低張電解質輸液(水・電解質輸液製剤)
水と電解質(イオン)を主成分とし、体液より電解質濃度が低く細胞内液を含む体全体に水分を補給でき、水分や電解質を含む輸液剤を点滴により補給することで体液のバランスを整え病態の治療効果を高められる輸液剤

低張電解質輸液(水・電解質輸液製剤)の解説

低張電解質輸液(水・電解質輸液製剤)の効果と作用機序

  • 水・電解質(イオン)を主な成分とし、細胞内を含め体全体に水分を補給できる輸液
    • なんらかの原因によって、体内の水分量や電解質濃度が崩れると生命活動が正常に維持できなくなる
    • 水分や電解質を含む輸液剤を点滴により補給することで体液のバランスを整え病態の治療効果を高められる
    • 本剤は体液より電解質濃度が低い輸液製剤で、細胞内液を含む体全体に水分を補給できる
  • 規格(1号〜4号)の違いは基本的に生理食塩液と糖液(5%ブドウ糖液)の割合の違い
    • 1号に近いほど生理食塩液の割合は多くナトリウムの補給効果が大きく、4号に近いほど糖液の割合が多く水分補給効果が大きい
    • 1〜4号それぞれの主な特徴(主な役割)に関して
      ・1号液(開始液):カリウムを含まず、病態不明時の安全性が考慮されていて、主に緊急時の水分・電解質補給に使用
      ・2号液(脱水補給液):細胞内に多いカリウムなどの電解質を含み、主に低カリウム血症や細胞内電解質が不足する脱水に使用
      ・3号液(維持液):水・電解質の1日の必要量がこの液の組成基準になっていて、主に経口摂取が不能又は不十分な状態の水分・電解質の補給と維持に使用
      ・4号液(術後回復液):電解質の濃度が低く水分補給を目的とし、主に腎機能低下(又は腎機能未熟)患者の術後に使用
  • 本剤には3号液(維持液)に比べて糖質を増やし末梢静脈からのエネルギー補給に適した高濃度糖加維持液もある

低張電解質輸液(水・電解質輸液製剤)の薬理作用

ヒトは水を飲んだり食事などから水分や電解質(イオン)を摂っていて、それとほぼ同等の量を体外に排泄することで体内バランスを保っている。このように体内の水分量や電解質の濃度を一定に保つことを「からだの恒常性(ホメオスタシス)」といって生命活動に不可欠なものになる。

なんらかの原因によってこの恒常性が崩れてしまった場合に、水分や電解質を含む輸液剤を点滴により補給することで、体内の水(体液)のバランスを整え病態の治療効果を高めることなどが期待できる。

本剤は輸液剤の中でも低張電解質輸液という種類に分類され、体液より電解質濃度が低い輸液製剤になる。(ブドウ糖の配合により浸透圧を等張にしてあるが、ブドウ糖は体内で代謝されると水になるため、結果として体液より浸透圧の低い液となる)

水は浸透圧の低い方から高い方へと移動するため、低張電解質輸液は細胞内液を含む体全体に水分を補給することができる。(一方で、電解質の浸透圧が体液とほぼ同じである等張電解質輸液は細胞内までは移動しない)

低張電解質輸液には、1〜4号液というように種類があり、基本的には生理食塩液と5%ブドウ糖液の割合の違いによって造られている。

1号に近づくほど生理食塩液の割合が多くナトリウムの補給効果が大きく、4号に近づくほど5%ブドウ糖液の割合が多く水分補給効果が大きくなる。(以下は主な特徴)

  • 1号液:開始液とも呼び、カリウム(K)を含まない(病態不明時ナトリウム・カリウム負荷に対する安全性を考慮)ため、主に緊急時などの水分・電解質補給の第一選択として用いられる
  • 2号液:脱水補給液とも呼び、細胞内に多いKやリン(P:血液中ではリン酸イオン〔HPO42ーなど〕)などの電解質を含むため、主に低カリウム血症や細胞内電解質が不足する脱水に用いられる
  • 3号液:維持液とも呼び、水分及び電解質の1日必要量がこの液の組成の基準になっていて、主に経口摂取不能又は不十分な状態における水分と電解質の補給・維持に用いられる 
  • 4号液:術後回復液とも呼び、電解質濃度が低く水分補給を目的とし、主に腎機能低下患者(または腎機能未熟な小児)や術後早期の患者などに用いられる

このほか、通常の3号液に比べて糖質を増やし末梢静脈からのエネルギー補給に適した高濃度糖加維持液や、これに糖代謝に関連するカルシウム(Ca2+)、マグネシウム(Mg2+)、リン(P)といった電解質を配合した製剤もある。

