50歳以上男性の無症状または軽い症状のみの鼠径ヘルニアに対する治療
オランダの研究班が、鼠径ヘルニアに対して手術を行うと決める場合と経過観察する場合を比較し、結果を専門誌『Annals of Surgery』に報告しました。
この研究では、50歳以上の男性で、痛みなどの症状がないか、あっても軽度の鼠径ヘルニアの患者が対象とされました。
対象者はランダムに2グループに分けられ、手術を行うと決めるグループ(待機的修復群)、すぐには手術せず経過観察するグループ(監視的待機群)とされました。
経過観察のグループでは、緊急時以外にも状況に応じて手術をしてもよいと決められました。
治療効果として研究参加から24か月後の痛みと不快感が比較されました。
手術したほうがわずかに症状改善
496人の患者が参加しました。24か月後に次の結果が得られました。
24か月時点での痛み/不快感のスコアの平均は待機的修復術の群で0.35(95%信頼区間0.28-0.41)、監視的待機群では0.58(95%信頼区間0.52-0.64)だった。平均の差は-0.23(95%信頼区間-0.32から-0.14)だった。監視的待機群で93人の患者(35.4%)が最終的に待機的手術を受け、6人の患者(2.3%)が絞扼/嵌頓による緊急手術を受けた。
手術をしたグループのほうが、痛みと不快感のスコアが平均してわずかに軽くなっていました。経過観察としたグループのうち35.4%が結果として手術を受けていました。ヘルニアの絞扼(こうやく)または嵌頓(かんとん)という危険な状態に陥り、緊急手術となった人は2.3%でした。
鼠径ヘルニアは手術したほうがいい?
50歳以上の男性の軽症の鼠径ヘルニアは手術をしたほうが症状がわずかに改善したという結果を紹介しました。
経過観察のグループでも結果としては手術をした人がいた点からも、すぐに手術を考えることは支持されると言えるでしょう。
現在の判断の例として、日本ヘルニア学会による『鼠径部ヘルニア診療ガイドライン』は、「嵌頓症例あるいは嵌頓以降の危険が高い症例は全例手術が推奨される。嵌頓の危険が少なく、症状の軽い症例では十分な説明のうえでの経過観察も許容される。」としています。
この研究でも、経過観察のまま24か月経過した人はいました。手術をしないで済むならその分負担が軽くなります。どのような場合が経過観察に適しているかを特定することはこの研究の目的ではありませんが、今後引き続いて論点となるかもしれません。
執筆者
Watchful Waiting Versus Surgery of Mildly Symptomatic or Asymptomatic Inguinal Hernia in Men Aged 50 Years and Older: A Randomized Controlled Trial.
Ann Surg. 2017 Mar 27. [Epub ahead of print]
[PMID: 28350567]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。