ちょうしんけいしゅよう(ぜんていしんけいしょうしゅ)
聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)
良性の脳腫瘍の一種。耳と脳を繋げる神経にできる。手術が主な治療であるが、手術を行うかよく検討が必要
10人の医師がチェック 110回の改訂 最終更新: 2023.05.21

聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)の基礎知識

POINT 聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)とは

聴神経から発生する腫瘍で、多くは身体の平衡感覚を司る前庭神経から発生します。無症状のうちに脳ドックなどで発見される人が増えています。腫瘍が大きい場合は、片耳の難聴、耳鳴り、めまい、ふらつきなどの症状がでます。診断のため頭部MRI検査などの画像検査のほか、聴力検査やめまいの検査が行われます。治療は腫瘍の大きさによって異なります。腫瘍が小さいうちは定期的な画像検査を行い、腫瘍が大きくなった場合や聴力低下のある場合は手術を行います。治療後は6割の人に難聴が残るため、治療は主治医とよく相談して決定してください。専門の診療科は脳神経外科ですが、難聴やめまいの原因は他にもありますので、はじめは耳鼻咽喉科、神経内科などへの受診でもかまいません。

聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)について

  • 聴神経から発生する脳腫瘍
     ・正確には聴神経の中でも体のバランスをとることに働く前庭神経から発生する
     ・脳腫瘍全体の10%前後を占め、できる人は多い
     ・ほとんどは良性腫瘍がんではない)
  • 治療を行う際には、その治療の合併症についてよく知り考えることが重要

聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)の症状

  • 無症状で、脳ドックなどで偶然見つかることが増えている
  • 主な症状
    • 聴力低下
    • 耳鳴り
    • めまい
    • ふらつき
  • 大きくなり脳幹や小脳を圧迫するとふらつきなどの症状が現れるが、そこまで大きくなって見つかることは少なくなっている

聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)の検査・診断

  • 聴力検査:耳の聞こえ具合などを調べる
     ・手術前の評価として行う
  • 画像検査:腫瘍の大きさや形、周囲の脳や神経の損傷度合いなどを調べる
    • 頭部CT検査
    • 頭部MRI検査
    • 画像検査では、腫瘍をはっきり写すために造影剤を使用することがある
      • 手術前の評価として行う
  • 組織検査:手術でとった腫瘍を一部切り取り、がんかどうか調べる
  • 手術や放射線治療をした場合もしなかった場合も、定期的な画像検査(頭部CT検査、頭部MRI検査)を行う
    • 画像検査を行う回数は腫瘍の大きさや再発のリスクによって異なるが、1年に1-2回撮影することが多い

聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)の治療法

  • 治療選択肢は大きく分けて3つ
    • 経過観察:そのまま様子をみる
    • 放射線療法
    • 手術(開頭手術)
  • 腫瘍の大きさや現在の症状により治療法を選ぶことになる
  • 経過観察
    • 手術は合併症が起こる可能性があるので、小さくて症状がない場合は、様子をみることもある
    • 定期的に画像検査を行う(1年に1-2回ほど)
  • 放射線治療
    • あまり大きくないもの(目安としては直径3cmまで)の場合は、放射線治療(ガンマナイフ、サイバーナイフなど)が可能
    • 3cm以上の大きなものでは、放射線治療はあまり効かない
  • 手術治療

    • ある程度大きく(3-4cm以上)、脳幹や神経を圧迫するものは開頭手術しか治療法がない
    • 手術治療においてポイントとなるのは聴力を残すことと顔面神経麻痺を起こさないこと
    • 聴神経にできる腫瘍であり、腫瘍の摘出の際には聴神経を傷つけないために慎重な操作が必要となる
    • また顔面神経は聴神経のすぐ側を走行しており、同様に腫瘍摘出の際に傷つけるおそれがある
    • 神経が腫瘍の中に巻き込まれていることもあり、神経を温存するために腫瘍をすべて取ることを諦めざるをえないこともある
  • 熟練した脳神経外科医でも、聴力を残せる確率は60%程度と言われている

