2016.07.24 | ニュース

そんなに治ってる?がん統計で勘違いしてはいけない3つのポイント

国立がん研究センターのデータの読み方
そんなに治ってる?がん統計で勘違いしてはいけない3つのポイントの写真
(C) peshkova - Fotolia.com

7月22日に国立がん研究センターから、日本のすべてのがんを合わせると「5年相対生存率62.1%」という推計が公表されました。今はがんになってもそんなに生きられるのか…と思う前に、数字の意味を誤解していないか確かめてみましょう。

がん研究センターの統計は「5年相対生存率」

まず「5年相対生存率」という言葉に気を付けてください。「生存率62.1%」という字が目に入ると、「60%以上は生きられるのだな」と思えるかもしれません。しかし、「5年」「相対」という制限がついています。

 

5年間の生存とは?

5年生きられるかどうかというのは、65歳でがんが発見されたとすれば、70歳まで生きられるかどうかが計算された数字です。診断時に5歳の孫がいたら、小学4年生の姿を見届けられるかどうか、という議論です。

生存したとしてもかなりの場合が、診断直後に手術をして、抗がん剤治療をして、2年後に再発したのでまた手術をして…という闘病生活を強いられる5年間になります。

5年間の生存という内容が「生きられる」という言葉の感覚に合っているかどうか、自分に当てはめてイメージしてみてください。

 

「相対生存率」とは?

「相対生存率」の誤解にも気を付けましょう。国立がん研究センターの説明によれば、「5年相対生存率」の意味は下のとおりです。

あるがんと診断された場合に、治療でどのくらい生命を救えるかを示す指標。あるがんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合が、日本人全体で5年後に生存している人の割合に比べてどのくらい低いかで表します。100%に近いほど治療で生命を救えるがん、0%に近いほど治療で生命を救い難いがんであることを意味します。 

たとえば、厚生労働省による「第21回生命表」を参考にすると、80歳の男性が5年後まで生存する割合はおよそ70%と計算できます。80歳男性で5年相対生存率が70%のがんが見つかった人を集めると、5年後まで生存している人は50%ほどという計算になります(正確な計算は複雑になるので10%単位で説明しています)。

言い換えれば、80歳男性にがんが見つかったとき、治療によって5年後まで70%の人を生存させることができれば、5年相対生存率は100%近くになるのです。

 

早く発見するほど余命が伸びる

次に、がん死亡の統計は、がんが診断されてから死亡までを数えていることに注意してください。

がんを早く発見して有効な治療ができれば、もちろん死亡までは長くなります。しかし、がんを早く発見して治療が無効でも、やはり死亡までは長くなるのです。

つまり、診断技術が発達して、以前は発見できなかった小さいがんを発見できるようになると、以前の技術で発見できるようになるまでの時間が、診断から死亡までの時間に上乗せされます。その間に有効な治療をするのが早期発見の目的ですが、結果として有効な治療ができなかったとしても、5年相対生存率は高くなります。

 

早く発見しないほうがいいがんもある

最後に、早期がんの中には見つけすぎてはいけないものもあることを覚えておいてください。

早期前立腺がんは見つけすぎてはいけない

たとえば前立腺がんの5年相対生存率は97.5%と非常に高くなっています。

手術などの治療が有効な場合ももちろんあるのですが、もともと早期前立腺がんは「死ににくい」がんです。早期前立腺がん発見されても経過観察する、つまり手術などはせず放置して様子を見て、悪くなりそうな気配が出てきたら手を打つ、という戦略は合理的なことですし、実際に多くの病院で行われています。

そこで、前立腺がんをあまりに早く発見しようとして前立腺に針を刺す検査をしたり、発見された早期前立腺がんを手術で切り取ることは、わずかながら勃起障害排尿障害を引き起こす恐れがある分、かえって有害になる可能性があります。

早期前立腺がんはPSAという血液検査で非常に高率に発見できるのですが、PSAで見つけすぎてしまうと、無駄な検査、無駄な治療が有害に働きます。アメリカ予防医学専門委員会(USPSTF)前立腺がんPSA検査を誰にでも行うことは勧めないとしています。

 

早期乳がんは見つけすぎてはいけない

早期乳がんも見つけすぎてはいけないがんです。

女性の乳がんの5年相対生存率は91.1%とされています。乳がんの診断後の生存率が高い背景には、乳がんマンモグラフィーなどで非常に早期から発見できることが関わっています。

乳がんが見つかれば治療は手術で乳房を切り取ることですが、女性にとってとても大切な乳房を切り取るのは重大な決断です。ところが、早期乳がんを早く発見して手術することで乳がんによる死亡を防げるかは見解が割れているところです。

日本乳癌学会は「若年者で症状のない集団を対象としたマンモグラフィ検診は罹患率の低さと診断精度の低さから死亡率低減効果はほぼないことが予想され,不利益(コスト,偽陽性など)は確実に存在することから行うべきではない。」としています(強調は引用者)。

一方、マンモグラフィーは治療するべき乳がんを発見できるのも確かです。日本乳癌学会40歳以上の女性に対しては、程度の差こそあるものの、マンモグラフィーを勧めています。適した人が適度のマンモグラフィーを使えることが大事です。たとえばアメリカがん協会の推奨は以下です。

  • 40歳から44歳の女性は、希望すれば毎年マンモグラフィーを受けてもよい。
  • 45歳から54歳の女性は、毎年マンモグラフィーを受けるべき。
  • 55歳以上の女性は2年に1回、または希望すれば毎年のマンモグラフィーが勧められる。

気を付けたいのは、マンモグラフィーの問題は見逃しではなく見つけすぎであるという点です。たまに「超音波検査を使うとマンモグラフィーで見つからない乳がんが見つかった」とか「日本人女性にはマンモグラフィーが使いづらいデンスブレストが多い」といった報道が流れますが、結論を「もっと見つけなければ」という方向に誘導する議論は、いま世界中で問題になっている乳がんの見つけすぎに対して逆行します。

早期乳がんを見つけて手術することで悪い事態を防げるのか、という予測とセットでなければ、むやみに痛い検査をしたうえ乳房を切り取られたのに実は無駄だった、という事態を起こしかねません。

 

情報に溺れないために

がんと一口に言っても、細かく分ければ何百という種類のがんがあり、中には甲状腺未分化がんのようにきわめて難しいものも、早期前立腺がんのように「治療しない」という選択がありえるものもあります。

「がんになると死ぬか」「がん検診は受けたほうがいいか」と、がん全体をひとまとめに考えるのは危険です。

国立がん研究センターは「がん情報サービス」という非常に便利で信頼できるサイトを作っています。がんについて知りたいことはまず「がん情報サービス」で調べるのをおすすめします。

http://ganjoho.jp/public/index.html

ただ、中には専門用語もたくさん出てきます。数字もたくさん出てきます。落ち着いてじっくり意味を読み取らないと、思わぬ誤解をしてしまうかもしれません。

メドレー病気事典は、難しい医学の知識をわかりやすく説明し、知りたいことがすぐに出てくる事典を目指して更新を続けています。世の中には病気について間違った情報、証拠のない情報、大げさな情報があふれています。信頼できる情報だけを選び取り、正しく病気に向き合うために、ぜひメドレー病気事典を活用してください。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

日本のがん生存率の最新全国推計公表 全部位5年相対生存率62.1%(2006-2008年診断症例)

国立がん研究センタープレスリリース 2016年7月22日

http://www.ncc.go.jp/jp/information/press_release_20160722.html

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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