2015.05.28 | ニュース

アルツハイマー病に鉄分が影響するのか?

脳脊髄液中のフェリチン測定から

from Nature communications

アルツハイマー病に鉄分が影響するのか?の写真

アルツハイマー病が進行するときに、脳に鉄分が多くなるという報告があります。しかし鉄分とアルツハイマー病に因果関係があるのかどうかはわかっていませんでした。新しい研究で、脳の周りにある鉄分の量を測った人を7年間追跡したところ、脳の鉄分が多い人はアルツハイマー病を低年齢で発症する傾向があったという結果が得られ、脳の鉄分がアルツハイマー病の原因に関わっている可能性が唱えられました。

◆脳脊髄液のフェリチンを計測

研究班は、鉄分とアルツハイマー病の因果関係を調べるため、脳の周りを満たしている脳脊髄液に含まれる「フェリチン」というタンパク質の量を測りました。

フェリチンは体の中で鉄を蓄えている物質で、フェリチンの量は鉄の量の目安になります。また、鉄を含むフェリチンは血液の中にも多く含まれていますが、血液と脳の細胞の間には物質の行き来を遮るしくみ(血液脳関門)があるため、血液中のフェリチンではなく、脳の周りにある脳脊髄液のフェリチンを測ったほうが、脳の状態が反映されると考えられます。

※以下、観察されているのは脳脊髄液であって、血液中の鉄分や、食事に含まれる鉄分については検討していないことにご注意ください。

調査開始時点で、対象者のうち91人は認知機能に異常なし、144人は軽度認知障害があり、67人はアルツハイマー病と診断されていました。対象者はその後7年間に認知機能の変化があるかを追跡されました。

 

◆フェリチンと認知機能、アルツハイマー病に関連あり

調査開始時点で、フェリチンが多い人ほど認知機能が低い傾向がありました。フェリチンの量は、アルツハイマー病の発症に関わると考えられている「ApoE」などの物質の量と関連していました。

時間とともに認知機能が変化するかどうかとフェリチンには関連が見られませんでした。調査開始時点に軽度認知障害があった人では、フェリチンが多いほどアルツハイマー病を低年齢で発症する傾向がありました。

研究班はこれらの結果から、「脳内に鉄分が増えることはアルツハイマー病の進行に悪い影響がある」と結論しています。

 

鉄分と認知機能の関係を示唆する結果が得られましたが、そこにどんなしくみがあるのかなど、アルツハイマー病の原因を解明するまでにはまだ多くの課題が残っています。この研究のようにさまざまな角度からの情報が加わることで、アルツハイマー病で起こる変化の全貌がしだいに明らかになることが望まれます。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Ferritin levels in the cerebrospinal fluid predict Alzheimer's disease outcomes and are regulated by APOE.

Nat Commun. 2015 May 19

[PMID: 25988319]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

▲ ページトップに戻る