花粉症によるアレルギー症状と主な治療薬(抗ヒスタミン薬)について
花粉症は、スギやヒノキなどの植物の花粉に対して体があらわすアレルギー反応で、主に鼻炎や結膜炎などがおこります。
症状としては鼻炎、目の痒み、喉の痒み、咳、皮膚の痒みなどがあらわれます。これらの症状は花粉などのアレルギー反応の原因となる物質に対して体内でヒスタミン、ロイコトリエンなどの化学物質が放出されることなどにより引き起こされます。中でも鼻炎(アレルギー性鼻炎)は多くの人にあらわれる症状の一つであり、ヒスタミンなどのアレルギーを引き起こす化学物質によって鼻水、くしゃみなどの症状の他、鼻粘膜のうっ血、腫脹などにより鼻づまり(鼻閉)があらわれる場合もあります。
花粉症の治療薬としては体内物質であるヒスタミンの作用を阻害する抗ヒスタミン薬などが使われます。抗ヒスタミン薬は多くのアレルギー性疾患に効果をあらわし、花粉症などのアレルギー性鼻炎以外にも気管支喘息、蕁麻疹、皮膚炎、皮膚掻痒症などで使われています。
有効的な作用をあらわす一方で、抗ヒスタミン薬は中枢抑制作用や抗コリン作用(体内物質のアセチルコリンを阻害する作用)をもっています。これらの作用により眠気、喉の渇き、尿閉、便秘、眼圧上昇などの症状があらわれる場合があり、これらが抗ヒスタミン薬の内服薬で主に注意すべき副作用となっています。
最近では眠気などを抑えた薬剤[フェキソフェナジン塩酸塩(主な商品名:アレグラ®)やロラタジン(主な商品名:クラリチン®)など]も開発され臨床で使われていますが、体質などによってはこれらの薬剤でも眠気などがあらわれ仕事など日常生活に支障が出る可能性もあります。また元々体質的に薬剤に対してアレルギーをもつ場合などでは、内服薬が使いづらい場合もあります。他にも内服薬だけでは効果が不十分であるケースもあり、このような場合には局所に効果をあらわす外用剤が有用性を発揮することがあります。特にアレルギー性鼻炎には外用剤の中でも鼻に局所的に効果をあらわす点鼻薬が有用となります。
抗ヒスタミン薬の点鼻薬(主な製剤名:ザジテン®点鼻液0.05%、リボスチン®点鼻液0.025mg112噴霧用 など)
抗ヒスタミン薬を主成分とする点鼻薬で、主に薬液を鼻腔に噴霧するタイプの製剤です。効果があらわれる仕組みは、ほぼ内服薬と同じですが、局所的な作用により眠気などの全身性の副作用がかなり軽減されている製剤です。「全身性の副作用がかなり軽減されている」としたのは、眠気などが全くあらわれないわけではないからです。理由としては、鼻粘膜から吸収された薬剤が極わずかに全身循環に移行する可能性があることや、鼻粘膜に吸収されていない分の極わずかな薬剤が鼻腔から口腔へ移行し、内服薬と同様に全身循環へ移行する可能性があることが挙げられます。つまり、頻度はかなり低いながらも全身性の副作用があらわれる可能性はゼロではないのです。ここでは、実際に点鼻薬として使われている薬剤についていくつか紹介します。
ケトチフェンフマル酸塩(主な商品名:ザジテン® など)
医療用医薬品としては、「ザジテン®点鼻液0.05%」、OTC医薬品(市販薬)としても「ザジテン®AL鼻炎スプレーα」などの製剤に使用されている薬剤です。ヒスタミン以外のアレルギー誘発因子となる体内物質の放出を抑える作用や鼻汁中の好酸球数を減少させ、鼻粘膜の過敏性を減少させる作用などをあらわします。
注意すべき副作用として使用部位の鼻腔の刺激感や乾燥感などに加え、医療用医薬品の「ザジテン®点鼻液0.05%」の添付文書には1%の頻度で眠気があらわれるとの記載があります。
ケトチフェンフマル酸塩は医療用医薬品、OTC医薬品共に点鼻薬の他、内服薬、点眼薬の剤形があり用途や症状などに合わせた選択が可能となっています。
レボカバスチン塩酸塩(主な商品名:リボスチン® など)
医療用医薬品として主にリボスチン®の名称で使用されている薬剤です。抗ヒスタミン作用などにより血管透過性の亢進(鼻づまりを引き起こす要因の一つ)を抑制する作用をあらわします。他の点鼻薬と同じように注意すべき副作用として使用部位の鼻腔の刺激感、乾燥感などがある他「リボスチン®0.025mg112噴霧用」の添付文書には1.9%の頻度で眠気があらわれたとの記載があります。
レボカバスチン塩酸塩には点鼻薬の他、点眼薬の剤形があります。
副腎皮質ホルモン(点鼻薬)
いわゆる「ステロイド」を含む製剤です。薬剤としてのステロイドの多くは元々、体内のホルモンの一つである副腎皮質ホルモンを元に造られた薬剤であり抗炎症作用や免疫反応を抑える作用などによりアレルギー症状の改善効果が期待できます。一般的にステロイド製剤の内服薬や注射剤では(使用量や使用期間などにもよりますが)、様々な副作用に注意が必要となります。その点、点鼻薬では局所的に効果をあらわすので内服薬や注射剤などに比べると副作用はかなり軽減されていると言えます。もちろん副作用がゼロというわけではなく、鼻腔の刺激感や乾燥感、鼻出血などには注意が必要です。ここでは主に医療用医薬品における代表的な製剤を一般的な使用方法などを含めて紹介します。
