2015.06.10 | ニュース

自閉症児のコミュニケーション能力、乗馬で向上?

自閉症スペクトラムの児童116人を対象に、乗馬療法の有無で無作為比較

from Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry

自閉症児のコミュニケーション能力、乗馬で向上?の写真

自閉症スペクトラムとは、幼少期から始まることの多い精神発達障害あり、有病率は約2,000人に1人と言われています。治療法は確立されていませんが、実際に行われている治療のひとつに「乗馬療法」というものがあります。今回の研究では、乗馬療法を行うことで、自閉症スペクトラムの子供のソーシャルスキルが改善した、という結果が出ました。

◆自閉症スペクトラムと、その治療「乗馬療法」とは

自閉症スペクトラムの診断基準に、「社会的相互関係やコミュニケーション能力の障害」、「一つの物事に執着する性質(常同性)」、「話し言葉の発達が欠如し、身振り手振りなどでも補うことができない」という項目があります。

乗馬療法においては、馬とコミュニケーションを取ることで、言葉がなくても馬の気持ちを読み取る練習をすることができ、また、自分の指示を馬に伝える際にもボディーランゲージを用いる練習ができます。さらに、全体として気持ちをリラックスさせる効果もあり、これらが乗馬療法が治療効果を発揮する理由と考えられています。

 

◆治療的乗馬 VS 農場での活動 でランダム化

筆者らは以下の方法で研究を行っています。

6歳から16歳の自閉症スペクトラムの患者127人を、非言語IQ85以上かIQ85以下かで階層化し、10週間の間、以下の2つのグループに無作為割付を行った。治療的乗馬による介入を行うグループと、乗馬はせずに似た方法で農場で遊ぶグループである。治療的乗馬を忠実に行えているかを観察した。参加者らは、治療介入前の1ヶ月以内と治療介入後の1ヵ月以内に、盲目化された評価者と盲目化されていない実際の治療者たちへのアンケートによって評価された。治療介入中は、実際の治療者は1週間おきに参加者の行動を評価した。

対象となった子供は乗馬療法を受けるグループと、農場で遊ぶグループににランダムに振り分けられました。どちらのグループも農場での活動を行いますが、乗馬をするかしないかというのを重要な点としています

効果は子供がどちらのグループに当たったかを知らされていない第三者と、実際に治療を行っている人から、アンケートで聞き出しました。アンケートに含まれるのは、社会的コミュニケーション能力や発語、ボディーランゲージなどのいわゆるソーシャルスキルと呼ばれる項目であり、治療前と治療介入中の評価値を両グループ間で比較しています。

 

◆乗馬療法を行ったグループで様々なソーシャルスキルが改善した

結果は以下の通りとなりました。

介入から5週間後の段階で、易刺激性(P=0.002、effect size[ES]=0.50)や過活動性(P=0.001、ES=0.53)などの項目において、乗馬グループにおいて有意に改善が見られた。社会的認識(P=0.05、ES=0.41)や社会的コミュニケーション(P=0.003、ES=0.63)においても有意な改善が見られた。標準化された言語サンプルにおける、全体での単語数(P=0.01、ES=0.54)、新規に獲得した単語数(P=0.01、ES=0.54)などでも優位に改善が見られた。[...]

以上のように、乗馬療法にて介入したグループでは、様々なソーシャルスキルの評価項目において、改善が見られました

もともと、乗馬療法による治療効果は様々な研究で示唆されていましたが、無作為比較試験という、より証明効果の強い研究で示されたのは、今回が初めてです。

乗馬療法の長期効果、薬物療法との相互作用はどうか、他の動物でもこれらは有効なのか、その他の評価項目(例えば常同性など)を改善することができる動物療法はないか、といった点など、今後の研究にも期待したいです。

執筆者

石田 渉

参考文献

Randomized Controlled Trial of Therapeutic Horseback Riding in Children and Adolescents With Autism Spectrum Disorder.

J Am Acad Child Adolesc Psychiatry. 2015 May 5

[PMID: 26088658 ]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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