2021.02.02 | コラム

欧州サッカー翌日は交通事故に御用心!?

人気チームの試合後は寝不足により、東アジアでの交通事故が増えると報告されました

欧州サッカー翌日は交通事故に御用心!?の写真

欧州サッカーの好カード翌日は、東アジアで寝不足の人が増えて交通事故も増えるのでは?

こんな素朴な疑問に対する答えが昨年末、イギリス医師会雑誌(BMJ)に発表されました。(Yam KC, et al. BMJ. 2020; 371: m4465.

BMJは世界で最も権威ある医学雑誌の一つです。普段は至ってマジメな医学誌ですが、毎年12月のクリスマス号では遊び心ある研究を特集しています。このコラムでも以前に「ポケモンGOで平均BMI27のアメリカ人が1日955歩アップ」という記事を紹介しました。

今回は、時差のために夜中に欧州サッカーを観ていて、つい寝不足になりがちなアジア人をテーマとした論文を、2020年のBMJクリスマス号からご紹介します。シンガポール大学に在籍する筆者らが、欧州サッカーの日程と交通事故発生率について関係を調べました。

 

1. サッカー王国と東アジアの時差は大きい

人気のサッカーリーグといえば、まず欧州のものを思い浮かべる人は多いと思います。プレミアリーグ、リーガ・エスパニョーラ、セリエA、ブンデスリーガ、リーグ・アンは5大リーグと呼ばれ、欧州の垣根を超えて世界中にファンがいます。しかし、日本など東アジアから生中継を観ようとすると、8-9時間の時差のせいで深夜から未明になってしまうことがよくあります。

このようにスポーツ観戦に夢中になって寝不足になってしまった経験がある人は多いかもしれません。しかし、寝不足での自動車運転は重大な事故につながることがあります。そこで、筆者らは欧州サッカーの人気カードと交通事故がどの程度関連するのかを調べました。

 

2. 大規模データで欧州サッカーと東アジアの交通事故を解析

筆者らは4万1538件のシンガポールで起きたタクシー事故と、181万4320件の台湾で起きた交通事故のデータ、および2012-2018年に行われた1万2788件の欧州サッカーのデータを解析しました。欧州サッカーは上述の5大リーグ、チャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグを対象としました。

試合が好カードかどうかの指標としては視聴率データが最適と考えられましたが、全試合の視聴率データを収集することはできませんでした。そのため、対戦するクラブチームの平均市場価値を注目度の指標として用いました。

例えば2018年のデータでは、FCバルセロナは12億8000万ユーロ、セビージャFCは2億9500万ユーロだそうです。なので、両チームの対戦試合はこれらの平均である約7.9億ユーロに相当する注目度と計算します。こうして、ある日に行われた各試合の平均市場価値を算出しました。

 

3. 好カードの翌昼に交通事故が増加

上述のようにして計算したところ、欧州サッカーがある日では全試合の平均市場価値は1日あたり3億759万ユーロでした。そして各日での平均市場価値と、事故発生件数の関係を調べました。

そうすると、前夜の試合の平均市場価値が1億3474万ユーロ増加するごとに翌日シンガポールでタクシー事故が1件増え、799万ユーロ増加するごとに翌日台湾での全交通事故が1件増えるという結果でした。これから逆算すると、欧州サッカー翌日にはシンガポールでタクシー事故が平均2.3件増え、台湾での全交通事故が平均38.5件増える計算になります。

好カードと事故数の関連は、天候、季節、平日/休日、地域、運転者の特徴などによらず確認されました。また、事故の増加は夜よりも日中の方が目立ち、試合を観て脇見運転するなどではなく、寝不足が事故に繋がっていると考えられました。

 

4. 日本や東アジア全体での影響は大きい

研究結果から、欧州サッカーによりそれなりの頻度で交通事故が増加しており、睡眠不足が事故原因の可能性が高そうと分かりました。「欧州サッカーの影響で台湾で1日38.5件の交通事故増加」というだけでも少なくはないように感じます。

台湾の人口は2400万人で、シンガポールは570万人です。視野を広げて、日本を含めた東アジア全体で考えるともっと大きい影響があると言えそうです。

 

5. 最後に

欧州サッカーと交通事故に関する一風変わった論文を紹介しました。コロナ禍でも娯楽や希望を与えてくれるサッカーですが、寝不足には注意したいものです。

今後も2月17日(水)午前5時キックオフのチャンピオンズリーグ:FCバルセロナ vs パリ・サンジェルマンFC など、好カードが楽しめるサッカーシーズンが続きます。

翌日に自動車を運転する必要がある人は、工夫して睡眠時間を確保したり、録画で我慢するなどして、くれぐれも交通事故にはご注意ください。

 

 

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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