2017.05.13 | ニュース

グルテンを多く食べる人のほうが心臓の病気が少ない?

アメリカ11万人のデータから

from BMJ (Clinical research ed.)

グルテンを多く食べる人のほうが心臓の病気が少ない?の写真

グルテンフリー食はまれな病気の治療に使われますが、アメリカでは関係ない人まで巻き込まれていることが問題視されています。グルテンと病気の関係を実際のデータに基づいて解析した結果が報告されました。

アメリカの研究班が、統計データの解析からグルテンと冠動脈疾患の関連を計算し、結果を専門誌『BMJ』に報告しました。

 

アメリカでは、「グルテンは体に悪い」「グルテンを減らすと健康になる」という思い込みから厳しいグルテン制限をする人が増え、医学的問題とみなされています。

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グルテンは小麦など多くの食品に含まれています。セリアック病の治療ではグルテンを含む食品を一切摂らない厳しい食事制限(グルテンフリー食)も行われますが、非常に生活上の負担が大きい治療です。セリアック病がない人に理由なく勧められるものではありません。

 

冠動脈疾患とは狭心症や心筋梗塞を指します。体の中に慢性的な炎症があると冠動脈疾患を増やす方向に影響する場合があります。セリアック病では、グルテンを含む食事に体が反応して炎症を起こします。しかし、セリアック病の患者はまれにしかいません。

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セリアック病患者に限らない一般人口においてグルテンが冠動脈疾患に結び付くという考えは医学的に認められているとは言えません。この研究はその点を検証しようとしたものです。

 

この研究は、過去にアメリカで行われた2件の追跡調査のデータをもとにしています。2件の研究で行われた26年にわたる調査の結果として、64,714人の女性と45,303人の男性の食習慣と、その人たちが発病した病気の情報が得られました。

研究班は、食事調査の結果からグルテンの摂取量を計算し、グルテンと冠動脈疾患に統計的な関連があるかを調べました。

 

データの解析から次の結果が得られました。

最もグルテン摂取量が少ない1/5の参加者では冠動脈疾患の発生率が10万人年あたり352件だったが、それに比べて最も多い1/5の参加者では10万人年あたり277件であり[...]精製穀物の摂取量についても調整すると(それにより全粒穀物に対応するグルテン摂取量の分散が残り)、推定グルテン消費量は冠動脈疾患のリスクがより低いことと関連した(多変量ハザード比0.85、0.77-0.93、Ptrend=0.002)。

対象者をグルテンの消費量によって1/5ずつのグループに分けたとき、一番グルテンの消費量が少ないグループと多いグループを比べると、冠動脈疾患の発生率には統計的な差がありませんでした

ただし、グルテンを多く消費するグループでは精製穀物と全粒穀物の消費量がどちらも多いと考えられます。それぞれの影響を分けて検討するため、計算上精製穀物の摂取量による違いを差し引くと、グルテンの消費量が多いグループのほうが冠動脈疾患の発生率が低くなっていました

研究班は結論として「長期的に食事からのグルテンの摂取量は冠動脈疾患のリスクと関連しなかった。しかし、グルテンを避けることは有益な全粒穀物の消費を減らすことにつながるかもしれない。すると心血管系のリスクに影響があるかもしれない。セリアック病のない人たちの間でグルテンフリー食を宣伝することは助長するべきでない」と述べています。

 

グルテンを多く摂取するほうが、全粒穀物が多くなることを通じて、冠動脈疾患の発生率を減らすかもしれないという研究結果を紹介しました。

この結果は仮定に仮定を重ねた計算上のものです。「心臓病の予防のためにもっとグルテンを食べよう」と考えるには足りないと言うべきでしょう。

むしろ、グルテンや全粒穀物が健康に及ぼす影響は計算上の細かい調整だけで覆ってしまうこと、にもかかわらず根拠不明のまま「グルテンは体に悪い」という考えが独り歩きしている事態の危うさこそが読み取れるのではないでしょうか。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Long term gluten consumption in adults without celiac disease and risk of coronary heart disease: prospective cohort study.

BMJ. 2017 May 2.

[PMID: 28465308] http://www.bmj.com/content/357/bmj.j1892

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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