1. 過活動膀胱とは?
膀胱は排尿前の尿を一時的に溜めておく袋状の臓器です。ある程度の量の尿が膀胱に溜まると、脳が感知して尿意を催します。
通常であれば、尿意を覚えてからも排尿を我慢する余裕があるので、トイレに行って準備が整ってから、自分のタイミングで排尿を始めることができます。このとき、脳から排尿を促す司令が出ることによって、膀胱が縮んで尿が出ます。
しかし、過活動膀胱では脳の司令とは関係なく不必要に膀胱の収縮が活発化しているために、自分の意思では抑えきれないほどの尿意を覚えます。また、症状が急に見られることに困っている人も少なくありません。
2. 過活動膀胱で現れる症状
過活動膀胱診療ガイドライン 2015によると、過活動膀胱は「尿意切迫感を必須とした症状症候群であり、通常は頻尿と夜間頻尿を伴う」と定義されています。
少し言い回しが難しいので、まずはあまり聞き慣れない単語について説明します。
- 尿意切迫感:前ぶれなく我慢できないほど強い尿意が起こること
- 頻尿:1日8回以上排尿があること
- 夜間頻尿:就寝後、起床までに1回以上の排尿があること
また、上記以外にも症状が見られます。例えば、我慢できずに尿を漏らしてしまうこともあれば、突然襲ってくる尿意も強い不安を覚えることもあります。過活動膀胱は決して生命に関わる病気ではありませんが、生活の質(QOL:Quality Of Life)を損ねてしまうことがありうる病気なのです。
3. 多くの人が過活動膀胱に悩んでいる
「こんなことで悩んでいるのは自分だけだと思っていました」
受診をためらっていた理由をこのように打ち明けてくれる人は珍しくはありません。排尿の悩みは日常会話の話題とはなりにくく、「自分だけなのでは」と思い打ち明けづらくなりがちです。
実際のところ、排尿の悩みを抱えている人がどれくらいいるのかについてはっきりとは分かっていませんでしたが、近年の調査から多くの人が悩んでいることが見えてきました。
このようなデータの裏付けから、泌尿器科医の認識としては、40歳以上の日本人のうち10人に1人が過活動膀胱によって症状を自覚していると考えています。また、年齢が上がるにともなって、過活動膀胱の人の割合が増えることも分かっているので、高齢化が加速している日本では、患者数がますます増えていくと考えられています。
4. 過活動膀胱のセルフチェック
ここまでの説明で「自分にも過活動膀胱に思い当たる節がある」という人がいるかもしれません。そうなると、もう少し踏み込んで、自分の自覚症状が過活動膀胱によるものなのかが知りたいところです。
「過活動膀胱症状質問票(OABSS)」という質問票の問いに答えると、過活動膀胱の可能性が簡単に分かります。簡便さゆえ、この質問票は多くの医療機関で使われているものです。
過活動膀胱症状質問票(OABSS)
過活動膀胱症状質問表は4つの質問に答えて点数をつけていきます。試しに自分の状況を当てはめてみてください。
■質問①:朝起きた時から寝るときまでに何回くらい排尿をしましたか
回数 | 点数 |
7回以下 | 0点 |
8回から14回 | 1点 |
15回以上 | 2点 |
■質問②:夜寝てから朝起きるまでに何回くらい尿をするために起きましたか
回数 | 点数 |
0回 | 0点 |
1回 | 1点 |
2回 | 2点 |
3回 | 3点 |
■質問③:急に尿がしたくなり我慢が難しいことがありましたか
回数 | 点数 |
なし | 0点 |
週に1回より少ない | 1点 |
週に1回以上 | 2点 |
1日に1回くらい | 3点 |
1日に2回から4回 | 4点 |
1日に5回以上 | 5点 |
■質問④:急に尿がしたくなり我慢ができず尿を漏らすことがありましたか
回数 | 点数 |
なし | 0点 |
週に1回より少ない | 1点 |
週に1回以上 | 2点 |
1日に1回くらい | 3点 |
1日に2回から4回 | 4点 |
1日に5回以上 | 5点 |
質問票の結果が出たらどう考える
質問③の点数が2点以上でかつ合計点数が3点以上の場合は「過活動膀胱の可能性」があります。
また、点数が高いほど重症と考えられており、点数と重症度の関係は次のようになります。
- 軽症:3点から5点
- 中等症:6点から11点
- 重症:12点以上
過活動膀胱の可能性がある人は、尿検査や超音波検査といった詳しい検査を受ける必要があります。お近くの内科や泌尿器科などの医療機関で相談してみてください。また、排尿の悩みの原因は過活動膀胱以外にもありえます。質問票の結果、過活動膀胱の可能性が低い人であっても、排尿の悩みを相談したい人は受診をお勧めします。
5. 過活動膀胱の疑いがある人は医療機関で相談を
排尿について悩みを抱えている人は少なくありません。生命に関わることはほとんどないとはいえ、生活に支障をきたしたり、不安を感じたりしながら過ごす日々から解放される方法があることは知っておいて欲しいです。特に、今回紹介した「過活動膀胱」は飲み薬や生活習慣の改善(具体的な治療法については「こちらのページ」を参考)によって症状を良くすることができます。
「たかが排尿、されど排尿です。」
これを機に医療機関で相談して、ぜひ「排尿の悩み」をスッキリさせましょう。
執筆者
・「標準泌尿器科学」(赤座英之/監 並木幹夫、堀江重郎/編)、医学書院、2014
・「泌尿器科診療ガイド」(勝岡洋治/編)、金芳堂、2011
・「過活動膀胱診療ガイドライン 2015」
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。