骨盤臓器脱に対する手術の研究
イギリスの研究班が、骨盤臓器脱の治療法の効果と副作用(合併症)を調べた研究を、医学誌『Lancet』に報告しました。
この報告では対象者を、研究に参加した患者のうち、はじめて骨盤臓器脱の手術(前方骨盤臓器脱修復または後方骨盤臓器脱修復)を受けた人としました。
手術の方法による結果の違いが検討されました。
手術の方法として2種類の比較が行われています。
- 従来の手術とメッシュ手術の比較
- 従来の手術とグラフト手術の比較
それぞれの比較のため、参加者がランダムにグループ分けされ、手術法によって1年後と2年後の結果を比較されました。
効果を判定するために、症状の重さのスコア(POP-SS)と、骨盤臓器脱の症状に関連する生活の質(QOL)のスコアを、参加者の自己申告に基づいて評価しました。
合併症および元々の症状の悪化などを含め、望ましくない結果(有害事象)も集計しました。
骨盤臓器脱の手術とは?
骨盤臓器脱は、主に加齢などの原因で骨盤の組織が弱くなり、内臓を支えきれなくなることで起こります。治療法には、手術をしないでペッサリー(膣から挿入して子宮の入り口に取り付ける器具)を取りつける方法などもあります。
重症の場合などで手術が行われます。手術にともなって起こる問題(合併症)と治療効果のバランスを考えて治療法が選択されます。
従来の手術は、弱った組織を補強する「縫縮(ほうしゅく)」というものです。従来の手術では骨盤の中に人工物は残しません。
メッシュ手術は、網状の素材(メッシュ)を骨盤の中に入れて臓器を支える手術です。メッシュはポリプロピレンなどで作られています。メッシュを入れることで、従来手術よりも治療した場所を補強し、再手術が必要になる事態を予防するなどの狙いがあります。
グラフト手術は、メッシュではなく生物由来の素材(グラフト)を使って組織を支える手術です。
この研究では、メッシュ手術にはポリプロピレン製のメッシュを、グラフト手術には豚コラーゲン、豚小腸粘膜下組織、牛真皮組織のいずれかを使いました。
メッシュ・グラフトともに標準治療と差がない
2種類の比較で、グループごとの平均年齢は58.9歳から59.8歳でした。
従来の手術とメッシュ手術の比較で次の結果が得られました。
治療法 | 標準治療 | メッシュ |
1年後POP-SS | 5.4 | 5.5 |
1年後骨盤臓器脱関連QOLスコア | 2.0 | 2.2 |
1年後の深刻な有害事象の頻度 | 7% | 8% |
2年後POP-SS | 4.9 | 5.3 |
2年後骨盤臓器脱関連QOLスコア | 1.9 | 2.2 |
上記の症状の重さや生活の質については、統計的な差がありませんでした。
従来の手術とグラフト手術の比較では次の結果でした。
治療法 | 標準治療 | グラフト |
1年後POP-SS | 5.5 | 5.6 |
1年後骨盤臓器脱関連QOLスコア | 2.2 | 2.4 |
1年後の深刻な有害事象の頻度 | 6% | 10% |
2年後POP-SS | 4.9 | 5.5 |
2年後骨盤臓器脱関連QOLスコア | 2.0 | 2.2 |
どの評価項目でも、統計的な差がありませんでした。
メッシュ手術を受けた女性では、434人中51人(12%)が2年のうちにメッシュによる合併症を経験していました。
そのメッシュは本当に必要?
メッシュ手術でも、グラフト手術でも、従来の手術と比べて生活の質などに違いが見られない結果となりました。
メッシュ手術には利点もある一方で、合併症としては再手術や尿が出なくなる症状(尿閉)などが知られています。アメリカ食品医薬品局(FDA)は「骨盤臓器脱のメッシュによる経腟修復が伝統的なメッシュ以外の修復法よりも有効かどうかは明らかでない」という見解を示しています。
どのような場合にメッシュ手術が適しているかを判断するには、ここで検討されたのとは別の面でメッシュの利点を評価する必要があるかもしれません。
執筆者
Mesh, graft, or standard repair for women having primary transvaginal anterior or posterior compartment prolapse surgery: two parallel-group, multicentre, randomised, controlled trials (PROSPECT).
Lancet. 2016 Dec 20.
[PMID: 28010989] http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(16)31596-3/fulltext※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。