2017.05.19 | ニュース

HIVが犯罪に?法律があるアメリカの州で感染拡大は防げたのか

2010年までの統計から

from AIDS (London, England)

HIVが犯罪に?法律があるアメリカの州で感染拡大は防げたのかの写真

アメリカの一部の州では、HIVに感染していることを知りながらパートナーに知らせないなどの行為を犯罪とする法律があります。こうした法律がHIV感染やエイズの予防に役立っているかが検証されました。

アメリカの疾病管理予防センター(CDC)などの研究班が、HIVに関して犯罪とすることを決めた法律と、HIV感染またはエイズの診断の統計的関連を調べ、専門誌『AIDS』に報告しました。

研究班は、アメリカの各州で記録されているHIV感染とエイズの統計データを2010年までの範囲で参照して、統計解析を行いました。

 

次の結果が得られました。

研究期間の終了時点で30州がHIV曝露を犯罪とする法律を持っていた。

最終のモデルでは、受けた教育が高校未満の成人の割合、都市部に済む人口の割合が、経時的にHIVとAIDSの診断と関連した。曝露を犯罪とする法律は診断率と関連がなかった。

HIVを感染させる恐れがあるとされた行為を犯罪と決めた法律は30州にありました。高校未満の教育しか受けていない成人が多い地域、都市部に済む人が多い地域で、HIV感染またはエイズが多い傾向がありました。法律は統計的に関連が見られませんでした

研究班は「[...]このことから、これらの法律はHIVを予防するために検出できるほどの効果がなかったことが示唆される」と結論しています。

 

HIVに感染した人は長期の治療などの負担が必要になります。治療しなければエイズが発病する恐れがあります。エイズは体の免疫システムが弱くなり、普通の人なら排除できるはずの病原体が肺炎などさまざまな感染症を起こすようになっている状態です。また悪性腫瘍や認知機能障害の症状を引き起こすこともあります。

ほかの人に感染を広げないために、感染している人が十分注意しなければならないのは当然のことです。しかし、病気で苦しんでいる人が間違ったことをすれば犯罪として扱うことが、社会のありかたとして正しいことでしょうか。

紹介した研究では、法律で犯罪としてもHIV感染やエイズの予防には効果がなかったという結果でした。感染している人が気を付けるのは当然のことですが、犯罪として取り締まろうとするとかえって感染を隠し通そうとする行動を促す場面があるかもしれません。

似た例として、アフリカのナイジェリアでは2014年に同性婚を禁止する法律が施行されましたが、以後「医療を求めることに恐怖を感じたことがある」と答える男性が増えました。

関連記事:同性婚を禁じるとHIV治療に悪影響か

HIV感染に対する治療は現在大きく発展し、適切な治療を続ければ感染していてもエイズが発症しない状態を維持できるようになりました。HIVに感染した状態で長年過ごす人の生活を守ることも重視されるようになっています。

社会全体として病気による被害を最小限に抑えるには、法律で決めれば人をコントロールできるはずという単純な考えではなく、実際に効果があるかどうかを確かめながら対策を進めていくことが大切なのではないでしょうか。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Association of HIV diagnosis rates and laws criminalizing HIV exposure in the United States.

AIDS. 2017 Apr 10. [Epub ahead of print]

[PMID: 28398957]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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