Beta 急性中耳炎のQ&A
急性中耳炎になりやすい年齢はありますか?
乳幼児に多い疾患です。生後1歳までに10-15%、3歳までに50-70%が少なくとも1回は中耳炎になると言われており、小児ではよくみられる病気です。
急性中耳炎の原因・メカニズムについて教えて下さい。
急性中耳炎はその名前の通り、中耳に感染が起こることによる中耳の炎症です。中耳は鼓膜の奥にある部屋で、鼻腔と耳管を介して繋がっています。大人の耳では、耳管は傾斜しており、中耳は鼻腔よりも上方にありますが、子供の耳では耳管は短く、水平に走行しています。そのため小児では、鼻腔内のウイルスや細菌が耳管を通って中耳へ入りやすく、中耳の中で感染を起こしやすいのです。きっかけとなるのは、感冒(風邪)やアデノイド肥大などです。感冒時には、耳管がむくんで細くなり、耳管の還流が悪くなります。小児でしばしばみられるアデノイド肥大も大きくなりすぎると、耳管を圧迫することがあります。空気の流れが遮られると、中耳内に鼻腔からの細菌やウイルスが貯留して、感染が起こりやすくなります。中耳炎発症の1-2週間前には、感冒症状(鼻汁、咳など)がみられることが多いです。アデノイドについては3歳頃から生理的に大きくなり始め、6歳頃に最大となり、以降は徐々に縮小して大人ではほとんど見られないくらいの大きさになります。
急性中耳炎の原因となる菌やウイルスはどんなものですか?
細菌もウイルスもどちらも原因となります。細菌は、肺炎球菌、インフルエンザ菌(Hib)が多いです。ウイルスとしては、RSウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、その他いわゆる「風邪」のウイルスが原因となります。
急性中耳炎に関して、どんなことがリスクとなりますか
・兄弟が多い:感冒にかかる機会が増えるためです。
・両親の喫煙:受動喫煙により、鼻腔から異物を排泄する機能が弱まるためです。
・アレルギー性鼻炎:鼻汁がつまって持続的な炎症が起こり、中耳にも炎症が広がりやすいためです。
・アデノイド肥大:耳管を圧迫することで空気の流れが遮られると、中耳内に鼻腔からの細菌やウイルスが貯留して、感染が起こりやすくなります。
・寝たままミルクを飲ませる:耳管の構造が乳幼児では水平のため、哺乳時にミルクが直接中耳に入ってしまうことが原因になります。
・人工栄養:母乳栄養は鼻腔内に定着する細菌を減らす働きがあると言われています。また、母乳には免疫物質が含まれます。
・ダウン症:耳管の構造が乳幼児の構造に近いためです。
急性中耳炎は他人にうつりますか?
自分の鼻腔内の細菌やウイルスが原因となるため、うつるものではありません。
急性中耳炎は遺伝性がありますか?
血縁の家族が急性中耳炎を起こしやすい場合には、発症する確立が高くなるようです。耳管の構造や働き、免疫などの体質が関連しているようです。
急性中耳炎はどのような症状で発症するのですか
耳痛、耳漏、発熱、不機嫌、活気低下など、様々な症状がみられます。 耳を気にして触っているなどの症状があれば要注意です。
急性中耳炎の症状が出現した時、何科を受診したらよいですか
小児科または耳鼻科を受診してください。しかし、小児科では、耳垢が溜まっている場合などには鼓膜がみえず診断が難しいことがあります。また、中耳炎の治療としての切開排膿は小児科では困難であることも多いです。発熱のみの場合にはまずは小児科を受診して頂くのがよいと思われますが、耳を触っている、耳漏があるなど中耳炎が強く疑われる場合には、耳鼻科の受診の方が望ましいかもしれません。
急性中耳炎が重症化するとどのような症状が起こりますか
・急性乳突洞炎
中耳の炎症がその周囲まで及ぶことにより生じます。中耳炎の原因となる細菌が薬剤に対して耐性を持っている場合(耐性:薬剤に対して抵抗できるような性質)や、本人の抵抗力が低下している場合などに、治療の効果が得られにくく、難治性中耳炎として2-3週間程度症状が続いた後に生じます。症状として、中耳炎の症状に加えて、側頭部や耳の後ろの痛みが生じます。耳の後ろにある骨の突起部(乳様突起)に炎症が起こることで、この部位の圧痛や発赤(赤くなった状態)が生じ、腫れてくるために耳介が前方に立ってくることがあります(耳介聳立)。診断はCT検査で行われることが多く、治療は基本的には抗菌薬治療、改善を得られない場合には手術で膿を出すこともあります。
・顔面神経麻
顔面神経は顔面の筋肉を動かすための神経であり、中耳と乳様突起を横切っているため、炎症の影響を受けて麻痺が生じることがあります。表情に左右差が出たり、眼を閉じられない、口角が垂れ下がる、口角からよだれが垂れる、などの症状が起こります。中耳炎の治療に伴って改善し、一過性のことが多いです。
急性中耳炎が重症化した際の、その他の症状について教えて下さい。
内耳炎:中耳からさらにその奥にある内耳に感染が広がることがあります。内耳には音を刺激として神経に送る器官や、平衡感覚を保つための器官があります。ここに炎症が起こると、症状として、眩暈、耳鳴、嘔気嘔吐、難聴、眼振などがみられることがあります。診断は、頭部CT、聴力検査などで行います。治療は、抗菌薬治療、排膿、ステロイドの使用などを行いますが、後遺症として難聴が残ることがあります。
急性中耳炎はどのように診断するのですか?
