歩くと足が痛い、痺れるといった症状は腰部脊柱管症で多く見られるものです。医療機関ではこのような症状の情報をもとに可能性のある病気を絞り込み、診察や検査を行って原因を調べます。このページでは腰部脊柱管狭窄症の診察と検査について、個別にその目的や内容を説明していきます。
1. 問診
問診とは患者さんとお医者さんが対話形式で行う診察方法のことを指します。患者さんからは受診のきっかけとなったことを話し、お医者さんは症状や背景についてより詳しく知るためにいくつか質問をします。
【腰部脊柱管狭窄症の可能性がある人への質問例】
- 症状についての質問
- 症状はいつから現れたのか
- 症状はひどくなったりよくなったりするか
- 症状が変化する状況について
- 安静時(何もしていないとき)の症状の有無について
- 排尿や排便に変わった点はあるか
- 患者さんの背景についての質問
- 現在治療している病気の有無
- 過去に治療した病気の有無
- 喫煙歴
- 飲酒歴
- 定期的に服用している薬の有無
腰部脊柱管狭窄症に似た症状は他の病気でも見られることがあります。例えば、間欠性跛行(歩行してしばらくすると痛みやしびれのために歩行困難になること)は腰部脊柱管狭窄症の症状としてよく知られたものですが、閉塞性動脈硬化症(足の血管が狭くなって血流が悪くなる病気)でもよく見られる症状です。症状がどちらの病気によるものかの見当をつける手段として、問診が有効です。 お医者さんとは緊張してうまく話せない人も少なくないと聞きますので、事前に伝えたいことやこれまでの病気などの情報をメモにしておくと、上手に問診を受けられると思います。上の質問例を参考にして、準備してみてください。
2. 身体診察

問診に続いて行われることが多いのが、身体診察です。身体診察ではお医者さんが患者さんの身体を直接くまなく調べます。身体診察にはいくつか種類があります。身体の表面を観察するのも診察(視診)ですし、聴診器を使って身体の中の音を聞くのも診察(聴診)です。いくつかある身体診察ですが、腰部脊柱管狭窄症が疑われる人には神経学的診察を特に詳しく行います。神経学的診察では神経や筋肉の異常について調べます。 手のひら大のハンマーで関節をやさしく叩いて反射の程度を観察したり、身体の一部を撫でたりして触覚や振動覚を調べます。また、筋力の異常の有無を調べるために、お医者さんと力比べをすることもあります。
3. 画像検査:レントゲン検査やMRI検査など
画像検査とは身体の中の状況を画像化する検査のことです。腰部脊柱管狭窄症が疑われる人には背骨やその中を通る神経の状況を詳しく調べるために行われます。
X線検査(レントゲン検査)
X線は放射線の一種です。X線は身体の中を通過することができるものなのですが、身体を構成する組織ごとで通り方(透過率)が異なる性質があります。レントゲン検査ではこのX線の性質を利用して身体の中を画像化します。例えば、X線が通過しにくい骨は白く映し出されるのに対して、通過しやすい内臓は黒く映し出されます。レントゲン検査では主に背骨の形や脊柱管の広さなどが注目されます。
CT検査
CT検査もレントゲン検査と同様に放射線を利用した検査です。放射線の量がレントゲン検査に比べて多いため、被ばく量が多くなりますが、レントゲン検査よりも詳細に身体の中を観察できます。ただし、神経の状態については後述するMRI検査のほうがより詳しく調べられるため、CT検査が行われないこともあります。MRI検査を行えないケース(身体に金属やペースメーカーを埋め込んでいるなど)で代わりとして行われることが多いです。CT検査についてより詳しく知りたい人は「こちらのページ」を参考にしてください。
MRI検査
MRI検査は磁気を利用して身体の中を画像化します。放射線を使わないので、CT検査とは異なり、被ばくの心配はありません。神経の状態を調べるのに向いているので、腰部脊柱管狭窄症が疑われる人の診断では大切な検査になります。ペースメーカーや身体の中に金属を埋め込んでいる人などには行えない検査なので、該当する人は検査前の確認でしっかりと伝えてください。MRI検査についてより詳しく知りたい人は「こちらのページ」も参考になります。
脊髄造影検査
脊髄は背骨の中にある神経器官です。脳とつながっており、脳からでる司令を身体の隅々に伝えるという重要な役割を担ってます。脊髄造影検査では造影剤という物質を脊髄の周囲に注入することで、通常のX線検査よりも明瞭に脊髄(神経)の状態を知ることができます。 実際の検査では、背中から針を刺して、脊髄の周囲を満している脳脊髄液に造影剤を注入して、X線で撮影をします。 有用な脊髄造影検査ですが、現在は行われることは多くはありません。なぜなら、脊髄の状態を把握するにはMRI検査で十分であり、、脳脊髄液に向かって針を刺すという身体的負担をともなう脊髄造影を行うまでもないと考えられているからです。
参考文献
井樋 栄二, 他/編集「標準整形外科」, 医学書院, 2016