2023.03.07 | コラム

サル痘の感染はどのようにして対策したらよいのか?

サル痘の感染経路と感染対策:正しい知識を身につけ、正しく恐れる

サル痘の感染はどのようにして対策したらよいのか?の写真

サル痘は2022年以降に欧州を中心に世界的な流行を起こし、2023年3月時点で約8万6千人にまで感染者が増加しています[1]。世界と比較すると国内では現在感染者は多くはありませんが、渡航制限の緩和により、今後海外から入ってくるケースが増える可能性があります(詳しくは「世界中で感染拡大しているサル痘とは? 日本でも今後流行するのか?」)。さらに、2023年1月以降に、日本国内で感染する報告が少しずつ目立ってきています。

では、サル痘はどのようにして感染していくのでしょうか。本コラムでは、サル痘の感染経路について解説を行い、予備知識として知っておきたい具体的な感染対策について考えていきます。

 

現在のサル痘の主な感染経路は、性交渉時の皮膚・粘膜接触である

これまでのサル痘の主な感染経路は、感染したリスなどのげっ歯類といった動物との接触によるものでした。具体的には、感染した動物に噛まれたり、血液や皮膚病変(発疹)に触れたりすることです。ヒトからヒトへの飛沫感染や接触感染も報告されていたものの、まれでした。

しかしながら、今回のサル痘の流行では様相が異なり、動物からヒトへの感染はほとんど報告されておらず、主にヒトからヒトへの感染で感染が拡大しています。それでは、具体的には、どのような感染経路が報告されているのでしょうか。WHOの報告によると、報告された感染経路のうち、最も多く報告されたのは68.8%(15,196 / 22,092 例)で性交渉時の皮膚・粘膜接触でした。さらに67.9%(3,720 / 5,476 例)が性的接触のあるパーティーでの感染が疑われることも分かりました[1]。

このように性交渉で感染拡大する大きな理由が2つあります。1つめは、サル痘ウイルスは発疹から最も多く体外に排出されていることです。ウイルスの多く存在する皮膚や粘膜同士が直接触れる状況で感染が起こりやすくなります。2つめは、サル痘患者の精液にも感染力があるサル痘ウイルスが含まれるということです。これらの理由のため、現在のサル痘の主な感染経路は、性交渉時皮膚・粘膜接触になり、症状も性交渉で接触を起こす性器・肛門周囲・口腔内の粘膜の発疹が目立っています。

 

サル痘にかからないための主な対策は接触感染対策である

今回の流行では、主に性交時の接触で感染が拡大しています。しかし、接触を原因とした性感染症とは異なる部分が懸念されており、その他の経路として、感染した人の飛沫を浴びることで感染する事例も報告されています(飛沫感染)。

感染症の感染経路には、接触感染と飛沫感染以外に、空気によって感染する空気感染があります。実際にサル痘が空気感染を起こす事例は確認されていませんが、イギリスからサル痘の空気感染を示唆する研究結果も報告されました[2]。

この研究では、サル痘患者の隔離病室で寝具交換前と交換中の病室の空気を採取し、PCR検査を行った結果から空気感染の可能性を指摘しています。具体的には4例中3例で、空気中から複製能力のあるウイルスが検出されました。これはサル痘ウイルスが空気中に浮遊しうることを示唆しています。

このように飛沫感染や空気感染の可能性はあるものの、現状としては性交渉による接触感染対策に重点をおいて、下記のようなことに気をつけると良いと考えられます(日常的な空気感染対策は現時点では不要です)。

 

  • 不特定多数との性交渉を避ける
    • 世界中で感染拡大しており、症状が分かりにくい感染者も多いため、性交渉を避けることが一番の対策になります
  • 性交渉を行う場合は、お互いの体調を確認し、なるべくコンドームを使用する
    • コンドームによって完全に予防できるわけではないですが、一定の予防効果が期待されます
  • もしもサル痘を発症してしまったら、発症中は他人の肌や顔との接触、性的接触を控える
  • さらに、症状が消失した後も、すべての皮疹が消失してから原則8週間、性的接触を控え、感染伝播のリスク回避に心がける

 

サル痘にかかってしまった時の感染対策は?