耳痛・耳漏などの症状と、鼓膜の観察によって診断を行います。中耳炎では、鼓膜の発赤や腫れ、鼓膜の奥の中耳の中に液体が貯まる、などの所見がみられます。症状と鼓膜の状態で重症度を決めています。耳漏(耳垂れ。耳から排出される液体)がみられる場合や鼓膜切開を行った場合には、綿棒などで膿を採取して培養を行い、原因菌を調べることもあります。
急性中耳炎のその他の検査について教えて下さい
乳突洞炎や内耳炎などが疑われる場合には、CT検査や聴力検査を行うこともあります。
急性中耳炎と診断が紛らわしい病気はありますか?
・急性外耳炎
外耳とは耳の入り口から鼓膜までの通路で、耳かきや水泳の刺激がきっかけとなって炎症を起こすことがあります。この場合にも耳痛を訴えますが、耳漏はみられず、鼓膜も正常です。耳を引っ張ると痛がることが多いです。治療としては、外耳道の清掃と鎮痛薬、点耳薬等になります。その他、耳垢栓塞(耳垢が外耳道につまること)や外耳道の異物なども耳痛を起こすことがあります。
滲出性中耳炎
耳管の開通性が悪くなることにより、中耳に液体がたまっている状態をいいます。原因として多いものでは、急性中耳炎やアデノイド肥大症で耳管が狭くなることが挙げられます。症状としては、急性中耳炎と同様に中耳内に水が溜まりますが、感染はないため、耳痛や発熱などはみられず、難聴が主な症状です。耳閉感があるため、耳を気にするそぶりを見せることがあります。鼓膜所見、聴力検査、ティンパノグラムなどの検査で診断します。自然治癒することが多いですが、原因の治療や、耳管に空気を送って開通させる方法、鼓膜切開、鼓膜チューブ留置手術などを行うこともあります。
急性中耳炎の治療法について教えて下さい。
小児の中耳炎では、ウイルスが原因であることも多いため、軽症の場合には抗菌薬を処方せずに様子をみることもあります。(抗菌薬は、細菌に対するお薬であり、ウイルスには効果がありません。)重症と判断された場合、もしくは経過観察して症状が改善しない場合には、細菌感染が生じている可能性があるため、抗菌薬を使用します。重症の場合には、鼓膜を切開して、膿を出してあげることもあります。
急性中耳炎の治療薬の使い分けについて教えて下さい。
治療には抗菌薬が使われますが、使用する抗菌薬には種類があり、どのような細菌が原因となっているかを予想して抗菌薬を選択しています。中耳炎の原因となる細菌は肺炎球菌やインフルエンザ桿菌(ヒブ)などが多いので、これらに効果のある抗菌薬を使用していますが、一部の細菌ではある特定の抗菌薬に対する耐性を持っており、効果がみられないことがあります。その場合には、別の種類の抗菌薬へ変更して治療を続けます。耐性とは、細菌がある抗菌薬を投与されても生き延びられる性質であり、耐性獲得には色々なメカニズムがあります。その一つとしては、細菌が抗菌薬を分解したり効果のない物質に変えてしまったりする酵素を作りだすことが挙げられます。抗菌薬の普及に伴って、このような性質を獲得した細菌が増えてきていますので、抗菌薬の使用は必要な場合のみ行うことが望ましいです。
その他のお薬として、耳痛を抑えるために鎮痛薬(カロナール内服、アンヒバ坐薬など)を使用することもあります。
急性中耳炎の治療に関して、鼓膜切開は受けても大丈夫ですか?
