2017.05.03 | ニュース

急性膵炎で水分の点滴を2倍にすると効果は増すか?

60人の治療で検証

from The American journal of gastroenterology

急性膵炎で水分の点滴を2倍にすると効果は増すか?の写真

急性膵炎は激しい腹痛などを起こし、重症のときは命に関わります。初期治療として絶食とし、点滴で水分を補います。点滴の量を2倍にしたときの効果が検討されました。

アメリカの研究班が、急性膵炎に対して点滴の量を変えたときの違いを調べ、専門誌『American Journal of Gastroenterology』に報告しました。

この研究は、急性膵炎の診断から4時間以内で、SIRS(全身性炎症反応症候群)または臓器不全のない患者を対象としています。SIRSや臓器不全は重症の急性膵炎で現れます。つまりこの研究では比較的軽症の患者が対象となっています。

対象者はランダムに2グループに分けられました。

  • 最初に20ml/kg、続いて3ml/kg/hの乳酸リンゲル液を点滴するグループ
  • 最初に10ml/kg、続いて1.5ml/kg/hの乳酸リンゲル液を点滴するグループ

乳酸リンゲル液は、血液に近い濃度のナトリウムイオンや塩化物イオンなどを含む液体です。食塩水にいくつかの成分を加えたようなものです。救急治療で水分を補うために使われます。

急性膵炎では激しい炎症により全身の血管が反応して、水分が血管の中から失われます。つまり血液の量が少なくなります。血管の中には常にほどよい量の血液が流れていなければ悪影響があります。そこで水分を補う点滴(輸液)を使って治療します。軽症の急性膵炎には経験的に輸液の量が決められていましたが、研究結果としての証拠は限られていました。

1.5ml/kg/hというのはたとえば体重60kgなら90mlの輸液を1時間で入れるということです。これは急性膵炎の治療としては少なめです。対して3ml/kg/hは体重60kgなら1時間で180mlとなり、多めの輸液です。たとえば日本の「急性膵炎診療ガイドライン」(第4版)では、脱水状態にない患者で130-150ml/hの輸液を勧めています。

 

治療開始から36時間の時点で次の結果がありました。

強化ハイドレーションで治療された患者は、標準的ハイドレーションに比べて高い割合で36時間後の臨床的改善を示した:70% vs 42%(P=0.03)。

容量負荷の徴候を示した患者はいなかった。

輸液が少ないほうの患者では、36時間で検査値・痛み・食事の回復が42%の人で得られました。対して、2倍の輸液をした患者では、70%の人が同程度の回復を示しました。つまり2倍の輸液のグループのほうが高い割合で回復が得られました。

輸液が多すぎることによって害が出た様子は見られませんでした。

 

急性膵炎に対する輸液の量の研究を紹介しました。

軽症の急性膵炎に対する治療は絶食輸液です。輸液の量まで患者の立場から意見を出すことはないかもしれませんが、このように実際に試すことで今でも改善が図られています。

急性膵炎で現れやすい症状に以下のものがあります。

  • 腹痛、背部痛
  • 悪心(吐き気)・嘔吐
  • 発熱
  • 血圧の低下
  • 頻脈(脈が早くなる)

こうした症状を現す病気は急性膵炎だけではありませんが、急激に現れる症状や激しい症状があれば、急いで医師の診察を受けることで軽症のうちに治療できる可能性があります。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Early Aggressive Hydration Hastens Clinical Improvement in Mild Acute Pancreatitis.

Am J Gastroenterol. 2017 Mar 7. [Epub ahead of print]

[PMID: 28266591]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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