    • 手術した5人に2人は、腫瘍ができた側の耳が聞こえなくなってしまう
    • 治療・手術が本当に必要なのか、主治医と相談しながらよく考える必要がある

聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)の経過と病院探しのポイント

聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)が心配な方

聴神経腫瘍では、片方の聴力の低下、耳鳴り、ふらつき、めまいといった症状が特徴的です。
上記の症状のいずれかが出現して困った時に、耳鼻科や神経内科、脳神経外科のクリニックや病院を最初に受診して、頭のCTやMRIを撮った時に聴神経腫瘍前庭神経鞘腫)を指摘される方が多いと思います。聴力の低下を自覚して、最初に耳鼻科を受診した場合、突発性難聴と診断されたが実は聴神経腫瘍前庭神経鞘腫)だったと後から分かる人もおり、その点は注意が必要です。

専門の診療科は脳神経外科になります。聴神経腫瘍前庭神経鞘腫)が疑われた場合、あるいは診断された場合、まずはお近くのクリニックを受診して、相談すると良いです。手術自体は合併症を考えると非常に難しく、慣れた脳神経外科の医師の手術を受けるべきです。ですがそのような脳神経外科の医師、病院は非常に限られているため、また経過観察として半年や一年ごとにフォローしていくことも多いので、まずはお近くのクリニックや病院の脳神経外科を受診するのが良いと思います。

聴神経腫瘍の診断は頭部MRIで行われます。頭のCTでも分かることもありますが、MRIの方が詳細な情報を得ることが出来ます。日本ではMRIが普及しているので、多くの病院や一部のクリニックで診断することが出来ます。また聴力検査も症状の進行度を知る上で大切です。健康診断などでもお馴染みの標準純音聴力検査だけでなく、聴性脳幹反応反射(ABR)が行われます。

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聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)でお困りの方

聴神経腫瘍の治療は、経過観察、手術、放射線療法に分かれます。聴神経腫瘍は良性のため、悪性のがんのように転移したりすることがありません。大きくなった時に、他の脳神経や脳幹を圧迫することで症状が出てきます。そのため小さければ経過観察することが多いですし、大きかったり症状が出ているようであれば手術や放射線療法を行います。開頭手術をするかの大きさの目安は3cmです。

聴神経腫瘍が見つかったからと言って、必ずしも大きくなって聴力が低下したり、他の症状が出るわけではありません。ずっと経過観察していても大きさが変わらず、症状も悪くならない人がいます。一方で少しずつ聴力が低下して、他の症状が出る人もいます。

治療を考える上で、腫瘍がある方の聴力を残すかどうか、が一つ大切なポイントになります。昔であれば腫瘍が大きくなって、聴力低下以外の症状が出てきた時に開頭手術を行っていました。そのくらい大きくなっている時には、腫瘍がある側の聴力は失われていることが多かったです。そのため開頭手術の際にも聴力を温存するかどうかは問題になりませんでした。しかし最近では、小さいうちに聴力を温存するために行う開頭手術を行う病院も出てきています。また腫瘍が小さい場合、放射線療法が有効なことが分かっていて、聴力も温存できることが多いです。

治療方針に関しては、腫瘍の大きさ、聴力、他の脳神経症状、脳幹や小脳の圧迫症状があるか、年齢などによって経過観察、手術、放射線療法のどれかが選択されます。患者自身の希望、診療科、医師によってかなり異なることが多いです。急いで治療が必要なことは稀なので、自分に合った医師とじっくり話し合って決めてください。

手術であれば、脳神経外科で行われます。耳鼻科と合同で手術が行われることもあります。この手術は脳外科の手術の中でも難しい手術で、行っている病院、脳神経外科専門医は限られています。経験数の豊富な脳神経外科専門医の手術を受けることが望ましいです。

最近では放射線療法の進歩がめざましいです。腫瘍が小さくても、若い場合は治療をした方がいいことも多く、放射線療法が選択されることが多いです。放射線療法もリニアック、サイバーナイフ、ガンマナイフなど様々な照射方法があり、それぞれメリットやデメリットはありますが、どの照射方法でも治療効果があり、差異ははっきりとは分かっていません。サイバーナイフ、ガンマナイフに関しては日本でも数十の病院でしか行われていないので、近くでそういった治療を行っている病院を探す、紹介してもらう必要があります。

腫瘍が小さくて症状も軽ければ、経過観察される場合が多いです。経過観察であれば、耳鼻科、脳神経外科で半年から1年に1回、MRIを撮影することになります。

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