鼓膜は切開しても通常数日で自然閉鎖します。切開時は局所麻酔薬を使用する場合とそうでない場合がありますが、いずれにしても痛みを伴います。また切開後は出血を伴うことがありますが、これも自然に止まります。切開を行わなかったために治療が長引く場合や、難聴となる場合もあるので、適切な治療の選択が必要です。
急性中耳炎では入院が必要ですか?治療期間はどの程度ですか?
基本的には外来治療となります。鼓膜切開も外来で行うことができます。感染が広がっている場合(乳突洞炎、内耳炎、頭蓋内の炎症など)には入院が必要となる場合もあります。治療期間は大体1-2週間程度ですが、個人差があり、反復する場合、抗菌薬の効果が得られにくい場合など、長引くこともあります。
急性中耳炎は完治する病気ですか?あるいは、治っても後遺症の残る病気ですか?
基本的には完治する病気です。炎症が高度な場合や慢性化した場合は,難聴や耳鳴り、耳漏などの後遺症を残すことがありますが、頻度は少ないです。
急性中耳炎の具体的な後遺症について教えて下さい。
① 滲出性中耳炎:詳細は上記。急性中耳炎から引き続いて発症することが多いですが、多くの場合には数日で自然治癒します。急性中耳炎の治療後にも耳を気にする、難聴などの症状が持続する場合には、耳鼻科の受診をお勧めします。
②慢性的な鼓膜穿孔:鼓膜の穴が閉鎖せず、耳漏が持続します(慢性穿孔性中耳炎)。
③鼓膜硬化による難聴:鼓膜や音を伝える骨が硬くなって、鼓膜の振動が悪くなります。
④真珠腫性中耳炎:急性中耳炎を繰り返すうちに中耳内の組織が異常に増殖して、耳の周囲の骨を破壊します。症状としては、耳漏や難聴が生じ、症状が進行すると神経にも影響が及んで、めまい、顔面神経麻痺などを伴うことがあります。
⑤顔面神経麻痺:顔面神経は顔面の筋肉を動かすための神経であり、中耳と乳様突起を横切っているため、炎症の影響を受けて麻痺が生じることがあります。表情に左右差が出たり、眼を閉じられない、口角が垂れ下がる、口角からよだれが垂れる、などの症状が起こります。中耳炎の治療に伴って改善し、一過性のことが多いです。
⑥内耳炎:内耳には音を刺激として神経に送る器官や、平衡感覚を保つための器官があります。ここに炎症が起こると、症状として、眩暈、耳鳴、嘔気嘔吐、難聴、眼振などがみられることがあります。後遺症として神経性難聴,耳鳴り,めまい等の後遺症が残ることがあります。
急性中耳炎に関して、中耳炎を繰り返す場合、何か異常が疑われるのでしょうか?
中耳炎を繰り返す背景には、抗菌薬の効きにくい耐性菌の出現や、集団保育や兄弟による頻回の感冒への感染などがあります。免疫異常が隠れていることもありますが、頻度は稀です。年に4回以上中耳炎を繰り返す場合、体重増加不良を伴う場合、免疫不全の家族歴がある場合、他の重症感染症(髄膜炎、骨髄炎、蜂窩織炎、敗血症など)にかかったことがある場合などでは、小児科で相談してください。
急性中耳炎の再発予防として日常生活で気をつけるべき点を教えてください。
中耳炎の原因菌として肺炎球菌がよく知られており、肺炎球菌のワクチン接種が、急性中耳炎のリスクも減らすと言われています。実際に肺炎球菌ワクチンの普及後から罹患率は減少しています。その他、インフルエンザワクチンも有効と言われています。まずは上気道炎(感冒)を減らすことが予防となります。
急性中耳炎と診断された後に、幼稚園や保育園には行っても大丈夫ですか?
うつる心配はないため、解熱していて元気な場合には通園しても構いません。中等症以上の分類に当てはまるような中耳炎を発症している場合には可能な限り休むことが望ましいと思います。水泳以外の軽い運動であれば、他の症状がなければ可能です。
急性中耳炎と診断された場合、水泳やお風呂に入っても大丈夫ですか?
基本的には治癒するまで水泳は避けてください。入浴は潜ったりしなければ、大丈夫です。