分子標的薬(トラスツズマブ エムタンシン〔抗HER2抗体チューブリン重合阻害薬複合体〕)
がん細胞の増殖に必要なHER2という物質に結合し、抗体依存性細胞障害作用(ADCC)及び細胞増殖のシグナル伝達抑制作用、細胞分裂の周期停止及び細胞の自滅(アポトーシス)を誘導する作用などにより抗腫瘍効果をあらわす薬
同義語:
抗HER2抗体チューブリン重合阻害剤複合体

分子標的薬(トラスツズマブ エムタンシン〔抗HER2抗体チューブリン重合阻害薬複合体〕)の解説

分子標的薬(トラスツズマブ エムタンシン〔抗HER2抗体チューブリン重合阻害薬複合体〕)の効果と作用機序

  • がん細胞の増殖に必要なHER2という物質の働きを抑えたり、細胞分裂を阻害し自滅を誘導する作用などにより抗腫瘍効果をあらわす薬
    • がん細胞は無秩序な増殖を繰り返したり転移を行うことで、正常な細胞を障害し組織を壊す
    • 上皮成長因子受容体(EGFR)という細胞増殖のシグナル伝達に重要な物質がある
    • EGFRに類似した構造をもつ物質の中でもHER2は乳がんなどにおいて過剰に発現している場合がある
    • 本剤はHER2への作用による抗体依存性細胞障害作用及び細胞増殖シグナル伝達抑制作用に加え、細胞障害活性作用などをあらわす
  • 本剤はがん細胞の増殖などに関わる特定分子の情報伝達を阻害することで抗腫瘍効果をあらわす分子標的薬となる

分子標的薬(トラスツズマブ エムタンシン〔抗HER2抗体チューブリン重合阻害薬複合体〕)の薬理作用

がん細胞は無秩序な増殖を繰り返し正常な細胞を障害し、転移を行うことで本来がんのかたまりがない組織でも増殖する。

細胞表面では上成長因子受容体(EGFR:ErbB1)という細胞増殖のシグナル伝達を行う上で重要なチロシンキナーゼ活性を持つ物質がある。EGFRを含むErbBファミリー(EGFRと類似した構造をもつ物質)の中にHER2があり、乳がんなどで過剰に発現している場合がある。

細胞増殖は細胞が分裂することによっておこるが、細胞分裂には微小管という物質が必要で主にチューブリンというタンパク質が重合して構成される。

本剤は細胞表面のHER2に結合することで、NK細胞などを作用細胞とした抗体依存性細胞障害作用(ADCC)やHER2に結合することで細胞増殖のシグナル伝達を抑えて細胞増殖を抑制するトラスツズマブに加え、HER2に結合し細胞に取り込まれた後で細胞分裂におけるチューブリン重合阻害による細胞障害活性作用をあらわすエムタンシン(DM1)により抗腫瘍効果をあらわす。本剤は主にHER2の過剰発現がある手術不能又は再発の乳がんで、トラスツズマブ及びタキサン系抗がん薬の治療歴がある場合などの治療の選択肢となっている。

尚、特定物質に結合する抗体として造られたモノクロナール抗体を含む抗体薬物複合体の製剤であり、がん細胞の増殖に関わる特定分子の情報伝達を阻害することで抗腫瘍効果をあらわす分子標的薬となる。

分子標的薬(トラスツズマブ エムタンシン〔抗HER2抗体チューブリン重合阻害薬複合体〕)の主な副作用や注意点

  • インフュージョンリアクション(薬剤投与による免疫反応などによりおこる有害事象)
    • 発熱、悪寒、吐き気・嘔吐、頭痛、掻痒、発疹、発汗、倦怠感などがあらわれる場合がある
  • 消化器症状
    • 吐き気、便秘、吐き気・嘔吐、口内乾燥、腹痛などがあらわれる場合がある
  • 心障害
    • うっ血性心不全などの心障害があらわれる場合があり特に注意が必要となる
  • 間質性肺炎
    • 呼吸困難、咳嗽、疲労、肺浸潤などの症状を伴う間質性肺炎があらわれる場合があるため注意する
  • 肝機能障害
    • AST、ALTなどの増加に伴う肝機能障害があらわれる場合がある
    • 倦怠感、食欲不振、発熱、黄疸発疹、吐き気・嘔吐、痒みなどがみられ症状が持続する場合は放置せず、医師や薬剤師に連絡する
  • 血小板減少
    • 血小板減少症があらわれる場合があり、出血(鼻出血血尿など)には特に注意する

分子標的薬(トラスツズマブ エムタンシン〔抗HER2抗体チューブリン重合阻害薬複合体〕)の一般的な商品とその特徴

カドサイラ

  • トラスツズマブと結合させることで強い細胞障害性をもつエムタンシンを腫瘍細胞に選択的に送り込むことが可能となった製剤
    • 重篤な心障害の予防のため、投与前のエコーなどによる心機能の確認が特に重要となる