2019.01.31 | コラム

男性の排尿の悩みは前立腺肥大症が原因!?:前立腺がんとの違いも説明

排尿に悩みがある男性は「前立腺肥大症のセルフチェック」をしてみよう

男性の排尿の悩みは前立腺肥大症が原因!?:前立腺がんとの違いも説明の写真

1. 男性の排尿の悩みは年齢とともに増えていく

「尿の勢いが弱い」
「尿が出始めるまでに時間がかかる」
「尿ができっていない感じがする」

泌尿器科の外来にはこのような排尿の悩みを抱えた高齢の男性が訪れます。その原因は前立腺肥大症によることが多く、60歳代の人の6%、70歳代の人の12%が前立腺肥大症にかかっているといわれています。

 

2. 前立腺肥大症とはどんな病気なのか?

前立腺は男性にしかない臓器です。一度は耳にしたことがあるかもしれませんが、詳しい人は多くはいないかも知れません。まず、図を使いながら前立腺の場所を説明します。図①は男性の膀胱や尿道、前立腺を模式的に記したものです。

 

【図①:男性の骨盤の断面図】

 

前立腺は膀胱の出口の近くにあり、尿道(排尿の際に膀胱から尿が流れていく道)を取り囲んで存在します。図②に示したように移行領域と辺縁領域、中心領域の3つから構成されており、大きめのくるみ(体積20mL程度)くらいが標準です。前立腺肥大症は主に移行領域が大きくなる病気で、尿道を圧迫して排尿障害をもたらします。

 

【図②:正常な前立腺・前立腺がん・前立腺肥大症の比較】

 

排尿障害の代表的な症状は、尿の流れが悪くなることにより、尿の出しづらさや残尿感や排尿の途中で尿が途切れたりすることなどです。こうした自覚症状がありながらも放置していると、徐々に進行し、頻尿や尿失禁の引き金になることもあります。(もっと前立腺肥大症の症状について知りたい人は「こちらのページ」を参考にしてください。)
他の前立腺の病気には、近年患者さんの数が増加している「前立腺がん」があります。前立腺肥大症は尿道に近い移行領域が大きくなる病気であるのに対して、前立腺がんは尿道から離れた位置にある辺縁領域に発生する病気です。そのため、尿道が圧迫されることは少なく、排尿にはあまり影響が出ません。 また、前立腺肥大症が前立腺がんに変化することはないので過度な心配は不要です。ただし、前立腺肥大症と前立腺がんは発症しやすい年齢に重なりがあるがため、一緒に見つかることがあります。血液検査などで前立腺がんの疑いがあるといわれた人は、きちんと精密検査を受けるようにしてください。

 

3. 前立腺肥大症の診断基準とセルフチェック

次の3つの条件を満たした人が前立腺肥大症と診断を受けます。

 

  1. 国際前立腺症状スコアが8点以上
  2. 前立腺体積の体積が20mLより大きい
  3. 最大尿流量が10mL/秒未満

 

2と3は医療機関でなければ調べることができませんが、1は質問票に答えることで自分のスコアを確認することができます。実際に用いられている質問票を紹介するので、前立腺肥大症が心配な人はチェックしてみてください(なお、「前立腺体積」や「最大尿流量」は「別のページ」で説明しています)。

 

国際前立腺症状スコア(IPSS:International Prostate Symptom Score)

国際前立腺症状スコアは7つの質問の合計点です。自分の状況を当てはめてみてください。8点以上であれば、前立腺肥大症の診断基準の1つを満たしていることになります。

 

■質問①:過去1か月間、排尿後に尿がまだ残っている感じがありましたか?

なし 5回に1回未満 2回に1回未満 2回に1回位 2回に1回以上 ほとんどいつも
0点 1点 2点 3点 4点 5点

 

■質問②:過去1か月間、排尿後2時間以内にもう一度行かなければならないことがありましたか?

なし 5回に1回未満 2回に1回未満 2回に1回位 2回に1回以上 ほとんどいつも
0点 1点 2点 3点 4点 5点

 

■質問③:過去1か月間、排尿途中に尿が途切れることがありましたか?

なし 5回に1回未満 2回に1回未満 2回に1回位 2回に1回以上 ほとんどいつも
0点 1点 2点 3点 4点 5点

 

■質問④:過去1か月間、排尿をがまんするのがつらいことがありましたか?

なし 5回に1回未満 2回に1回未満 2回に1回位 2回に1回以上 ほとんどいつも
0点 1点 2点 3点 4点 5点

 

■質問⑤:過去1か月間、尿の勢いが弱いことがありましたか?

なし 5回に1回未満 2回に1回未満 2回に1回位 2回に1回以上 ほとんどいつも
0点 1点 2点 3点 4点 5点

 

■質問⑥:過去1か月間、排尿開始時にいきむ必要がありましたか?

なし 5回に1回未満 2回に1回未満 2回に1回位 2回に1回以上 ほとんどいつも
0点 1点 2点 3点 4点 5点

 

■質問⑦:過去1か月間、就寝から朝起きるまでに普通何回排尿に起きましたか?

なし 1回 2回 3回 4回 5回
0点 1点 2点 3点 4点 5点

 

*合計8点以上の人は前立腺肥大症が疑われる

 

スコアが8点以上だった場合はどう考えるか

スコアが8点以上だった人は、前立腺の大きさや排尿の状態を泌尿器科で詳しく調べてもらってください。先に少し触れましたが、前立腺肥大症は放置すると進行して、頻尿や尿失禁の原因になることがあります。頻尿や尿失禁の症状がみられる前立腺肥大症は治りにくいので、なるべく早い段階で検査や治療を受けることが大切です。

なお、国際前立腺症状スコアは診断に加えて重症度の判定ができ、20点以上の場合は重症とされます。セルフチェックの点数が高く出た人はすでに頻尿や尿失禁を経験しているかもしれません。そのままにしておくと症状は悪化していき、さらには尿閉(尿が膀胱から先に流れなくなること)という危険な状態を起こす可能性もあるので、早めに医療機関を受診してください。

また、前立腺肥大症以外にも膀胱炎や過活動膀胱、神経因性膀胱なども排尿障害を起こします。これらの病気は国際前立腺症状スコアだけでは分からないことがあるので、スコアが7点以下であったとしても、気にかかる症状がある人はお医者さんに相談すると良いです。

 

4. 前立腺肥大症の疑いがある人は医療機関で相談を

排尿の悩みは相談しにくいと感じる人は多く見られます。実際に外来をしていると、恥ずかしさが勝って我慢していたという人も少なくありません。しかし、高齢男性に多くみられる症状であり、生活の質を損ねる要因になるので、排尿トラブルは進行しないうちに早めに対処するほうがよいです。今回は詳しくは触れませんが、原因が前立腺肥大症であれば、飲み薬や手術によって症状を改善する方法があります。

このコラムを読んで一人でも多くの人が排尿に悩みのない生活を手にすることができれば幸いです。

 

参考文献

・「男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン」 日本泌尿器科学会

・「標準泌尿器科学」(赤座英之/監 並木幹夫、堀江重郎/編)、医学書院、2014

・「泌尿器科診療ガイド」(勝岡洋治/編)、金芳堂、2011

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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