肝性脳症に対するラクツロース・リファキシミン併用の効果
アメリカの研究班が、リファキシミンの効果を調べた研究の結果を『Journal of Pharmacy Practice』に報告しました。
肝性脳症とは?
人間の腸内に住み着いている細菌(腸内フローラ)は、流れてきた食物を発酵させて有毒なアンモニアを作っています。腸内細菌が作ったアンモニアは体に吸収されるので、そのままでは体に悪い影響を起こしてしまいます。
正常な肝臓には、毒性の強いアンモニアを無害な物質に変える働きがあります。このため、腸からアンモニアが吸収されても全身にアンモニアの害が出ることはありません。
ところが肝硬変などで肝機能が落ちると、血液にアンモニアがたまり、脳に「肝性脳症」と呼ばれる影響が現れます。肝性脳症では昏睡などの意識障害のほか、手首を反らすと手首がカタカタと震える(羽ばたき振戦)といった症状が特徴です。
アンモニアが多い状態に対して使われる薬にラクツロース(商品名リフォロース)があります。ラクツロースは、腸内環境を酸性にすることで、腸内細菌が作ったアンモニアが吸収されにくいようにします。
また、リファキシミンも肝性脳症の治療薬です。リファキシミンは抗菌薬(抗生物質、抗生剤)の一種です。腸内細菌の活動を抑えることで、アンモニアが作られる量を減らします。
ラクツロース治療にリファキシミンを加える効果の研究
この研究では、肝性脳症で入院治療を受けた人のうち、ラクツロースとリファキシミンの両方を使って治療された人と、リファキシミンなしでラクツロースで治療された人を比較して、リファキシミンを加えることの効果を調べています。
対象施設に入院していた人のデータをさかのぼって比較が行われました。
退院は早くならないが、再入院が減った
統計解析により、リファキシミンを使った場合と使わなかった場合とで、入院期間に統計的な違いが見られませんでした。
リファキシミンの効果について次の結果が得られました。
治療後180日時点で、ラクツロース・リファキシミン併用治療を受けた患者は、ラクツロース単剤治療を受けた患者に比べて肝性脳症による再入院がより少なかった(2.4% vs 16.2%、P=0.02)。
治療後180日までに肝性脳症によって再入院した人は、リファキシミンを使った場合のほうが少なくなっていました。
まとめ
リファキシミンを加えることで、ラクツロースを使った治療よりも早く退院できるというデータは得られませんでした。一方で、再入院が少なかったというデータにも何らかの価値があるかもしれません。
リファキシミンを有効成分とする製剤のリフキシマは、2016年11月に日本では初めて「肝性脳症における高アンモニア血症の改善」を効能・効果とする薬として発売されました。
リファキシミンを何の目的で使うか考えるために、こうしたデータが役に立つかもしれません。
執筆者
Treatment of Acute Hepatic Encephalopathy: Comparing the Effects of Adding Rifaximin to Lactulose on Patient Outcomes.
J Pharm Pract. 2016 Jun.
[PMID: 25586470]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。