それでは、サル痘かもしれない症状があらわれた場合、サル痘への感染が確定した場合は具体的にはどのようにして対策したらよいのでしょうか。国立感染症研究所と国立国際医療研究センターから「サル痘患者とサル痘疑い例への感染予防策」が公開され、表1に示すような具体的な感染対策が提示されています[3]。

 

表1:サル痘感染者やサル痘感染が疑わしい人が周りへ感染を広げないための対策

【医療機関で行う対策】

  • サル痘が空気感染を起こすのかどうかは議論の余地があるが、発疹や水ぶくれなどの症状が似ていて空気感染を起こす麻疹や水痘などの感染症との区別が困難である。そのため、水痘や麻疹が否定できない間は空気感染予防策の実施が求められる。
  • 医療従事者が患者に接する場合(検体採取時含む)は、N95マスク、手袋、ガウン、眼の防護具を着用する。患者のリネン類を扱う人や清掃担当の人も同様の対応をする。
  • 患者は換気良好な部屋に収容する。
  • 患者が滞在した環境は通常どおり清掃を行い、その後消毒(エンベロープウイルスに対して強い消毒効果を発揮する薬剤(消毒用エタノール等)を用いる)を行う。
  • 廃棄物は感染性廃棄物として扱う。

 

【患者やその同居人が行う対策】

  • サル痘感染者や感染が疑わしい人は、可能な限りサージカルマスクを着用し、発疹(水ほうを含む)はガーゼなどで覆うようにする。
  • 患者は同居人と肌や顔を接しないようにし、リネン類の共有を避ける。
  • 患者が使用したリネン類に感染力のあるサル痘ウイルスが含まれている可能性があるので、不用意に振り回したりしない。運ぶ際には静かにビニール袋等に入れ、洗濯機に入れる。洗濯した後は再利用できる。
  • ベッド、トイレ、患者が接触した場所(家具や床など)は、使い捨て手袋を着用して清掃し、その後消毒用エタノールなどの消毒薬で拭く。清掃や消毒後は手指衛生を行う。
  • 患者が使用した食器や調理器具は使い回さない。石鹸や洗剤等で洗った後に再利用ができる。
  • 常に十分な換気を行うよう配慮する。
  • 全ての発疹が痂皮(かさぶたの状態)となり、全ての痂皮が剥がれ落ちてなくなるまで(概ね21日間程度)は上記の感染対策を継続する。

文献3を参考に作成

 

本コラムで解説したように、サル痘には飛沫感染や空気感染の可能性がありますが、主な感染経路は性交渉時の接触になります。そのため、主な感染対策は接触感染対策になります。

その他の感染対策として、実はサル痘には有効なワクチンが存在します。天然痘に対するワクチンが有効で、こちらを接種するという選択肢があります。しかし、天然痘ワクチンはサル痘に対する適応が承認されましたが、一般流通していないこと、更なる知見の収集を推進する観点から、2023年3月6日時点で、日本では誰もが天然痘ワクチンを接種でき受けられるわけではありません。サル痘の患者と性交渉時の皮膚・粘膜接触があるなどの、接触して14日以内に研究に参加する形でのみ接種が可能です[4]。

サル痘に対する天然痘ワクチンについては、今後のコラムで解説します。

 

おわりに

幸いにも2023年3月6日時点で、世界におけるサル痘の感染者数は減少傾向ですが、日本では、2023年1月以降に感染例の報告が増加しています(19/27例が2023年1月以降に報告)[4]。今後もコラムを通じてサル痘について解説していきますので、正しい知識を身につけ、正しく恐れましょう。

 

【サル痘関連コラム】
1. 世界中で感染拡大しているサル痘とは? 日本でも今後流行するのか?
2. (本記事)サル痘の感染はどのようにして対策したらよいのか?

 

参考文献

1. WHO. Multi-country outbreak of monkeypox, External situation Report 17, published 2 March 2023. (2023年3月6日閲覧)

2. Gould S, Atkinson B, Onianwa O, Spencer A, Furneaux J, Grieves J, Taylor C, Milligan I, Bennett A, Fletcher T, Dunning J; NHS England Airborne High Consequence Infectious Diseases Network. Air and surface sampling for monkeypox virus in a UK hospital: an observational study. Lancet Microbe. 2022 Dec;3(12):e904-e911. doi: 10.1016/S2666-5247(22)00257-9. Epub 2022 Oct 7. PMID: 36215984; PMCID: PMC9546519.

3. 国立感染症研究所. サル痘患者とサル痘疑い例への感染予防策. (2023年3月6日閲覧)

4. 厚生労働省. サル痘について. (2023年3月6日閲覧)

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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