2019.06.25 | コラム

"偽”痛風ってどんな病気?

お年寄りで熱が出たり関節が腫れたりした場合は偽痛風かもしれません

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偽痛風(ぎつうふう)という病気を知っていますか?

「偽物の痛風」とはなんだか不思議な名前ですが、痛風と似た症状があらわれることがあり、このような名前がつけられています。このコラムではそんな"偽"痛風がどんな病気であるか解説していきます。

1. そもそも痛風ってどんな病気?

偽痛風についてお話しする前に、痛風がどのような病気であるか説明したいと思います。

痛風は血液中に含まれる「尿酸」が関節で結晶を作り、関節で炎症が起こる病気です。具体的には、足の親指の付け根などが突然激しく痛む症状が有名です。これを「痛風発作」といいます。また、痛みだけでなく、関節が赤く腫れたり、熱をもったりすることもあります。病気の名前は「風があたっても痛い」からきていると言われており、この由来を聞いただけでも症状の辛さが伝わってきます。

痛風の原因である尿酸の結晶は血液検査で尿酸値が高い人(高尿酸血症の人)にできやすいです。そのため、痛風発作を繰り返している場合には、発作を予防するために高尿酸血症の治療が勧められます。

 

2. 偽痛風と痛風は何が違うか

これに対し偽痛風は「ピロリン酸カルシウム」という物質が関節で結晶を作ることで炎症を起こす病気です。物質は異なりますが、異常な物質が関節で悪さをする点では痛風と共通しています。その結果、偽痛風も痛風と同じように関節が痛くなったり、腫れたりします。ただし、発症しやすい年齢や症状のみられやすい部位などいくつか異なる点があります。

 

【偽痛風と痛風の相違点】

病名 かかりやすい年齢(1, 2) 症状の出やすい部位 原因となる物質
痛風 30-60歳 足の親指の付け根、足首 尿酸
偽痛風 50歳以上 膝、手首、肩、首 ピロリン酸カルシウム

 

偽痛風は50歳以下で起こることは比較的珍しいと言われています(2)。これはピロリン酸カルシウムが年を重ねるにつれ関節内にたまりやすいことと関連しています。

また、関節症状だけでなく発熱することもあり、体温が38℃を超えるようなことも珍しくありません

 

3. 偽痛風はどのように診断するか

偽痛風の原因物質であるピロリン酸カルシウムが関節内に存在しているかどうかを調べることは、偽痛風の診断の手がかりになります。偽痛風が疑われた人は、腫れている関節にたまっている水(関節液)を注射針で抜いて、その中にピロリン酸カルシウムが含まれているか調べます。もし、ピロリン酸カルシウムが含まれていれば、偽痛風である可能性が高まります。ただし、状況によっては関節液の検査が難しい場合もあります。例えば、関節にたまっている水の量が少なかったり、安静が保てなかったりして関節液を抜くことが難しい場合が挙げられます。このようなときには関節液の検査の代わりにレントゲン検査、CT検査、超音波検査などを行い、関節にどういった変化が見られているかを画像で確認し、総合的に診断します。

 

感染症にかかっていないかの確認が重要

加えて、症状が似た他の病気との見極めを行うことも偽痛風の診断を行う際に大事なポイントです。特に見極めが重要なものに感染症があります。偽痛風になりやすいお年寄りでは、感染症にかかっても症状がはっきりしないことがあります。関節に起こる感染症は診断・治療が遅れると命に関わることがある病気です。そのため、血液検査や培養検査なども組み合わせて、感染症の可能性がないかをしっかり確認していきます。

 

そしてもう一つ、他の病気との見極めが大事な理由として偽痛風の治療と関係したものがあります。それについては、次の治療の項目で説明します。

 

4. 偽痛風の治療内容とは

実際に偽痛風と診断された人には熱や関節症状を和らげるための治療が行われます。偽痛風の治療は非薬物療法(薬以外による治療法)と薬物療法(薬による治療法)を組み合わせて行います。

 

【主な非薬物療法】

  • 安静にして関節にかかる負担を減らす
  • 腫れている関節を冷やして(アイシング)炎症を取る

 

【主な薬物療法】

 

これらの薬剤には熱を下げる作用や関節の痛みや腫れを改善させる効果があります。

 

症状を和らげることによって病気の原因が見えなくなってしまうことも

ここで注意しなくてはいけないのが、上記の薬剤を使用すると、偽痛風以外の病気による熱や関節痛も抑えてしまうという点です。症状の原因が他の病気であった場合、症状が和らぐことで診断が遅れてしまい、本来必要であった治療が後手に回ってしまうことがあります。そのため、治療を開始する前には、症状が似た他の病気の除外と偽痛風の診断を慎重に進めていく必要があります。

 

偽痛風はお年寄りに多い病気で、今後日本社会の高齢化に伴い患者数が増えていくと予想されます。あまり聞きなれない病気かもしれませんが、熱が続いたり関節の腫れを自覚した場合には医療機関に相談してみてください。

 

参考文献

(1)高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第2版

(2)EULAR recommendations for calcium pyrophosphate crystal associated arthritis. Part I: Terminology and diagnosis.

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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