2015.07.07 | コラム

糖尿病、トカゲの毒でやっつける!?

糖尿病治療薬の進化と人類への警告(?)
糖尿病、トカゲの毒でやっつける!?の写真
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飽食といわれる現代を象徴する病気の一つといえるのが糖尿病です。日本においても予備軍を含めると国民の5人に1人は糖尿病であるといわれています。患者の増加と並ぶように次々と新しい治療薬が世に登場し、遂にはなんと"爬虫(はちゅう)類の毒"を元に薬を造ってしまったようで・・・。

◆ 糖尿病治療薬の開発とインクレチンの発見

糖尿病血糖値の高い状態が持続することで、腎臓、神経や眼などに合併症を引き起こす病気です。日本においても食生活の変化などに伴い近年急増している病気で、その治療薬も次々と開発されてきました。

体内で血糖値を下げる唯一のホルモンであるのが膵臓で作られるインスリンです。今までこのインスリンをどうにかして増やそうと(あるいはインスリンを効かせようと)色々な薬が開発されてきました。例えば、膵臓に働きインスリン分泌を促す薬、体内でのインスリンの効く効率を上げる薬、加工を施し製造したインスリンを直接体内に注射する薬など多種多彩です。

そんな中、インスリン分泌を促す体内の物質が解明され、その物質と同じ様な働きをする薬が登場したのです。

20世紀の後半、体内でインクレチンというホルモンが膵臓からのインスリン分泌に関わっていることがわかりました。詳しい機序は割愛しますが、このインクレチンは食事の摂取が合図となり体内で分泌され、インスリン分泌を促進します。つまり人工的に"インクレチンの様な物質"を造って体内に入れてあげれば食後でなくてもインスリン分泌が促され血糖値が下がるということです。この"インクレチンの様な物質"の一つがある爬虫類の毒から発見されたのです。

 

◆ 毒トカゲの毒から新しい糖尿病治療薬を開発!!

1980年代にアメリカ合衆国のジョン・イング(John Eng)という医師が、内分泌学者から「毒のある動物に噛まれると膵臓炎を起こす」という話を聞いて、とある毒トカゲの唾液や毒液を調べてみました。するとその中からインクレチンと似た構造の物質が見つかり、紆余曲折を経て糖尿病の治療薬として世界に発売されたのです。日本でもバイエッタという商品名で発売されています。

トカゲの毒というとなんだかイメージがよくないかもしれませんが、唾液や毒液の成分が元になったというだけで、この薬がトカゲの唾液や毒液を原料として造られている訳ではなく、人工的に合成して造られているのでご安心を。それでも中には毒トカゲの毒を元に薬をつくるとは…と思われる方もいらっしゃるかもしれません。でも世の中には"ちょっと変わった経緯"で自然界から発掘された薬というものが少なからず存在します。

筑波山の土壌を研究し誕生した免疫抑制薬(タクロリムス水和物)、ヒキガエルの分泌液を元にした心臓の働きを強くする生薬(センソ)など、一見"なんで??"と思う薬が臨床現場で大活躍していたりするのです。自然界にあるものが私たちの身体を治療したり(逆に毒にもなったり)するのも、人間がこの地球の自然無しでは生きていけないことを暗に示しているような気もします。

ちなみに今回のお話の中心になった毒トカゲですが、名前がヒーラモンスター(又はヒラモンスター)という世界に数少ない希少種であり、絶滅まで危惧されているそうです。糖尿病が大きな問題となる今の世界は飽食の時代ともいえますが、将来的に思わぬ危機や天変地異で人類の存続が危うくなることがないとも限りません。満ち足りた私たちが絶滅危惧種に救われているのはなんとも皮肉であり、私たちへの警告のようにも思えてきます…。

執筆者

中澤 巧

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。