みがあれば肉離れだろうと診断できます。

このように肉離れの診断は難しくないことが多いため、診断のための検査は必ずしも行われません。

一方で、肉離れと同時に骨のダメージもあるかもしれない、と考えられるなど重症な人や、肉離れの程度をしっかりと確認する必要がある人では、以下のような検査が検討されます。

レントゲン(X線)検査

レントゲン検査は、骨の異常がないか調べるうえで最もよく行われる検査です。しかし、筋肉や腱などの異常を見つけるのには適しません。それらの異常をより詳細にチェックするためにはMRI検査を行うのが一般的です。

CT検査

CT検査では、レントゲン検査よりも精密に骨の状態が分かります。そのため、レントゲン検査に追加してCT検査も行われることがありますが、筋肉や腱などの異常を見つけるのはMRI検査のほうが得意です。したがって、肉離れなど筋肉の病気やケガに対する検査としては、CT検査よりもMRI検査のほうが多く行われています。CT検査は子どもでは特に、放射線被曝の問題も頭の片隅に入れる必要があります。

MRI検査

MRI検査では筋肉がどの程度切れているか、など筋肉に関する情報が多く得られます。筋肉だけではなく、腱や骨などの様子を細かく観察することもできます。どの医療機関でも行えるような検査ではなく、検査費用も3割の自己負担で4,000円から5,000円ほどします。そのため、スポーツを職業にしているような人でなく、かつ痛みが軽度の場合にはMRI検査を行わないことも多くあります。

超音波検査

超音波(エコー)検査は、お医者さんや技師さんがゼリーを塗った探触子(プローブ)を直接身体に当てて行う検査です。リアルタイムで様々な角度から筋肉の様子を観察できます。また、受傷部位に血が溜まっている様子なども観察できます。検査時間はさまざまですが、多くの人で数分〜5分ほどあれば必要な情報が得られます。便利な検査ではありますが、熟練した検査者が行わないと正確に異常を検出できないこともあります。

小型の検査機器で、診察室での問診と合わせて手軽に行うことができるため、肉離れの人に行われることもよくある検査です。一方で、肉離れのチェックにおいて超音波検査はMRI検査と比べると客観性や精密さには劣り、超音波検査をどの程度優先して行うかはお医者さん個々人の方針によるところもあります。

4. 筋断裂(肉離れ)の治療について

肉離れ治療の原則は、十分に安静にして、筋肉が修復されるまでじっくりと待つことです。ストレッチをした時に肉離れをしていない側と同じような感覚に戻るまで、しっかりと脚を休ませる必要があります。歩行が困難な人では、松葉杖を使うなどして荷重を避けます。痛みを全く感じないようになってから、ダッシュやジャンプなどの負担がかかる運動を再開してください。

このように、違和感なくストレッチや運動をできるようになるまでには、重症度にもよりますが2-4週間ほど要します。焦って早くスポーツに復帰しようとすると、筋肉がきれいに回復せず、肉離れを再発するリスクが高まると考えられます。

以下には、受傷時から時系列での治療について解説していきます。

応急処置

まずは「肉離れしてしまった!」と感じて医療機関に行くまでの応急処置についてです。応急処置では以下のことに気をつけてください。

【肉離れ:応急処置のポイント】

  • 患部に負荷をかけないこと
  • 患部を冷やすこと
  • 患部を軽く圧迫すること
  • 患部を心臓よりも高い位置にすること

上記のポイントがスポーツでケガをしたときの原則です。患部を冷やす際には凍傷にならないように、氷を直接は当てずにタオル越しなどにしてください。また、15-20分ごとに冷やすのを休むと良いと考えられます。

患部の圧迫は、内出血や腫れを軽減するのに有効です。ただし、強く圧迫しすぎると患部の血流が悪くなりすぎて危険です。さじ加減が分からない時には、医療機関に行くまで無理に圧迫しなくても構いません。

患部を挙上するのは、肉離れのように脚のケガの時には簡単ではありません。しかし、ケガをした後に横になって休んでいる時には、脚を軽く挙げておくことが勧められます。患部への血流が減ることで、内出血や腫れを緩和する効果が期待できます。

リハビリ

「競技に少しでも早く復帰したい」という気持ちから、痛みが残っている状態で運動を再開してしまう人は少なくありません。しかし、筋肉が回復しきっていない状態で負荷をかけると、肉離れが再発したりクセになってしまう可能性があります。

肉離れの程度によりますが、通常は断裂した筋線維が修復されるには2週間から1ヶ月くらいかかります。ストレッチしても痛みや違和感が出なくなるまでしっかりと休養してからジャンプやダッシュなどを再開してください。

安静にしている間、患部以外の筋力トレーニングをしたり、全身のストレッチをして柔軟性を高めたりすることで、今後のケガ予防に役立つことが期待できます。

手術

肉離れは基本的には安静で自然に治るケガです。そのため、手術が行われることは滅多にありません。しかし、筋肉が完全に断裂してしまったような人では、手術で筋肉をつなぐ必要が生じることもあります。