術前化学療法後に残存腫瘍があるHER2陰性乳がんに対する術後カペシタビン
日本と韓国の研究班が、カペシタビンの有無で乳がんの治療効果を比較した研究の結果を医学誌『The New England Journal of Medicine』に報告しました。
この研究は以下のすべてに当てはまる人を対象としています(下記以外の条件は省略しています)。
- 20歳以上75歳未満の女性乳がん患者
- 診断時点でステージIからステージIIIBまでであり、がんをすべて取り除く目的の手術を受けた
- アントラサイクリン系薬剤またはタキサン系薬剤または両方を含む術前の抗がん剤治療を受けた
- 手術時に取り出した組織の検査によって、がん細胞が体に残っていることが確かめられた
- HER2陰性
HER2陰性とは、がん細胞が持っているタンパク質の状態を指します。HER2陰性の乳がんはトラスツズマブ(商品名ハーセプチン®)などの薬剤が使えません。
手術後の治療の違いによる効果が検討されました。対象者はランダムに2グループに分けられました。
- 手術後にカペシタビンを使用するグループ(カペシタビン群)
- 手術後にホルモン療法・放射線治療による標準治療を行うグループ(対照群)
グループごとに、乳がんの再発などがなく生存した期間が比較されました。
カペシタビンで無病生存期間が長くなった
治療から次の結果が得られました。
最終解析により、カペシタビン群のほうが対照群よりも無病生存期間が長いことが示された(5年時点で生存し、再発または第二のがんが存在しない患者は74.1% vs 67.6%、再発・第二のがん・または死亡のハザード比0.70、95%信頼区間0.53-0.92、P=0.01)。全生存期間はカペシタビン群のほうが対照群よりも長かった(5年時点で生存している患者は89.2% vs 83.6%、死亡のハザード比0.59、95%信頼区間0.39-0.90、P=0.01)。
カペシタビン群のほうが、再発などがなく生存した期間が長くなりました。5年時点で生存し、再発または第二のがんが存在しなかった患者は対照群のうち67.6%、カペシタビン群では74.1%でした。
5年時点で生存していた患者は対照群のうち83.6%、カペシタビン群のうち89.2%でした。
副作用については次の結果がありました。
カペシタビンに対する最も多い有害反応である手足症候群は、カペシタビン群の患者の73.4%に発生した。
最も多い副作用として、カペシタビン群の73.4%に手足症候群が現れました。手足症候群とは、手のひらや足の裏の赤み・痛みなどを特徴とする副作用です。
カペシタビンで乳がん治療がさらに前進?
乳がん治療の中でカペシタビンの効果を試した研究を紹介しました。当てはまる状況ではカペシタビンを使うことで5年後も9割近くの参加者が生存したという結果でした。カペシタビン(商品名ゼローダ)は2003年に販売開始された薬剤で、現在も乳がん治療の中で役割を持っています。この研究結果も今後参照されるかもしれません。
乳がんの治療はがんの状態などによって細かく場合分けされています。紹介した条件に当てはまらない場合でカペシタビンが有効かどうかをこの結果から推定することはできません。
すべての条件に当てはまる人は乳がん患者の中でも一部です。しかし、当てはまる人にとっては、生存期間を変える可能性がある選択肢は貴重です。
執筆者
Adjuvant Capecitabine for Breast Cancer after Preoperative Chemotherapy.
N Engl J Med. 2017 Jun 1.
[PMID: 28564564]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。