日本は遅れているのか?
2016年9月27日、世界保健機関(WHO)は南北アメリカ大陸を含むアメリカ地域が麻疹の排除状態にあることを宣言しました。アメリカ地域は麻疹対策で世界に先駆けたと言えます。
排除状態とは、ほかの地域から持ち込まれた感染を除き、地域に住み着いた病原体による発病がなくなった状態を指します。アメリカ地域では2002年のベネズエラでの流行を最後に、アメリカ地域由来の麻疹は12年以上発生していません。
アメリカ地域はほかの感染症も排除してきた歴史を持っています。
天然痘は1971年にアメリカ地域から根絶され、1975年に全世界で根絶されました。
ポリオ(小児麻痺)は1994年にアメリカ地域から根絶され、現在ポリオの常在国とされる国は世界でパキスタンとアフガニスタンの2か国だけです。
風疹と先天性風疹症候群は2015年にアメリカ地域から排除されました。日本では、2014年に先天性風疹症候群が9人、風疹にかかった人が319人報告されました。日本は風疹対策では世界に遅れています。
麻疹については、実は日本も2015年3月に、WHOによって「排除状態」であると認められています。その点では、日本は麻疹対策で遅れているとは言えません。
しかし現在の状態はここ10年以内の大変な努力によって達成されたものです。最近まで日本は世界的にも目立った麻疹後進国でした。
いまなぜ麻疹が話題になっているのか?
8月以降、麻疹の流行が話題になっているのは、日本で麻疹が少なくなったからです。
2006年から2008年にかけて、日本全国で麻疹が大流行したことを覚えているでしょうか。2008年には11,012人の麻疹患者が報告されています。
このころは、日本は世界的に麻疹の輸出国として知られていました。2007年までは、麻疹は今のように全例を報告するのではなく、決まった施設でだけ患者数を把握すること(5類定点把握対象疾患)とされていました。したがって2007年までの日本で麻疹患者が何人いたかというデータがそもそも存在しません。それほど麻疹対策はないがしろにされていました。
その結果が2008年までの大流行でした。
あまりの事態を受けて、2008年4月から5年間、中学1年生と高校3年生にあたる年齢のすべての人を対象にワクチンの定期接種が追加されました。その結果、麻疹の報告数は2009年には732人、2010年には447人と激減しました。
ちゃんと対策すれば20分の1以下になるはずの病気が、2008年までは放置されていたと言えます。
現在の日本がなぜ危ないのか?
対策の結果、麻疹は発生すればニュースになるほど少ない病気になりましたが、現在の流行を含め、海外から持ち込まれた麻疹ウイルスが日本中に広がる可能性にはまだまだ注意が必要です。
麻疹に備えるには何よりもまずワクチンです。
2016年現在、子どもを対象に次の2回の定期接種が行われています。
- 満1歳の1年間
- 小学校就学前年の4月1日から3月31日まで1年間
対象になる年齢の子どもがいる方は、忘れずに2回ともワクチンを打ってください。現在のところ、ほとんどの人が定期接種のワクチンを打っていますが、もし打たない人が増えれば、麻疹に弱い子どもが増えてしまいます。
麻疹は非常に感染力の強い病気です。空気感染し、死亡にもつながり、妊娠中の感染で流産を引き起こすこともあります。治ってからも、10年近く経ってから亜急性硬化性全脳炎による知的障害や死亡を引き起こす場合があります。
麻疹が少なくなった結果、こうした危険が忘れられてしまえば、日本がまた麻疹の多い国になってしまうかもしれません。
日本と周りの国々が努力を続ければ、麻疹はもっと少ない病気になるはずです。アメリカの事例はそれを証明しています。
執筆者
Region of the Americas is declared free of measles.
PAHO Press Release, 2016 Sep 27.
http://www.paho.org/hq/index.php?option=com_content&view=article&id=12528&Itemid=1926&lang=en※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。