多発性骨髄腫に対するペムブロリズマブの研究に実施保留命令
ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ®)はがん治療薬です。免疫チェックポイント阻害薬に分類され、体の免疫のしくみを利用して効果を現します。
アメリカでは2017年5月23日に、すべての臓器のがんに対して、がん細胞が持つ遺伝子の状態などが基準に合えば使用可能とする承認を受けています。
アメリカでペムブロリズマブを製造しているメルク社の7月5日の発表によると、アメリカの規制当局の食品医薬品局(FDA)が、多発性骨髄腫に対してペムブロリズマブによる治療を試していた3件の臨床試験の実施保留命令を出しました。3件の研究参加者はペムブロリズマブによる治療を中止します。
- KEYNOTE-183研究:難治性または再発後難治性の多発性骨髄腫に対して、ポマリドミドと低用量デキサメタゾンにペムブロリズマブを加える場合と加えない場合を比較する研究
- KEYNOTE-185研究:新たに診断され未治療の多発性骨髄腫に対してレナリドミドと低用量デキサメタゾンにペムブロリズマブを加える場合と加えない場合を比較する研究
- KEYNOTE-023研究:多発性骨髄腫に対して以前にレナリドミド・ポマリドミド・サリドマイドのいずれかの治療を受けたことがある患者に対して、レナリドミド・デキサメタゾン・ペムブロリズマブによる治療を評価する研究
3件のうち2件(KEYNOTE-183とKEYNOTE-185)で、ペムブロリズマブを使用していた対象者グループのほうが死亡数が多くなっていました。この2件について、メルク社は6月12日に、新たな参加者の登録を停止することを発表していました。
臨床試験での死亡と薬剤に関係があるかどうかは、現在公表されている情報から推測することはできません。
キイトルーダを使っていても大丈夫なのか?
ペムブロリズマブは2017年7月時点で、日本でも悪性黒色腫(皮膚がんの一種)と肺がんのうち条件に合うものの治療薬として承認されています。多発性骨髄腫に対しては保険診療の範囲内で使用されることはありません。
薬剤の安全性は、治療目的とする病気(適応症)、用法、用量などを厳しく決めた臨床試験によって確認されます。目的に対して許容できるだけの安全性が確認されたうえで承認され使用されています。つまり、現在ペムブロリズマブが処方されている状況においては、重い副作用が出る場合があるとしても全体として効果のほうが上回ることがすでに確かめられています。「思っていたより危険な薬だったのではないか」と考える必要はありません。
薬剤は適切に使用されたとしても、まれな副作用が承認後に見つかる場合があります。このため、医師は予想外の副作用が現れないか全身に注意を払って観察し、万一の場合にはすみやかに対処します。しかし、現れやすい副作用は承認までの臨床試験でほとんど発見されるため、承認された適応症・用法・用量に対しては、予想される副作用に備えたうえで治療を開始できます。
上で紹介した臨床試験の情報は、承認を目指していた過程のものです。同じ薬でも適応症などが違えば効果と安全性は改めて検証する必要があります。その目的は、万一未知の危険性が潜んでいた場合にもリスクに同意した人以外にはその危険性が及ばないようにするためとも言えます。
メルク社の発表には「患者の安全をメルクは第一に考えている」と記されています。
執筆者
Merck Provides Further Update on Three Multiple Myeloma Studies Evaluating KEYTRUDA® (pembrolizumab) in Combination with Pomalidomide or Lenalidomide.
MERCK News Release. 2017 July 5.
http://www.mrknewsroom.com/news-release/prescription-medicine-news/merck-provides-further-update-three-multiple-myeloma-studies※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。