低張電解質輸液(水・電解質輸液製剤)の主な副作用や注意点

  • 浮腫
    • 本剤を主に大量・急速投与することで脳浮腫肺水腫、末梢の浮腫などがあらわれる可能性がある
    • 通常(緊急時を除き)急速投与を避け、患者の循環機能や腎機能輸液製剤の内容などに合わせて点滴投与されるが注意は必要
  • カリウムを含む製剤に関する注意
    • 大量・急速投与することで高カリウム血症があらわれる可能性があるため輸液濃度、投与速度、投与量などを十分に守って投与する
    • 腎機能不全、腎機能障害、抗アルドステロン薬(エプレレノンなど)、ACE阻害薬、ARBの使用時などは高カリウム血症により注意が必要

低張電解質輸液(水・電解質輸液製剤)の一般的な商品とその特徴

ソリタ-T輸液、YDソリタ-T輸液

  • 「YDソリタ-T輸液」は「ソリタ-T輸液」のオーソライズドジェネリック(先発メーカーが認定して製造したジェネリックで原薬、添加物及び製法等が同じ)
  • 1~4号がそれぞれ、1号液~4号液に相当
  • ソリタ-T3号G輸液(YDソリタ-T3号G輸液)について
    • 高濃度糖加維持液
    • 名称のGはGlucose(ブドウ糖)に由来し、ソリタ-T輸液3号に比べて糖(ブドウ糖)濃度が7.5%と高い

ソルデム

  • 各製剤について
    • ソルデム1輸液:1号液に相当
    • ソルデム2輸液:2号液に相当
    • ソルデム3輸液:3号液に相当
    • ソルデム3A輸液:3号液に相当し「ソルデム3輸液」に比べ、糖濃度が高く、ナトリウム及びクロールの電解質濃度が低い
    • ソルデム3AG輸液:3号液に相当し「ソルデム3A輸液」に比べ、糖濃度が高い(G:Glucose〔ブドウ糖〕を示す)
    • ソルデム3PG輸液:3号液に相当し「ソルデム3AG輸液」に比べ、糖濃度やナトリウム、カリウム及びクロールの電解質濃度が高く、リン(P:Phosphate)が加えられている
    • ソルデム6輸液:「4号」液に相当

KN1〜4号輸液、KNMG3号輸液

  • KN1号輸液、KN2号輸液、KN3号輸液、KN4号輸液について
    • 1〜4号がそれぞれ、1号液〜4号液に相当
    • 名称のKNは体液の主な電解質のK(カリウム)、Na(ナトリウム)に由来
  • KNMG3号輸液(KN補液MG3号)について
    • 3号液の中でも高濃度糖加維持液に相当し「KN3号輸液」に比べ糖濃度が高い
    • 名称のMGは高いブドウ糖濃度(10%)を含むことによるMuch Glucoseに由来

フィジオ35輸液、フィジオ70輸液

  • 低張電解質輸液には、フィジオ35輸液とフィジオ70輸液が含まれる(フィジオ140輸液は細胞外液補充液〔等張電解質輸液〕)
  • フィジオ35輸液について
    • 高濃度糖加維持液(ブドウ糖を10%配合)
    • フィジオゾール3号輸液の基本組成をもとにエネルギー代謝に重要な電解質を配合した製剤
      ・エネルギー代謝に重要なカルシウムとリンを含む
    • アルカリ化剤として酢酸ナトリウムを配合
  • フィジオ70輸液について
    • 術中電解質輸液
    • ナトリウム配合量が細胞外液の約1/2(70mEq/L)
      ・ナトリウムの体内貯留が軽減される
      ・高ナトリウム負荷による心不全浮腫脱水症などの懸念を軽減
    • ブドウ糖濃度が2.5%で血糖値の過度な上昇を抑制
    • アルカリ化剤として酢酸ナトリウムを配合

トリフリード

  • 高濃度糖加維持液
    • 糖質としてブドウ糖、果糖、キシリトールをそれぞれ4:2:1の比率で配合
      ・ブドウ糖が相対的に減量されているため血糖値の過度な上昇が軽減される
    • 電解質としてナトリウム、クロール、カリウムの他、糖代謝に関連するカルシウム、マグネシウム、リンを含む
    • 微量元素の亜鉛も含み、微量元素の欠乏症の中でも比較的早期にあらわれる亜鉛欠乏症(皮膚障害、味覚障害など)の改善も期待できる