フルナーゼ®
フルチカゾンプロピオン酸エステルを主成分として含む製剤であり、主に成人用として使われる「50μgの規格」と主に小児用として使われる「25μgの規格」があります。通常、1日2回、各鼻腔に噴霧します。
アラミスト®
フルチカゾンフランカルボン酸エステルを主成分として含む製剤です。フルチカゾンという名前からもわかるかもしれませんが、フルナーゼ®の類似製剤です。
フルナーゼ®の通常の使用方法は「1日2回」ですが、本剤は通常「1日1回、各鼻腔に噴霧」であり、1回の使用で効果が1日持続する製剤となっています。成人、小児への使用は基本的に噴霧回数によって調節され
- 成人には通常、1日1回、1回各鼻腔に2噴霧
- 小児には通常、1日1回、1回各鼻腔に1噴霧
で使用します。
ナゾネックス®
モメタゾンフランカルボン酸エステルを主成分として含む製剤で、アラミスト®と同様に1回の使用で効果が1日持続する製剤となっています。
成人、小児などへの使用は基本的に噴霧回数によって調節され
- 成人及び12歳以上の小児には通常、1日1回、1回各鼻腔に2噴霧
- 12歳未満の小児には通常、1日1回、1回各鼻腔に1噴霧
で使用します。
上記以外にも医療用医薬品ではエリザス®、リノコート®などステロイド成分を含む点鼻薬はいくつか存在します。またOTC医薬品(市販薬)でもステロイド成分のベクロメタゾンプロピオン酸エステルを含む製剤(「エージーアレルカット®EX」や「コンタック®鼻炎スプレー」など)が主に季節性アレルギーの専用薬として販売されています。
その他の抗アレルギー薬の点鼻薬
ヒスタミン以外にもアレルギー症状を引き起こす因子となる体内物質はあり、ロイコトリエン、トロンボキサンなどが該当します。ヒスタミンを含めて、これらの化学物質をケミカルメディエーターという呼び名であらわすことがあります。ここで紹介するクロモグリク酸ナトリウムなどはこれらの化学物質を阻害することにより抗アレルギー作用をあらわす薬剤になります。
クロモグリク酸ナトリウム(主な商品名:インタール® など)
医療用医薬品としては主にインタール®の名称で、OTC医薬品(市販薬)としては主に「エージーシリーズ」などの主成分として使われている薬剤です。(「エージーシリーズ」の点鼻薬であってもクロモグリク酸ナトリウムを含まない製剤もあります)
免疫細胞からのケミカルメディエーターの遊離を抑える作用などにより抗アレルギー作用をあらわします。抗アレルギー薬の中でも比較的高い安全性をもつとされ、医療用医薬品である「インタール®点鼻液2%」は5歳以下の小児にも使用が可能な製剤となっています。またインタール®には内服薬、吸入液(外用剤)、点眼薬など多くの剤形があり用途などに合わせた選択が可能となっています。
クロモグリク酸ナトリウムは多くのOTC医薬品にも使われていて点鼻薬としては「エージーノーズ®アレルカット®C」や「アスゲン点鼻薬AG」などが発売されています。
交感神経刺激薬(主な商品名:プリビナ®、トラマゾリン など)
アレルギー性鼻炎の鼻づまりは鼻粘膜のうっ血、腫脹などにより起こります。本剤は血管平滑筋の交感神経α受容体に作用することにより鼻粘膜血管を収縮させ、鼻粘膜のうっ血、腫脹などを改善する作用をあらわします。
注意することとして、一般的に本剤を連用又は頻回使用すると効果の持続が短くなり(薬剤の反応性が低下する)、血管収縮作用の反動などにより血管が拡張しかえってうっ血や腫脹などが悪化する場合があります。そのため急性充血期に限って使用する、または適切な休薬期間をおいて使用することが大切です。また、頻度は非常に稀ですが交感神経刺激作用により血圧上昇やインスリン分泌を抑える作用があらわれることもあり、高血圧や糖尿病などの基礎疾患をもつ患者が使用する場合はより注意が必要とされています。
医療用医薬品ではプリビナ®(成分名:ナファゾリン硝酸塩)、ナシビン®(成分名:オキシメタゾリン塩酸塩)、塩酸テトラヒドロゾリン、トラマゾリン塩酸塩などが一般的に使われています。また医療用医薬品の「コールタイジン®点鼻液」は交感神経刺激薬に副腎皮質ホルモンを配合した製剤です。
ナファゾリンはOTC医薬品の成分としても使われていて、先ほどのクロモグリク酸ナトリウムの欄で紹介した「エージーノーズ®アレルカット®C」などのOTC点鼻薬に配合されている場合もあります。
ここでは、主に花粉症などによるアレルギー性鼻炎の治療薬の中の点鼻薬について紹介してきました。花粉などで起こるアレルギーの症状は鼻炎だけでなく、目の痒みや皮膚症状などもあらわれる場合があります。内服薬だけでなく点鼻薬、点眼薬などの外用剤を有効利用しながら適切にアレルギー疾患に向き合うことが大切です。
執筆者
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。